作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回は、捨てられない服について、つづってもらいました。

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部屋を占領する「紙」。かわいい包装紙や箱、手紙が捨てられない理由

第72回「見せられない部屋 その3」

暮らしっく
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●増えた服はなかなか手放せない

CDと本紙類に次いで増えてしまうのがなんといっても衣類や布類ですよねえ。環境省によると、今、国内では、年間51万2000トンもの衣類が廃棄されているという。

私も、衣替えをする度に疲れ果てるくらい服を持っているしなかなか手放すことができない。今あるものを上手に遣い回すぞと思い、もう服は買いませんと心に誓ってみたものの、やっぱり素敵なものに出合うとときめいて袖を通したくなる。そういう気持ちは摘み取らなくていいんじゃないかと思う。

着なくなった服

じゃあ、着なくなった服をどうするのか。捨てる前に実家へ送って、ほぼ体型の同じ妹や姉、母に見てもらい趣味が合うものは着てもらう。そして汚れてしまったシャツなんかは、農作業着にする。家は農家なので、家族共有の農作業着用の棚があってみんなの着なくなったシャツとかズボンがそこへ行き着く。夏場の農作業はかなり汗をかくので、一日数回着替えて洗濯をするとどんどん生地がすり減って何年かしたら破れる。ここまで着て服の後始末が完了する。やっぱり、最後まで使い切ってあげたいし、そのくらいに愛着を持ったものを買うようにしている。

●母の友人が着なくなった服がわが家に回ってきた

派手な服

5月、愛媛に帰ると母がくすくす笑いながら隣の部屋に手招きする。うわっ、ダンボールが二箱積み上がっている。カーテンレールには黄色やピンクのレトロなワンピースが何着もかかっている。母の友達が若い頃に着ていた服がその人の親戚の間を巡ったあと選ばれずにいよいよ高橋家にたどり着いたようだ。

「着られるものがあったら、娘さんたちに着てもらって。好きで買ったものなので、どうしてもそのまま捨てることができんかったのよ」

わかります、その気持ち。自分の手で捨てることができないので、着なければ捨ててほしいと持ってこられた服の山。お母さん、またえらいもん引き受けたなあと思い箱を開けると、か、かわいい! 80年代、90年代の服たちはレトロであり今風でもあり、どれもこれも私好みなのだった。ああ、あと10歳若ければガラガラのワンピースなんて大好物なのになあ。

綺麗に洗濯し畳まれた服から、おばちゃんが大切にしてきたことが伝わった。一周回って今っぽいラインの服ばかりで、私のテンションは上がっていく。いかんいかん、家にもたくさんあるんやから、これ以上増やしたらいかん…でも、着るだけ着てみよう。何てことだ…サイズもぴったりだ。農作業着にするにはもったいないかわいさだ。

私はもらうことにした。そして実家に置いておいて、東京からは衣類は手ぶらで帰ればいい。

 

●時代が回って、昔の服が着られるようになることも

おばちゃんに連絡してもらって、ファッションショーをしようと言った。大切に保管してきた服がもう一回日の目を浴びるところを見てほしいと思ったし、単にみんなとわーわー言いながら試着しまくりたかったのだ。

家に来てくれたおばちゃんは、本当に喜んで何度もありがとうと言ってくれた。きっと、どの服にも若かりし日の思い出がつまっているに違いない。私もそのくらい愛着をもって服と接していきたいと思った。

「これとこれを組み合わせたらどうだろう?」

「うーん、それは違うかもね。このスカート着てみて」

ファッションショーというより、学生の頃友達と古着屋で試着しまくったあの感じ。そう、服は腐るものではないのだから、友達や親戚へと巡っていくのが一番いいな。こんなの誰も着ないよと思っていても、一周まわって今が旬だということもあるから。時代って巡っていくものなんですよ。昔の服を大切にするのは、アルバムを大切にする気持ちに近い。そこには、いつかの私達がつまっているんだ。