明るく使いやすくリノベーションした古民家に暮らす家族と、大きなデッキが目を引く木の香りのする新築に住む家族。都心からのアクセスがよく、自然豊かな東京都青梅市には近年、移住者が増えています。そんな青梅で理想的な住まいを実現した2つの家族を紹介。そこには快適な移住生活のヒントがありました。
家族1:竹林に建つ古民家を見つけてリノベーション
●家族構成 夫、妻、長男、長女 都内から移住
駅から多摩川方面へ歩くこと約10分。大型スーパーが並ぶ都心とあまり変わらない駅前の雰囲気からは想像できない、のどかな景色が広がります。
竹林を背景にした築95年の古民家に住むのは、笠井さん夫妻。仕事が多忙なため、世田谷区で職住接近の暮らしをしていたふたりが自分たちの家をもつことを考えたときに思い描いたのは、「緑の中にある古い家」でした。
「新品ではなく、時間の経過が感じられるものが好き」という妻と「リフォームしながら家を育てていきたい」という夫のイメージに近いこの家に出合い、昔ながらのつくりをリノベーションして暮らすことを決意しました。
夫婦ともに建物が好きで、デザインはふたりで行い、青梅の大工さんに相談して工事をしてもらいました。
●高窓から光の入る明るいキッチン
玄関を入ると、すぐ目に入るのが、光が降り注ぐ開放的なキッチン。南東に面し、東の吹き抜けの高窓から取り入れた外光がまぶしく、ひときわ明るい空間です。
シンクと一体化したカウンターのイスに腰かければ、前の窓からは緑に囲まれた神社、南側のもとは正面玄関だったガラス張りの扉から、庭をのぞむことができます。
「もっともお気に入りの場所です。朝の光が入っているときも、日が沈んでキャンドルをともしたときも」(妻)
キッチンは夫がつくりあげたもの。カットした板材で箱組みをつくり、部品を入れ込んでタイルを貼って仕上げてあります。
「収納を考えて組み立ててあるので使いやすく機能的です」と妻。夫は「古民家はメンテナンスが必要なもの。これから何十年も住むのだから、自分でつくったり、直したりするスキルが必要だと思いDIYをはじめました」といいます。
本や雑貨が整然と美しく並べられた静謐なたたずまいが印象的な書斎の棚も、古いダイニングテーブルの天板を使った重厚な雰囲気の仕事用の机もお手製です。
●和室はそのままに、古民家のよさを生かす
土間から続く和室は、畳を変えただけ。暖かな日差しが差し込む縁側も昔のまま。「古きよきつくりはそのまま生かす」が、ふたりの考えです。
廊下が多いのも、昔ながらの住まいの特徴。突き当りには、こんもりとしたアナベルや、「庭で立ち枯れた姿が美しかった」穂紫蘇を花器にいけて飾ったり、ゴッホが描いた明るい色調のクロスを貼ったり。
さりげないしつらえが「過去」に「今」を彩っています。
「解体作業をしていると、意匠の古い建具が出てきました」(夫)。職人の手仕事が生きた複雑な格子、すりガラスの古建具はエントランスに面した廊下にはめこまれ、家の外観をどこかモダンな印象にしています。
「都心のマンション住まいのときは『お金でものを買う』受け身な生活だったけれど、今は『自分で考えてつくる』ことが豊かなことだと感じています。それが古民家に住むよさだと思います」(妻)
手を入れて育てた空間は、日々の生活を彩り豊かにしているよう。「ご飯を食べる場所は決まっていません。季節、お天気や時間次第で気分に合わせて家のあちこち。土間のテーブルや、和室、縁側…。好きな場所に移動しています」と笑いながら妻が教えてくれました。
この家に暮らし始めてから誕生した双子の子どもたちも、「今日はここでご飯を食べる!」と楽しそうに宣言しているそうです。
●毎日がグランピングみたいな青梅の古民家暮らし
四季や時間によって変わる、家の景色を楽しむ暮らしが実現できたのは「自然豊かな青梅という場所だからこそ」とふたりは語ります。
「古民家は、断熱の面からいえば隙間もあってあまりよくないかもしれません。でもその分、窓を開けなくても鳥の声や風の音が聞こえてきます」と夫がいうと、「家にいても外とのつながりを感じられる。『毎日がグランピング』みたい(笑)」と妻も同意します。
「仕事に軸足をおいて休日だけ自然」という生活をするより、「毎日グランピングしているなかで、仕事している」という感じが心地いいのだそう。
そして、青梅は都心への距離感もほどよい、と妻は語ります。妻は、完全在宅で仕事をしていますが、夫は基本テレワークをしつつ、打ち合わせなどで定期的に都心へ出る必要があります。
「東京とのつながりはほしかった。青梅はその点、便利。完璧な地方移住という感覚はなくて、引っ越しのイメージですね」(妻)
