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冷蔵庫も洗濯機もなく、電気代が高騰中の今も1か月の電気代は230円程度。電気やガスを使わなくなったら、家事がおもしろくなり、将来への不安もなくなったというコラムニストの稲垣えみ子さんの暮らしを紹介します。

記事の初出は2023年6月。年齢など内容は執筆時の状況です。

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稲垣えみ子さんの電気・ガスを使わない暮らし

50歳で勤めていた新聞社を退職し、暮らし方を大きく変えたという稲垣さん。今では無理をすることなく、電気・ガスを使わない暮らしを実践しているそうです。

●電気とものを手放したら暮らしがおもしろくなった

稲垣えみ子さん
使っている照明は画像左奥のフロアライトだけ。ベランダでは干し野菜を製作中。キッチンには保存食を常備。稲垣さんの電気・ガスを使わない暮らしは、毎日を楽しむ工夫でいっぱいです。
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2011年の原発事故を機に、家電を次々に処分し、今では電気もガスもほぼ使わずに暮らしている稲垣さん。

「使っているのはスマホ、パソコン、ラジオ、フロアライト1灯だけ。天井のライトはこの部屋を借りたときについてきたもので、じつは一度もスイッチを入れたことがないんです」

以前はたくさんの家電やものに囲まれ、冷蔵庫やエアコンのない生活など、想像もしたことがなかったそう。

「当時住んでいた関西では、電力の半分を原発が担っていたので、私自身の電気代も半分にしようと思ったのが始まりでした。さまざまな節電対策を行いましたが、努力の割に効果は少なくて。発想を変え、電気はないものと思って暮らすことにしたのです」

すると、暮らしの感覚が、ガラリと変わっていったといいます。

「テレビもエアコンも消し、電灯をつけない暗い部屋では、月の光が明るく感じ、窓をあけると虫の声が聞こえてきます。さらに、電気を使わない生活に慣れてくると、都会にいても季節が巡り、風や湿度、日の光が日々違うのを感じるようになっていきました」

家事も、掃除機をやめてホウキとぞうきんにしたら、汚れが取れるのが楽しく感じたり、冷蔵庫をやめたら、その都度つくる1食200円程度の“地味メシ”のおいしさにしみじみしたり。

●必要と思っていたものもなければなんとかなるもの

稲垣さんは50歳のときに会社を早期退職しています。

「定年後を考えると、“お金を使わないとハッピーになれない”という生活態度を変えないとヤバイと思ったんです。電気をなるべく使わない暮らしをしていたことで、“ない”ことってじつは案外おもしろいと実感していたことも、背中を押してくれました」

それまで住んでいた高級マンションから築45年の収納なしワンルームに引っ越し。必要に迫られ、もっていたものの大半を処分したそうです。

「不安でしたけど、意外となんとかなりました。というより、もののない暮らしの方が豊か、と気づいたんです」

自分でもっていないきちんとした服が必要なときは、おしゃれな友人に借りる。この日のTシャツは、友人のダンサーが着なくなったものを袖を切ってアレンジした。食べきれないいただきものはご近所に配る。ものをため込まず必要に応じてあげたりもらったりすると、たちまち知り合いが増える。

ものをもつよりそのほうがずっと幸せだと気づいたと言います。

「家電を使うのをやめ、たくさんのものを手放したら、豊かでおもしろい人生が手に入った。お金と幸せにはなんの関係もありません。過去にとらわれることも、未来に不安を感じることもなく、今を味わって暮らしています」