「緩和ケア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。末期に苦痛を和らげるものではなく、じつはがんと診断されたそのときから受けることができる治療です。自身もがんサバイバーとして執筆を続ける坂元希美さんが、川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア医の西智弘先生に伺いました。

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西智弘先生 撮影:幡野広志
西智弘先生 撮影:幡野広志
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がんと診断されたら緩和ケアをスタートできます

緩和ケアと聞くと、がんを治療する手立てがなくなった末期に苦痛を和らげるだけのもの、緩和ケア病棟やホスピスは死が目前に迫った人が入るところだとイメージする人が多いと思います。でもじつは、がん患者さんとその家族などそばにいる人たちがいつでも受けることができ、さまざまな苦痛を和らげることで生きる力をアップさせる治療です。

国の政策「がん対策推進基本計画」でも、早期からの緩和ケアを推進するとうたわれていますが、実際には診断された時から緩和ケアを受けられる患者さんはまだ多くないそうです。自分ががんと診断されたとき、また家族や大切な人が罹患した時に知っておきたい緩和ケアについて、西智弘先生に教えていただきます。

 

●がんと診断されたときからのさまざまな苦痛をケアする治療

がんになると、さまざまなつらい症状が出ることがあります。抗がん剤などの副作用など治療によって生じるしびれや食べることが難しくなったり、抑うつ症状が出たりすることもあります。

治療で体のかたちや見た目が変わること、仕事や家庭、学校、お金のこと、将来の不安など精神的なのつらさを抱える患者さんもいます。患者さんの家族など身近な人も、苦しみを感じることが多くあります。

緩和ケアは、がんになったときから生じる患者さんとその家族の心と体のつらさを和らげる治療です。

●緩和ケアは体の痛みを取り除くだけではありません

西智弘先生
西智弘先生

 

緩和ケアでは痛みを和らげる鎮痛剤や抗がん剤などの副作用で起こる吐き気を抑える薬を処方するなどの治療だけでなく、がんになってこれからどう生活していくのかを患者さん、一緒に暮らす家族や身近な人と一緒に考えていきます。

たとえば抗がん剤治療をどうするか、入院するか在宅治療にするか、ほかに試したい治療があるなど悩むこともあるでしょう。治療をしながら仕事や育児、趣味など続けたい人も多いと思います。そういったことを置き去りにして治療だけを進めることで、精神的につらくなる患者さんもおられます。

また家族など患者さんに寄りそう人たちも気を遣ったり、無理にポジティブであろうとしてつらくなることもありますね。そういった心の苦痛を和らげることも緩和ケアでは担っています。

 

●なぜ早い段階から緩和ケアを受けた方がいいのか

2010年にアメリカで「早期からの緩和ケアによって患者の生存期間が延長する可能性がある」との研究成果(Temelら、New England Journal of Medicine)が出されました。

がんと診断されたとき、早期から緩和ケアを受けることで患者のQOL(生活の質)を高め、うつ症状の緩和など精神的な苦痛が和らぎ、寿命の延長効果もあるのではないかと報告とされ、世界的にがんと診断されたときから緩和ケアを受ける方がよいという流れになっています。

日本でも2012年度から「がん対策推進基本計画(第2期)」に早期からの緩和ケアを推進することを盛り込んでいます。