コンビとしてももちろん、最近はソロでの活動も精力的に行い、大躍進を続けるお笑いコンビ・かまいたち。この春、念願の第56回上方漫才大賞も受賞し、名実ともにトップ芸人の仲間入りを果たしました。
かまいたちのネタは、ボケ担当・山内健司さんが徐々にクレイジーっぷりを増していくところも見どころのひとつ。…ですが、お笑いの舞台以外の場所では寡黙で冷静沈着との噂も。山内さんが自分のことについて語る機会は意外と少なく、それがますます、つかみどころのない謎めいたキャラクターを生み出しているのかもしれません。

かまいたちの山内さん
かまいたちの山内さん(インスタグラムより引用)
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そんな山内さんですが、自身初の著書『

寝苦しい夜の猫

』(扶桑社刊)ではついに情報解禁とばかりに、子どもの頃や学生時代の思い出をたっぷりとつづっています。島根の田舎育ちの少年・山内くんが「かまいたち山内」になるまでの遍歴が本人の言葉で飾らず描写されていて、思わず読みいってしまうエピソードがたくさん。決して順風満帆とはいえなかった道のりですが、その経験が山内さんの血となり肉となり骨となっているのを感じさせられます。今回は著書の中から、高校に入学してすぐ起こった「あるできごと」と、その経験から山内さんが学んだ人生の教訓についてご紹介します。

かまいたち山内さんがいじめの経験を通じて思ったこと

小・中学校時代は絶えず人気者として過ごし、松江の進学高校に入学した山内さん。たまたま入学試験の成績がよかったため、なんと特別進学クラスに在籍することになったのだとか。小・中の勢いのまま、人気者でいられるかと思いきや―。

●物静かなヤバイヤツという扱いを受けて…

「ずっと『井の中の蛙』で育っていた僕は、今までとは環境が違って不安だったこともあって、高校生活のスタートダッシュで鬼つまづき、想定外のある事件を起こしてしまった…。その事件をきっかけに、僕の高校生活はいじめられっ子としてスタートした。小、中通して学年の中心人物、モテないけど人気者でやってきた僕が、まさかいじめられるなんて…。ほんまに予想していなかった」

なんと、あの山内さんがいじめを受けていたとは…。きっかけは、遠足のバスの中でカラオケを熱唱したこと。モノマネも加えてあまりにも情緒たっぷりに歌い上げたところ、ウケるどころかクラス中にドン引きされ、完全にクラスの中心からはじき出されてしまったのだそう。山内さんは当時の状況をこう語っています。

「お昼ごはんタイムも僕以外の男子で集まって食べたり、休み時間も僕に声をかけることなく遊びに行ったり。嫌がらせをされたわけではないが、『山内と仲良くなるのはやめといたほうがいい』みたいな空気感を出され、僕は“物静かなヤバいヤツ”みたいな扱いを受け始めた」

…これはかなりつらい状況。楽しい高校生活を送るために友だちが欲しいと思っての行動が裏目に出てしまい、だれからも話しかけられない存在になってしまったのです。

●つらい状況に耐えられたワケ

剣道部
剣道部に所属していた山内さん(ご本人提供)

ですが、山内少年はここでめげることはなく、ひたすら沈黙して本を読み、復活のときをうかがっていました。こんなに冷静でいられたのには、理由があります。山内少年は若干15歳にしてすでに「人生の指針」ともいえる言葉をもっていたから。それが「嫌われるヤツは最初好かれてても嫌われる、好かれるヤツは最初嫌われていても好かれる」でした。
この言葉を信じていたから、つらい状況にも耐えられたのですね。山内さんはこの言葉についてこう語っています。

「大人になって働いたり、だれかと一緒に生活するようになると、最初にいくら取り繕っても結局、その人の本性は相手に伝わってしまう。最初になんとか好かれようとしてがんばっても、その人の性格が悪ければ絶対にバレて、いずれ嫌われる。そういうことを何回も見てきた」

●いじめの経験から生まれた教訓は、第一印象で人を判断しないこと

リビングに男性と子どもと猫
現在の山内さんは愛する猫や家族と楽しく暮らしています

結局、もっていたお笑い知識のおかげでクラスのリーダー的存在と打ち解け、楽しい高校生活を取り戻したという山内さん。その後も、こんなふうに強い信念を持ち、ブレない自分でいることで次々と道を切り開いてきました。さらに、あの経験から人生の教訓も生まれました。

「そんな高校生活スタートダッシュ失敗からの軽いいじめ体験から、僕は初見で人を判断しないようにしている。もちろん、第一印象である程度こういう人だろうとイメージを持つのは当然だが、それで判断して『この人はダメだ』と決めつけたりはしない」

これは、カッコイイ! の一言に尽きますね。ますます、山内さんの不思議な魅力にはまってしまいそう。山内さんのエッセー本『

寝苦しい夜の猫

』では、山内さんのぶれないキャラクターがわかるエピソードがほかにもたっぷり詰まっています。笑えて泣けて学べると話題の一冊、ぜひ手に取ってみてくださいね。

<写真提供/山内さん 文/高城直子>

【山内健司さん】

1981年1月17日、島根県生まれ。2004年5月に濱家隆一とお笑いコンビ「鎌鼬」を結成。のちに「かまいたち」に改名。ネタづくりとボケを担当。NSC26期生。2017年キングオブコント優勝、2019年M‐1準優勝。嫁と長男と猫5匹と暮らす。著書『

寝苦しい夜の猫

』(扶桑社刊)が発売中