読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。
すべての画像を見る(全4枚)ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。
「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。
さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。
【今回の相談】人と会ったときに名前が出てこない
人と会ったときに名前が出てこないことが多くなりました。失礼にならない方法はないでしょうか。(PN.シンディさん)
【作者さんの回答】黒いかたまりはまだ名前がつけられていない
「黒いかたまりを見つけても、むやみに捕まえることはやめてください」
ニュースキャスターが真剣な表情で原稿を読み上げた。
「つづいては──」
つぎの瞬間にはキャスターは笑顔に変わり、セレブリティが結婚したことを楽しそうに報告しだした。そのニュースを見ながらシンディさんは黒いかたまりのことをぼんやりと考えていた。
「黒いかたまり」とは近頃急速に増えて街を徘徊する生きものだ。身長は40センチほどで、人間の膝ぐらいの高さ。全身が黒い毛で覆われており、一見すると毛糸のかたまりのようにも思える。しかし、よく見るとつぶらな瞳が輝いているのだ。夜中に見つけて驚いてひっくり返るひともいる。
この生物は驚くことに土から生えてくる。正確には幼体は土のなかで過ごし、十分な体格にまで生育すると地上に出てきて活動するようになる。幼体のときは土のなかから黒い毛をすこしだけ出していて、まるで植物のように見える。だから、この生物が土から出てくる様子は、人間からしたら雑草が生物へと変体したかのように見えてたいへん面白い。
おとなは警戒したが、こどもはすぐにかわいがりだした。
「もふもふしていてさわると気持ちいいなぁ!」
「こら、やめなさい。毒を持っているかもしれないよ……」
「大丈夫。みんなさわっているけど、平気だよ」