ペットの柴犬の写真をX(旧Twitter)に投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。第69回は「犬の老いに戸惑った出来事」についてです。
すべての画像を見る(全14枚)いつもと変わらない「日常」のはずだったのに…
もうすぐ犬は10歳の誕生日を迎える。犬は7歳からシニアと言われるが、人間と同じくシニアにも段階がある。7歳8歳なんてまだまだ青年期の延長だった。
だが9歳も半ばを過ぎると今までと比べたら白髪も生えてきて、「犬ちゃん色白になったね」と言われるようにもなった。
ゆるやかな変化ではあるが、たしかに老いを感じている。そして3月、ある出来事が起きた。
3月21日17時頃、私と犬はいつも通り30分ほど散歩して、帰宅した。犬は土間でお水を飲むと、トントンッと軽やかな足取りで居間に上がった。そして身体を休めるようにくつろぎはじめて、まぶたを伏せた。
19時頃、私が風呂場に行こうとしたら、居間から視線を感じた。見やれば、こちらに向かって座っている犬とバチ! と目が合った。いたって日常である。犬の定位置である居間からの見通しが非常によく、ときには直線上にある私の部屋からでも目が合うのだ。
だからなにも不思議ではない、よくあること。だけどもなぜかこのときは犬の佇まいに違和感を覚えた。感覚なので“なんかおかしい”としか言えないが、犬の雰囲気が不穏めいていた。
「犬、どしたん」と近づくと、「…」犬は無言でじっとしているまま。犬の額に左手を置いて後頭部を通って顎へ、半円を描くように撫でた。具合が悪いのか? 怪我? それならいったいどこが障るのか? 背中、胸、おなか、四肢を撫でる。
すると犬はゆっくりと、ゆっくりとではないといけない様子で、立ち上がる。そして土間へ降りたそうにしては段差を前にまごついて、ふたたび座り込んだ。
「うしろ足、気色悪いん?」「…」母を呼んで共有する。外傷はない。吐いたりはしない。おやつを口に運ぶと食べるしお水も飲む。しかし後ろ足がどうしてだか、力がうまく入らない。意気消沈している背中をひたすら撫でる。
もしかしたら痺れていただけとかで、コロっと調子が戻るかもと様子を見ていたが、そんなことはなかった。今夜は安静にして、翌朝いちばんに病院で診てもらおう。横たわると片足が下敷きになるのも辛そうで、腹ばいになって眠った。犬は鳴かなかった。
22時頃、犬は目を覚ますと、降りれなかった段差をそろりそろりと降りていた。待ち望んでいた足音をそばで聞いていて安堵した。しかしまだ調子が悪そうだ。可哀想でならない。犬の痛みを私の身体に移してくれと切に願う。
夕方の散歩中もしっかりと歩いて、帰ってきてからも変わった様子もなかった。昨日は? 一昨日は? 今週は? 先週は? と振り返る。転倒したりぶつけたり思い当たる節はないが、それって私の希望だろうか。そもそも四六時中すべてを見れているわけでもない。
阿呆みたいやけど、改めて、犬ってヒト語をしゃべらんのよな。私かてイヌ語しゃべれやんしお互い様やけど。しんどくても言えやんのよな。やけど、やけども、伝わらないもどかしさを、犬に感じてほしくない。