2017年に第1回「ジャパンSDGsアワード」総理大臣賞を受賞するなど、「持続可能なまちづくり」のトップランナーとして、国内外から注目を集める北海道下川町。人口3000人の小さな町はいかにして、SDGs先進自治体となったのか? その原動力はなんなのか? 時事YouTuberのたかまつななさんが、下川町政策推進課SDGs推進戦略室の清水瞳さんに聞きました。

清水瞳さんとたかまつななさん
時事YouTuberのたかまつななさん(右)と下川町で SDGsを推進している清水瞳さん(左)
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小さな町の文脈に世界目標を落とし込めた理由

下川町では町民主体でさまざまなイベントが開催
下川町では町民主体でさまざまなイベントが開催。SDGs・まちづくりにつながる町民活動を支援する仕組みもある

たかまつ:多くの自治体がSDGsへの取り組みに注力していますが、なかなか苦戦しているところもあるようです。一方、下川町は早くからSDGsに取り組み、先進自治体となりました。その理由を教えてください。

清水:SDGsってどうしても自分とは遠い話で、身近な取り組みに落とし込みにくいというのが課題だと思います。下川町の場合、3000人規模の小さな町に世界目標を落とし込んで、「自分ごと」にしちゃったということが、先進的だったのだと思います。

たかまつ:ただ、その「自分ごと」にするのがとても難しくて、大変なことですよね。

清水:下川町は2001年時点ですでに「経済・社会・環境の調和による持続可能な地域社会づくり」をコンセプトに掲げています。「経済・社会・環境の調和」というのはSDGsの3本柱と同じ。森林を中心にしたまちづくりの中で持続可能性にこだわってきましたから、国連が掲げる目標とスムーズにつながったのだと思います。

たかまつ:「経済・社会・環境の調和」は重要なポイントですよね。

清水:町は2018年に「2030年における下川町のありたい姿」、通称「下川版SDGs」を策定し、町のあらゆる計画の将来像に位置づけました。SDGsを「ツール」として捉えてまちづくりに活用しているのも、下川町ならではかもしれません。

たかまつ:「下川版SDGs」はSDGsアワードでの評価ポイントのひとつですよね。特徴を教えてください。

清水:いちばんは策定プロセスそのものにあります。町民10人と町の職員10人とで「SDGs未来都市部会」を組織し、議論を重ねていきました。同時に町民有志の会も生まれて自らで話し合い、ワークショップを設定したり。町民たちでつくっていったんです。

たかまつ:そんな経緯があると、SDGsが自分ごとになりますね。とはいえ意地悪なことをいうと、町民10人が参加しても3000人の一部でしかありません。

清水:町民委員の方もしきりに、「自分たちは町民の代表ではない」とおっしゃっていました。ただ、そういう意識が強かったからこそ、町民委員は周りの人に積極的に話を聞いたし、有志の会が何度も開かれた。3000人規模の町ですから「顔の見える関係性」があります。「だれだれさんが関わってまちの将来像をつくっている」となれば、やはり関心を持ちますよね。

 

子どもたちも多数参加する「下川町植樹祭」
子どもたちも多数参加する「下川町植樹祭」。50年以上続く町の恒例行事

たかまつ:「下川版SDGs」は7つの目標を掲げていますね。注目すべきポイントを教えてください。

清水:いくつかあるのですが、まずひとつは「だれひとり取り残されない」へのこだわりですね。国連の目標「leave no one behind」は「だれひとり取り残さない」と訳されています。「取り残さない」だと上から目線ではないか、という意見が町民から出たんです。加えて、この文言は「だれひとり取り残されないように声を上げる」という意識にもつながっています。というのも、議論を進めるなかで、ある女性の町民委員さんが「自分たちはひょっとして取り残されているんじゃないか?」と気づいたんです。町民参加というけれど女性委員は3人。子育て世代も参加していなかった。そのため、有志の「女子会」が生まれ、最終的には町も委員会の男女比を考慮して再編成し、現在では平等にそろえています。「だれひとり取り残されない」ということに町全体がこだわりを持っているんです。

たかまつ:それもやはり「顔の見える関係性」と関係がありそうですね。

清水:「これをやると、あそこのだれだれさんが取り残されちゃうね」といった議論が普通に飛び交っています。

たかまつ:目標の7番目は「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」。超高齢社会の町ながら、「未来世代」を打ち出しているんですね。

清水:「下川版SDGs」には100件以上のパブリックコメントが集まったのですが、100件のうち3割が子どもたちに関するご意見でした。このゴール達成のための将来像として、「下川町地域共育ビジョン」がつくられたのですが、「教え育てる」ではなく「共に育てる」――共育なんです。町全体が大きな家となって子どもたちを育てることが目標です。

たかまつ:すてきですね。それにしても、そうした町全体の活力はどこからやってくるのでしょうか? 下川町ってSDGsだけでなく、移住や起業の促進、町外の企業とのコラボレーションなど、さまざまなプロジェクトを行っていますよね。

清水:「しもかわイズム」と呼ばれる文化があるんです。下川町はこれまで何度もピンチに陥ってきました。鉱山の閉山や木材の輸入自由化、鉄道の廃線。過疎化率が北海道1位になった時期もあります。その都度、ピンチをチャンスに変えて乗り越えてきた。町民の間になにか企てちゃおう! チャレンジを楽しもう! みたいな空気感があるんです。なんていうか、「愛すべき変人」が多い。それが町のエネルギーかなと思います。