2017年の12月、25歳のときに左胸のしこりに気づき、翌年初めの検査結果で若年性の乳がんが発覚した、元SKE48でタレントの矢方美紀さん。
芸能活動のかたわら、2018年4月に左乳房の全摘出とリンパ節切除の手術を受け、5~9月までは抗がん剤治療、のちに放射線治療を受けたのち、10月からは約10年間続くホルモン注射をスタートさせて、現在に至っています。
2019年4月の検診では、再発や転移がなかったことが判明。そんな矢方さんに、乳がん闘病を経て感じたこと、知ってもらいたいことを伺いました。
25歳で乳がんに。矢方美紀さんが乳がんを経て変わったこと、感じたこと
●持病があることは特別なことではない
現在、国の調査では10代~30代まででがんにかかる人は年間約2万人いることがわかっています。思春期、若年成人にあたるこの年齢は「Adolescent and Young Adult」の頭文字を取り、「AYA世代」と呼ばれ、進学、就職、結婚、出産など人生の節目を迎えます。
乳がんになる前は、病気とは無縁だった矢方さんですが、この1年半で自分の体との向き合い方、そして周囲との関りについて考える機会が大きく増えました。
「若年性乳がんの患者とくくられるAYA世代は、15歳~39歳と幅広く、実際には少なくない数の方が闘病されていることを、私自身も病気を公表して初めて知りました。私よりも若い20代前半から乳がんと闘っている方もいます。なかには公表すると日常生活や人間関係に差し障りがあるのではないかと、隠して仕事へ行ったり、家事や子育てをしている方も大勢います。こうした現実を知って、若くして持病をもつのはだれにでも起こりえるし、特別な出来事ではないんだと意識が変わりました」
今は、なにかの拍子に人から「通院してます」と言われても、フラットに接することができるようになったという矢方さん。
「闘病中の身からしても、周りに持病のある方がいたら、少しでもその疾患について調べたりして、理解を深めてもらえるとありがたいです。今、私が受けているホルモン治療の副作用では、ホットフラッシュというのぼせ症状が出るんです。それこそ昨年末から今年の冬は、みんながダウンやセーターを着ている場所で、一人だけTシャツ姿でないといられない、なんてこともありました。周りから見たら不思議かもしれませんが、仕方がないんですよね。こういう事実も私は発信したいし、伝えることで病気の当事者以外にも、みんなさまざまな体調を抱えながら生きていると受け止められる環境をつくっていきたいと思っています」
とくにAYA世代の女性には、セルフチェックの重要性を知ってほしいといいます。
「仕事や家庭優先で自分が後回しになりがちだからこそ、セルフチェックを習慣づけてもらえたら。乳がんを探すと考えると怖くなってしまうので、“今の自分の体の状態を知る”と考えればいいと思います。もし異変に気がつけば、病院で行える治療があります。がんといえば、テレビの再現VTRやドラマで演出される、苦しい面ばかりを想像しがちですが、そこに捉われないことも大切。私のように寝たきりにもならず、体調と折り合いをつけながら完治を目指す人がいるのも知っていただけたらうれしいです」
●じつは自信がもてなかったアイドル時代
じつはアイドル時代はかわいいメンバーに囲まれて、どこか萎縮していた自分がいたという矢方さん。しかし乳がんが発覚したこの1年半で、人間的には大きく成長したと語ります。
「自分よりかわいい子や歌がうまい子がたくさんいたので、『自分なんて』って思ってしまったんです。SKE48としてテレビに出演しても、なにを話していいのかわからなかったり…。遠慮しがちで、正直、自分の人生なのに楽しめていなかった部分がありました」
がんを公表した当初も、「なぜ公表したのですか」という質問に、どうやって答えたらいいのかと悩んでいたほど。ですが、病気について取材されたりイベントなどで話をしたりする機会が増えるなかで、「いつまでも恥ずかしがり屋で、うまく話せないままではダメだ」と、自分自身が変わっていきました。
「治療のかたわら、芸能の仕事の大切な基礎を学ぶレッスンに通ったことで、自分のおかれている状況が理解できたとともに、話すことにも徐々に自信がもてるようになったんです。もし失敗しても、反省して、また次に生かしていけばいいやって。そして、ちゃんと自分という存在を、芸能のお仕事にも生かしていきたいと思えるようになりました」
少し前に、元AKB48の高橋みなみさんのラジオに出演したときも、成長を実感したそう。
「たかみなさんとは、SKE48時代は1回もちゃんと話したことがなかったんです。1年前の自分なら、生放送で30分もなにを話していいかわからなかったと思うんですが、『この番組でどういうことを話せば、私ならではの仕事ができるか』と意識しながら話すことができました。たかみなさんにも『え、こんなにしっかりした子だった?』と言ってもらえて、うれしかったですね」
●自分の価値は外見じゃないと知った
外見が厳しくジャッジされる芸能界ですが、治療の過程で見た目が変わってしまうことも、受け入れられるようになったといいます。
「抗がん剤の副作用で髪や眉毛やまつ毛が抜けちゃったときは、もちろんショックでしたし、ウィッグも、やっぱりどう使ってもヅラはヅラじゃん! って思いもありました(笑)。鏡の前にいるむくんだ自分の顔を見て、どうしよう…と落ち込んだ日も。でも髪だって、なきゃないで『笑いに変えることもできるかもしれない』と思えるようになりました。それに、病気になって、ありのままの姿を公表したことで、『そんな美紀ちゃんだから好きなんだ』『あなたの内面や考え方も含めて応援しているから』と言っていただける機会が増えて。周囲の人たちの優しさを改めて知ることもできました」
不思議なことに、以前よりも自分に自信がついた気がするそう。
「乳がんのことをニュースで取り上げていただくと、『ブス』とか、病気と関係ないネガティブなコメントを書かれることもあります。でも、『こういうことを書く人とは一生会うことはないし』って思えるようになって、今はまったく気になりません」
これからも治療は続きますが、「私の人生だってまだこれから」と話す矢方さん。
「夢だった声優業でも大成したいですし、プライベートではエジプトへ観光旅行もしてみたいです。人生一度きり。病気にすべてを巻き取られることなく、やりたいことをやっていきたいと思っています」
そんな矢方さんの闘病をNHK名古屋放送局が1年間にわたり取材したドキュメンタリー番組『
26歳の乳がんダイアリー 矢方美紀』が、5月2日(木)21時より、BS1にて放送予定。また、この番組をもとにした書籍『きっと大丈夫。~私の乳がんダイアリー~』(双葉社刊)が発売中。ぜひこちらもチェックしてみてください。
このインタビューの第1弾 「乳がんでも普通の生活はできる。矢方美紀さんインタビュー(1) 」はこちらから