作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回は、「ものを捨てない派」という高橋さんが考える、使いやすい台所についてつづってもらいました。

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第75回「使い勝手のいい台所」

暮らしっく
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私は整理整頓があまり得意ではない。夫も輪をかけて得意ではない。なのに二人とも料理や保存食作りが好きなので、どうしても食器や鍋、調味料、乾物、スパイスなどの道具や食品のストックが多くなりがちだ。おしゃれ雑誌で見かける、すっきり表になにも出ていない台所とは縁遠い。ああいう、目に見えるとこに何も置かないの憧れるなあ。シンクの中もすっきりしていて、食器棚ももっと広くて、さらに洗い場が2つあれば喧嘩にもならないのになあ。

●ごちゃごちゃしているけど使いやすいのがいちばん

本格派の夫のフライパンは鉄。わたしも鉄のフライパンを使うこともあるけど、そこにお肉や野菜を入れたら重くて振り上げられないので使い慣れた薄いフライパンになる。そうこうしていると、卵焼き用も合わせるとフライパンだけで5〜6つはある。当然、鍋もそれを上回る。まな板も、日常用、ジャム作り用、チーズ用の小型、魚を裁くとき用と、5つ!

台所の様子

最初のうちは、見えないように道具も調味料も頑張ってしまっていた。でも、おたまとか、木べらとか、すりこぎ、菜箸、日常的に使うものはサッと取れるところに置いとけばよくないかい? 確かにごちゃごちゃするけど、忙しいときや調理中で手が汚れているときに引き出しを開けるよりいい。ということで、愛媛で拾って持って帰った桜の枝を金具を使って壁に取り付け、ずらりと吊り下げる方式にして二年が経つ。フライパンもS字フックで吊り下げるようにした。すると、見違えるように使いやすくなったのだ!

築40年の一軒家なので、夏場は湿気が溜まりやすく、引き出しの木の道具にカビが生えることもあったのだけれど、外に出して保管するようになって、そのストレスが解消された。やった! 憧れは憧れでとっておこう。いつか広くて湿気のない台所に引っ越したときにあのシュッとした感じにしよう。

見えるところに出すことで、作業の動線が短くなったし、慣れてくればこのコミカルな道具のパレードもかわいいもんだ。そして、ひっかけられないけどよく使うものを、シンクの引き出しへ、たまにしか使わないものは二段目に入れるようにした。

S字フック

表に出すS字フックや止め金具などは、私の好きなワイヤー作家の森永よし子さんの作品を使っている。こういうところで工夫すれば、道具にも空間にも愛着が持てるんじゃないかと思う。

調味料のストック、ここに買ってあったのに、もう一人が知らずにまた買ってきてしまったという現象も時々ある。なので、先に使ってほしい先発隊は、外に出すようにした。

 

●捨てない派だからこそ、物が多くてもストレスなし

マンションに住んでいたとき、無印良品の半透明で引き出しの縦二列ついたボックスに未開封のお茶とかスパイス、調味料をストックしていたんだけど、一軒家に引っ越したあと、奥行きの長いこのボックスに合う場所が見つからず、カウンターキッチンの一番下に設置していた。引っ越し前の間取りで買った家具って次の家ではなかなかはまらないことが多いよね。うーむ、使いにくい。湿気も多いのに床に近いし、おまけに半透明って、見えないから忘れがちになる。

どうするどうする? この半透明ボックスを捨てずに、使い回せないだろうか。考えに考えて、そうだ、脱衣所で着替え用のタンクトップや靴下、化粧水なんかを入れるのにぴったりじゃないのと閃いた! 半透明で中が見えないしね。

適材適所とはこのこと。サイズもジャストでものすごく使いやすく、新しい場所で大活躍しているのだった。

忙しい毎日だからこそ、使い勝手のいい台所にしておくと日常が楽になる。私もまだまだ、ここに棚つけたいとか、梅干しと味噌用のラックがもう一つほしいとか、夢はあるんだけれど、まずはよく使うものがさっと取れるようになりストレスも減った。何より、自分で考えてちょっとずつ手を加えて、空間を作るのが楽しい。遊びに来た人は「久美子さんち物多いですね」となるけど、そういう捨てない派のキャラが定着しつつあるから、この土鍋はなんだ、この野草はなんだと、来た人は台所ウォッチングを楽しんでいる。

自分が使いやすくてリラックスできる台所が一番だよね。