地域の人や子どもたちが一人でも食事を食べに行ける「こども食堂」。聞いたことはあるけれど、実際はどんなところなのか今一つイメージできていない人も多いのではないでしょうか。現場の主催者に話を聞くと、栄養バランスの取れた食事をいただけるだけでなく、子どもだけでなくどんな年齢層にも意外なメリットがあることが分かりました――。

子ども食堂
こども食堂「菜の花ダイニング」の様子

「こども食堂=子どもだけが利用できる場所」は大きな誤解でした

こども食堂は、一食あたり無料あるいは低価格帯で食事をいただける場所で、2012年に全国の先駆けとなるこども食堂が、東京都内で誕生しました。「経済的な問題がある子が行くところ」「子ども専用食堂」とのイメージをもつ方がいたかもしれませんが、多くのこども食堂は、子どもはもちろん、働き盛りの独身者からお年寄りまでだれもが気軽に利用して良い場所として運営されています。

表
2021年12月「むすびえ及び地域ネットワーク」調べ

こども食堂の箇所数も年々拡大しており、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと各地域ネットワーク等の調査によれば、2021年12月時点で全国に6014箇所確認されています。2016年の319箇所から19倍近くとなっており、飛躍的に増え続けてきていることが分かっています。むすびえは、2025年には全小学校区(現在1万9032校。文科省「令和3年度学校基本調査」による)につき1つ以上のこども食堂があることを目指しているそうです。

このように年々、身近になってきているこども食堂。そこでは、どんなことができるのでしょうか? 実際のこども食堂の例をご紹介します。

●こども食堂「菜の花ダイニング」での取り組み

「菜の花ダイニング」の代表・佐藤由加里さん
「菜の花ダイニング」の代表・佐藤由加里さん

2017年から神奈川県川崎市高津区の市民館でこども食堂「菜の花ダイニング」を開催している、代表者・佐藤由加里さんに話を聞きました。

「まず前提として、こども食堂は、1000あれば1000通りのやり方があり、運営時間から利用料金、そしてどんなことができるかも、食堂ごとに千差万別です。当食堂の場合、月1回水曜日に開催。利用者層は地域の子どもからお年寄りまで幅広いですが、ほかのこども食堂では利用者層も異なります。

現在、当食堂は新型コロナウイルスの感染対策で、完全予約制のテイクアウトのみ対応しています。6月は5周年記念で、ちょっと豪華にとんかつ弁当にしました(笑)。ただ、7月~9月の夏季期間は、食中毒予防で食料品や菓子類をお渡しするフードパントリー型に切り替える予定です」(佐藤さん・以下同)

お弁当をつくる

「状況を見て、以前の会食形式に戻したい気持ちもあるのですが、昨今の状況下では感染対策でふきんやエプロン・帽子を使い捨てにしたり、使い捨てグローブの取り換え頻度を増やしたり、こまめに消毒をしたりして、スタッフの負担も大きくなります。それならば一人でも多くの方に喜んでいただけるようにと、テイクアウトに切り替えたんです。せっかく5年も続けてきた活動。地域の方々のお楽しみを奪わず、続けられることは続けようという気持ちで活動していますね」

●会食もテイクアウトもコンセプトは同じ「こしょくをなくす」

菜の花ダイニングのコンセプトは「“こしょく”をなくす」。「こしょく」とは、一人で食べる「孤食」、家族がいても各々違うものを食べる「個食」、濃い味つけの「濃食」、決まったものしか食べない「固食」ととらえ、「みんなで食べると食事はおいしいし、楽しい」と思ってもらえるように続けているそうです。

「食堂を始める前は、一人、もしくは子どもだけで食事をする“孤食”をなくしたいという思いから、既存のこども食堂にボランティアとして参加していました。そこで一緒になったボランティアの人達と始めたのが、今の『菜の花ダイニング』。そうして活動を進めるうちに、“こしょく”にはバリエーションがあることを知ったんです。それなら、ひらがなにしていろんな“こしょく”をなくすきっかけになればいいね、と考えるようになりました」