また子育ての面でも、大いにこの環境に助けられているそうです。「都心とは違って、ご近所のみなさんとのおつき合いがあって、気にかけてくださるのがありがたいです。広々とした公園もたくさんあり、うれしい」と妻は教えてくれました。
●これまでできなかったことが移住で実現
休日の「青梅ふらっとお出かけ」も楽しいそう。
「みんな青梅まで登山のスタイルでがんばって早起きしてやってくるのに、わたしたちは寝起きの感じでふらっと出かけて、山の中を散歩して、川を見ながらおいしいお酒を飲んで昼前に帰ってくる、みたいな(笑)。うらやましいと言われます」(妻)
青梅暮らしは「これまでできなかったことを実現させてくれる」機会にもなったようです。「ふらっと自然散歩、畑にあるものを使ってゆっくり料理をしたり、保存食をつくったり。あっ、ネコも飼えました!」と妻。
人見知りなネコは、残念ながら、かつて下宿として使われていた2階にこもったままでした。「2階はまだ未修繕なんです。子どもたちが大きくなる前に始めなくちゃ」と夫。ふたりが「これまでとこれから」という時の融合を楽しみながら育む家は、家族の未来を育むたしかな足場になっているようです。
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家族2:薪ストーブのある木の家を地元工務店で実現
●家族構成 夫、妻、長男 都内から移住
玄関を入ると、清々しい木の香り。無垢の木をふんだんに使った温もりあふれる家に迎え入れてくれたのは、井上了一さん、洋子さんご夫妻。職場が青梅になったことをきっかけに、クライミングや、スキーが趣味だった了一さんは「自分に合っている」と新宿区から青梅へ住まいを移しました。
新居を構えるにあたって、イメージしたのは長年思い描いていたログハウス風の木の家、そして薪ストーブのある暮らし。その念願かなって2017年、多摩川をのぞむ、木々に囲まれたロケーションを確保できました。
この環境を生かした木の家を建てるために、建築を依頼したのは地元、青梅の工務店。木造住宅と神社仏閣を中心に建築を行い、高い技術をもつことが決め手になったそう。
「目指す家のために、自らしっかりと家づくりに関りたい」と思った了一さん。仕事の合間に建築現場に足を運び、大工さんたちと相談を重ねました。
「窓の高さは平面図や立面図では確認していましたが、実際に現場で見てみるとイメージと違うことも。そんなときもその場でリクエストして、対応してもらえました」と了一さん。「同時に、リビングやキッチンは思いきり天井を高くしたかったのですが、工務店がそれに応えてくれて、イメージどおりの空間になりましたね」。
開放感あふれる広々としたリビングは、漆喰壁の白に、上質な風合いの無垢材が映える心地よい空間。南側に大きくとった窓の外には木立が広がり、リビングにつなげたウッドデッキは雑木林へと誘うアプローチのよう。家の中にいても「自然とのつながり」を体感できます。
「この家に住んで、テレビをつけることがなくなりました」と洋子さん。「心地よい静けさのなかで、木々を眺めて読書するのが幸せ。家の中にハンモックをつり下げてのんびりすることもあります」。
●家族の気配が感じられる、川を望むキッチンを希望
そんな洋子さんが新居建築にあたってリクエストしたのは、「家族の気配を感じる家」であること。その結果、壁は少なく屋根まで高い吹き抜けが設けられ、了一さんや5歳になる長男が2階や屋根裏にいても気配が伝わります。
そして「キッチンは川を眺められること」。こちらも、リクエスト通り。さらに、カップボードなどキッチン収納もすべて工務店にオーダーメードしたことで、使いやすく、居心地のよい空間に仕上がりました。
リビングには、了一さん念願の薪ストーブが備えられています。炉壁は、自らレンガでつくりました。「火のある暮らしは想像以上にいいものでした」と了一さん。「温かみがあるし、家をくまなく暖めてくれる恩恵もあります。朝起きて火をつけて、炎を見ながらコーヒーを飲んでいる時間が楽しいですね」。洋子さんも「ホッとさせてくれる存在です」とうなずきます。
長男は「薪ストーブでつくった焼きイモは、超おいしい!」。「夏でも思わずつくってしまって。暑くて倒れそうでした(笑)」とのことですが、薪ストーブは家族にあたたかな気持ちをともす、やさしい存在のようです。
●川に面した庭はこの家のテーマパーク
井上家にとって大切な空間は屋内だけではありません。ウッドデッキ下にある庭、そこはまさに、井上家のテーマパーク!
