ここ数年、「バブル」ともいえるほど盛り上がりを見せている首都圏の中学受験。しかし、受験は経済的にも精神的にも負担が大きいもの。このブームに乗るべきかどうか、迷っている家庭も多いのではないでしょうか。そこで、スタートラインに立つ前に知っておきたい「中学受験の基本の『き』」について、現代の受験事情に詳しく、元塾講師で中学入試の過去問題集を出版する「声の教育社」の常務取締役・後藤和浩さんが解説。受験するとどんなメリットがあるのか、逆にどんな注意点があるのかについて、お話を伺いました。
‟中受バブル”の発端はコロナ禍。私学の「学びを止めない姿勢」が評価された
すべての画像を見る(全2枚)「首都圏模試センター」によると、1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)に在住する小学6年生の受験率は10年連続で増加し、今年はなんと18.12%(推計)と過去最高を記録。少子化の影響で、受験者の実数は減少傾向にあるものの、円安や物価高などで決して景気がいいとはいえないこのご時世、なぜこれほどまでに多くの家庭が、中学受験に挑戦するようになったのでしょうか。
「最も大きなきっかけは、やはりコロナ禍です。緊急事態宣言などで通学がストップした際、私学は公立に比べてオンライン授業に切り替えるなどの対応が速かったため。予期せぬ事態にも『学びを止めない』という姿勢が評価され、一気に私学志向が高まったといえます。
これまでも社会不安と中学受験の間には密接な関係があり、震災やリーマンショック後には、中学受験者数が減少するということがありました。ところが、今回は受験人気が冷めずに高止まりしています。『受験は高校からでいいか』と考える層が減り、経済的に問題がなければ中学受験を選ぶ家庭が圧倒的に多くなっていることを感じます」(後藤さん、以下同)
1.私学のメリットのひとつは、大学入試のアドバンテージを得られること
とはいえ、中学受験で得られるメリットは、実際に経験してみないとわからないもの。プロの目から見ると、“中受”にはどんないいことがあるのでしょうか。
「1つ目に挙げられるのが、変わりゆく大学入試への対応力を身に付けられること。大学入試改革により、2025年に大学入試の内容がまた大きく変わります。それに伴い、親世代のときのような一問一答形式やマニアックな知識を求めるようなものではなく、解答の表現であったり、答えにたどり着くまでのプロセスを評価するような問題が増えてきているんです。そういった多様な問題に対応するには、いかに多くの『体験・思考』をしてきたかが重要です」
公立中学と比較すると、私学は体験プログラムをカリキュラムに組み込んだり、普段の授業でも双方向性の思考を深めるディスカッション形式を取り入れている学校が多いため、必然的に大学入試へのアドバンテージを得られるといいます。
「今後、多くの大学が段階的に総合型選抜入試(評価の方法を学力のみに限らない入試)での選抜人数を増やし、近いうちにその割合は5割を超えるともいわれています。そうなるとますます、中高でどんな『体験』をしてきたか、ということが重要になってくると思われます」
2.6年一貫のカリキュラムで、大学進学時のミスマッチを減らせる
さらに、授業の進度も公立とは大きく異なり、それが後々プラスに働くことが多いといいます。
「効率的な先取り授業が受けられること、これが2つ目のメリットだと思います。たとえば社会科の歴史をとってみても、中高で重複する学習内容が一定量ありますが、6年一貫のカリキュラムなら、その重なっている部分を省くことで、無理なく学習を前に進めることが可能に。時間に余裕ができる分、先生方のフォローアップも手厚くなります。
さらに、余った時間で、早い段階から大学で学ぶような専門知識に触れさせる私学が多いため、それが大学選択時の学部学科のミスマッチを減らすことにつながっているようです」