画廊と美術館での学芸員経験をもち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さん(75歳)は、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。年金節約者の小笠原さんの暮らしのモットーは、楽しみながら節約生活を続けること。今回は、節約のために必要な「ものを大切にすること」についてつづってくれました。

小笠原洋子
小笠原洋子さん
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節約生活を長く続けるために大切なのは「ものを大事にする」こと

「無駄使いは決してしない!」と、節約生活に正面から挑んでいるという方も、いらっしゃると思います。私もそのひとりです。それでも、欲しい欲望がふつふつとわき起こり、どれもこれもを退けようとする闘いはそう簡単でありません。ときには、どんなに困窮していたとしても、手に入れようとしてしまうこともあるようです。

それでもなお、私の場合は「節約生活をしたい」という思いのほうが強いので、今持っているものをできるだけ劣化させないよう、大事に扱うことを心がけています。

眠っていたものを見直してみると、思いもよらない使い道が生まれる

歯切れ
捨てようと思っていた金の端切れがこのようにオブジェに生まれ変わりました

たとえば、押し入れの奥のほうに埋もれていたハギレ。その中の一枚は金糸で織った光沢のある素材だったので珍しく思い、何十年も捨てがたかく取ってあったのです。最近それを思い出し、「もしやカビでも生えるかもしれない。今こそ処分しよう」と思ったのです。

そのときです! 捨てるのなら最後にこれで惜しみなく遊んでみよう。もし工夫できれば実生活の中で活用してみようと思いついたのです。どうせ捨てるならなんでもできますよね。

大事にするということは、そのものの持つ価値を改めて探り直すことだと、私はこのとき気がつきました。たとえるなら、「二度見」することなのです。押し入れに入れっぱなしにせず、しっかりその存在を見ておくことです。

「二度見」した結果、私はこの金属製のように密に織られたハギレを、思いのまま、ただハサミを動かしやすい奔放な形に切り刻んでいったのです。20枚ほどなにも意図せず切っていくと、どれも葉っぱのような形になり、それを並べてみると黄葉したイチョウのようでもあり、朝日を浴びる路傍のプラタナスのようにも見えます。

次の連想は、これを糸で吊るしてみたら、落ち葉が散るようでおもしろいだろうなということでした。壁にハギレ製の落ち葉をぶら下げてみたら、風に吹かれる黄金の枯れ葉のように見えるかもしれない。そう思い、木の葉型の一枚一枚に糸を通し、それらを、端切れが巻いてあった芯棒にぶら下げて壁にかけてみました。

芯棒には体裁よくリボンを飾ってみました。さらに、たまたま知人からいただいた鳩の形の金のステンシルが、この木の葉と共に飾れたことはなんという奇遇だったことでしょう。