「子育てには大変も幸せも両方あって、おおむね幸せ。話すほどではない幸せは、ちゃんとある」と話すのは、ESSEonlineでヘア連載を執筆中のライター・佐藤友美(さとゆみ)さん。さとゆみさんは息子と2人暮らしです。
そんなさとゆみさんが子育てエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館刊)を上梓。同書を抜粋し、離婚と子育てについてのエッセイを紹介します。
私たちは似たり寄ったりの星に住んでいる
すべての画像を見る(全3枚)「離婚なんてするもんじゃない。我慢して、我慢して、なんとか添い遂げるのが、夫婦ってもんだよね」
と、目の前で飲んでいる先輩の男性が言う。緊急事態宣言がとけ、こんなふうに集まって飲むのは一年ぶりだと言っていた。声が大きくなっているから、だいぶ酔いがまわって楽しくなっているのかもしれない。
「どうしてですか?」
と、私の隣の若い女性が彼に聞く。
「だって、離婚したら、子どもがかわいそうじゃない。お前の親は離婚したんだって、後ろ指さされるよ」
と、その男性は続ける。隣の女性は、その回答を聞いてちらっと私の顔を見る。この場にいる全員が、私がシングルマザーであることを知っている。
私はその話を、面白いなあって思いながら、ほくほく聞いていた。こういうクラシカルな意見は、ふだん、年下の人たちとばかり話しているとなかなか聞けない。つい、取材者の気持ちになってしまい、よせばいいのに、口をはさんでしまう。
「そういうものですかねえ。私の周りにも、シングルで子育てしている人ってまあまあの割合でいるので、それほどレアな感じじゃないですよ。親の離婚って、子どもは自然に受け止めているようですけれど」
と言うと
「いや、それは、たまたまだよ。僕の子どもが通っている〇〇地域の学校には、離婚した親はひと組もいないよ。だって、親が離婚したら、有名校を受験させるにもいろいろ不利じゃない?」
と、おっしゃる。
「なるほど、そういう考え方もあるんですねー」
と私が言ったので、その場はそれで終わった。私は、心底、「なるほど、そういう考え方もあるのか!」と、思っていた。
帰り道、後輩の女性が
「さとゆみさん、どうしてあそこで話をやめちゃったんですか?」
と聞いてきた。どうしてだろう。
意見が違う人と話しても仕方ないと思ったわけではない。むしろ、酔っていなければ、もうちょっと話を聞いてみたかった。その方の価値観を支えているエピソードを知りたかったし、私自身の価値観も洗い出し直してみたかった。「でも、いかんせん、酔ってたしねぇ」と答えて、私はその日、帰宅した。