こども食堂の様子

会食の形式をとっていたコロナ前は、普段は「こしょく」でも、ここに来る日だけは違ったと喜ぶ利用者も多かったと言います。

「地域に住む高齢者が引きこもりがちの一人住まいの高齢者を誘って来られたり、グループで来られる高齢者の方々もいらっしゃいました。若い層では、30代の独身男性が『僕も一人で食べるから孤食なんだ』と言って来られるケースも。目の前で『はいどうぞ』と暖かいごはんを出してもらえるだけでうれしいし、実家にいるようなわいわいした話し声、ぬくもりのある音が聞こえてくるだけでも気持ちが温かくなる。そう話していたのが印象に残っています。

テイクアウトになってからも、『家族で同じものを食べられるため、“これはおいしいね”などの会話が生まれる』という利用者さんの声もあります」

こども食堂「菜の花ダイニング」について詳しく知りたい方はこちら

●子は食育の機会に、親は心のゆとりを得られる

菜の花ダイニングでは、調理師免許をもつスタッフが旬の食材を取り入れ、栄養バランスを考えて「自分たちはもちろん、子どもからお年寄りまでだれが食べてもおいしいもの」の献立をつくり、その献立に基づきみんなで手づくりしています。

それが結果的に、子どもの食育の機会になり、親にとっては心のゆとりをもたらしているそう。

食事

「会食形式をとっていた頃、ヤングコーンやミョウガなど夏野菜の甘酢漬けを出したことがありました。そのとき、おいしそうに食べる子どもを見て、『え、あなたミョウガを食べられたの?』と驚いていた保護者の方がいました。おとなの考えでは、まだ幼い子にこの野菜は早いだろうという思い込みがあったようですが、子どもは意外と食べられるんです」

また、世間一般的に子どもが苦手意識を持っていそうな食材も、ときにはみじん切りにして隠すなどして、どんどん取り入れています。

「子どもたちは場所が違ったり、お友達が食べているのを見たりすると、普段は残す苦手食材でも食べられるのでしょう。得意そうに『全部食べられるもん』と言っていますね(笑)。そこで私たちが、『えらいね、全部食べられて。残さなかったね』とほめると、次も食べるんですよ。子どもたちは、家では『早く食べなさい』『よそ見しないの!』などと怒られていても、食堂では完食しただけでほめてもらえる。うれしくて、誇らしくて、胸を張って笑顔で帰っていきます」

こども食堂にて

菜の花ダイニングでは、保護者同士が子育ての悩みや愚痴を吐き出す光景も珍しくありません。これも精神的な息抜きにもなり、親の“孤立”防止に。菜の花ダイニングは「食堂」というよりは「居場所」として地域に親しまれてきていると話します。

お年寄りにとって人と触れ合い、栄養も摂れ、歩くことで活動性も出てくる。子どもにとってはいろんな食材が食べられる食育に。親世代には息抜きの場になります。こうして、だれもが友人を誘い合わせて気軽に立ち寄れるのも、会食・テイクアウトを問わず、大人は300円、高校生以下は100円という気軽な価格があるからでしょう。

「菜の花ダイニング」での提供価格

●こども食堂を支援する取り組みがスタート

こうしたこども食堂では、地域や企業などさまざまな団体や人のサポートによって運営されているところが多くあります。

そこで、食品メーカーの(株)明治では、「明治プロビオヨーグルト」シリーズの各種商品の売上の一部で、こども食堂へ「食育カルタ」を寄贈し、さらなる活性化を応援するキャンペーンを実施中です(期間は7月31日まで)。

ヨーグルト

こども食堂にはなかなか馴染みがないという人でも、身近なヨーグルトを買うことで応援できるなら、ぜひ積極性をもって取り組みたいですね。

毎日の1本がこども食堂を支える力に!

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