了一さん自作のボルタリング壁の下には、「せっかく川が下にあるので」と始めたカヌーが置かれ、ニンジン、タマネギ、スナップエンドウ、大根、ジャガイモが育つ家庭菜園が。そしてなんとミツバチの巣箱まで!
「昨年、ミツバチが入っておいしいハチミツを採取できました」と了一さん。「青梅というすばらしい自然環境にいるのだから、なんでもトライしてみたい、と思うんです」。
結婚するまで都心で暮らしていた洋子さんは青梅で暮らし始めてから「180度人生が変わった」そう。
「これまで自然とは無縁。それが今は、家庭菜園で野菜をつくって、苦手な虫も平気になりました。取れたての野菜を使えるのだからと、これまであまりしなかった料理もするように。『私ってこんなことができたんだ!』と驚いています(笑)」
了一さんは青梅に来たことで、新たな人とのつながりができたことがよかった、と語ります。「青梅を盛り上げようとしている人々と一緒に、古い店舗のリノベーションをしたり、ツリーハウスをつくったり。新たな出合いが仕事以外の時間を充実させてくれました」。
そんな活動から、もともと好きだったDIYにもさらに力が入り、設えたガレージには工具がズラリ。チェーンソーは4台も!「今後は庭にツリーハウスをつくろうと思っています」と意気込む了一さん。子どもにとっても「青梅を満喫するパパの影響は大きい」と洋子さんは語ります。
「私とオモチャで遊んでいた息子も成長して、『パパのようにいろいろやってみたい』と言うようになりました」と洋子さん。「ふたりで、こんなことしたい、と設計図をつくるのを見ると、このおうちがもっともっと満たされた空間になっていくのかな、と楽しみです」
青梅という場所は井上家にとって、「家族全員でワクワクする」毎日のすてきなステージになっているようでした。
青梅市で自由な発想のリノベコンテストを開催
そんな青梅市では、「青梅市わがままライフコンテスト」を開催しています。このコンテストは、青梅市で増えている空き家や遊休地を活用して自分らしい生き方を提案するもの。
今回は「わがまま」をテーマに、一般の人からも自由な発想を求めています。具体的な物件を想定するのではなく、「空き家をこんなふうにリノベーションしたら楽しそう」「休眠地を生かしてこんなことをやりたい」といった自由なアイデアを送ればOKという自由なコンテスト。
子どもから大人まで、さまざまな層の人からユニークなアイデアを募集しています。
このコンテストには以下の5つの賞が用意されています。
●最優秀賞
すべての審査基準を満たす提案
●コミュニティ賞
空間と人の集い方がもっともおもしろいアイデア
●空き家活用賞
空き家の使い方がもっともユニークで実現性の高いアイデア
●SDGs賞
SDGsのテーマへ貢献度がもっとも高いアイデア
●ユニーク賞
実現性よりもアイデアがもっともユニークだったもの
最優秀賞受賞者には20万円分、各章受賞者にはそれぞれ5万円分の青梅市特産品が贈られます。さらに最優秀賞はイラスト化して公表予定。
審査委員にはモデルやラジオナビゲーターとして活躍中の長谷川ミラさんや建築家、まちづくりの専門家など多彩なメンバーが参加します。
作品の提出期限は2024年3月8日まで。だれでも気軽に参加できるコンテストなので、ぜひ、応募してみてください!
問い合わせ先/青梅市わがままライフコンテスト事務局(問い合わせメール)