ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inubot。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第14回は、犬との会話のポイントと、妹の引っ越し、そして5年目の記念日のこと。
まだ5年?もう5年?今年も8月11日を迎えることができて本当によかった
もともと休日に外出するよりも家でいることを好むタイプであったが、犬がやってきてからというもの、輪をかけて出不精になった。
すべての画像を見る(全28枚)犬がいるから行けないのではなく、私が犬と家でいたいから行かない。休みをつくって旅行ということもないが、写真の制作活動や仕事で遠方に出向くことは時々ある。
泊まりで出かける予定があるときは帰りが2日後でも5日後でも、犬に報告していくことが習慣になっている。その報告の仕方もいろいろと試しながら変化していった。
たとえば帰りが5日後になる場合、はじめの頃は童謡「お正月」の歌詞にある「もういくつ寝るとお正月」の数え方を真似て「4回眠ったら帰ってきます」と伝えていた。5日後に帰ってくるというよりもわかりやすいと思ったからだ。
だがここで問題がひとつ生じた、犬はよく昼寝をしている。
日中寝たり起きたりを繰り返しているので、もしそれらも1回ずつカウントしていたら、遅くとも2日目の夜には帰らないと嘘をついたことになってしまうのだ。それはお互いにいいことではないので少しだけ言い方を変えるようにして、今は「夜を4回越したら帰ってきます」と伝えている。都会の真ん中でも山深い地でも、夜は等しく去っていく。
この報告が伝わっているかはわからないが、黙って出かけるのはなんだか心の中にしこりが残る。しかし犬もこの報告を普段のお喋りとはなにか違うと聞き分けているように思えてしまうのは、報告の最中から静かにじっと目を見つめてくるからである。
報告を終えても見つめ続ける視線に気圧されそうにもなるがそらさず、ただ帰ってくる日を繰り返すのである。
妹が帰ってくるよと話しかけたときもハッと顔を上げてこちらを見るが、そのときの表情とも違うのだ。
ここ最近、妹も犬にひとつ報告をしていった。妹は隣県で働いていたが、少し遠くに転勤することになったのだ。
これまでは仕事終わりにうちに帰ってくることもできたので、よく顔を見せてくれていた。彼女が帰ってくるのは犬に会いたい一心である。
栄転であり喜ばしいことだが、一方でしくしくと寂しさが募る。母からはいい大人やねんからと呆れられたが、これからメイク落としを私一人で消耗するなんてことは大人であっても寂しい。
引越しの数日前、仕事終わりに帰ってくることになった。
妹を迎えにいくときに犬を誘おうとしたが、土間にある長椅子の下で気持ちよさそうに眠っていたので起こすのも悪いなと、靴を履き替えはじめた。すると長椅子の下からズザッ! と勢いよく飛び出してきて、ぐ~っと手を前についておしりを高く上げて全身を伸ばした。水をしっかり飲むと、やはりこちらを見上げるのだ。
一緒に行こうか。仕事終わりの妹を迎えにいくのは当分ないだろうし。
うちに着くと、母が妹の晩御飯を温め直してくれていた。妹はありがとうと感謝しつつ空腹を嘆きつつ、ああでもまずは…と犬をなでた。そして「犬ちゃん、会社からね」と辞令が出たこと、引っ越さねばならないことを報告しはじめた。
妹の言葉に、三角の耳を傾けてくれているように思うのは、姉の欲目だろうか。しかし犬も話の内容を理解しているかはともかく、自分に話しかけられているということは感じているのではないだろうか。
ひと通り報告を終えて、まあまた帰ってくるからね! と額から後頭部にかけてわしわしとなでれば、仏間にも報告をしに駆けていった。犬がどんな感情なのか私には読めなかったが、その夜が明けた朝もずっと妹のうしろにくっついて、近くにいたがった。
どうか新天地でも、健やかに、彼女らしく。