51歳の漫画家・古泉智浩さん。古泉さん夫婦と母(おばあちゃん)、里子から養子縁組した6歳の長男・うーちゃん、里子の3歳の長女・ぽんこちゃんという家族5人で暮らしています。
今回は、うーちゃんの卒園式と、出会った日についてです。
古泉さん、まさかの号泣!うーちゃんが卒園式を迎えました
6歳の養子の男の子、うーちゃんが保育園を卒業しました。3歳児保育からだったので4年間お世話になった保育園とお別れです。
臆病で泣き虫だったので、保育園に通えるかどうか心配でした。赤ん坊のときは眠たいと言っては泣き、抱っこで寝て布団に置くと泣き、朝起きるときにもまず泣いていました。ちょっとの変化や刺激が恐怖なのでしょうか。
それに比べて3歳の里子の妹のぽんこちゃんは図太い神経をしています。すやすやよく眠ってよく食べて、よくうんちをして、なにからなにまで逆です。
うーちゃんは水分をあまり採らずいつもうんちが硬くて苦労しています。うーちゃんは5歳になるまでブランコに怖くて乗れませんでしたが、ぽんこちゃんは2歳で平気で背中を押されて乗っています。
そんなうーちゃんですが、不思議と保育園は嫌がることなく通っていました。玄関で駄々をこねることもありません。活発なお友達の影響で「バカヤロウ」などと言ったり、自分のことを「オレ」と言ったりしました。基本的には弱虫なのですが、強さに憧れがあるようで普通の男の子の感覚で安心しました。発表会などでもとくに目立って劣っていることもありません。
●うーちゃんが卒園式のおめかし!古泉さんの涙腺が緩み始めます
そしていよいよ卒園式です。新型コロナウィルスの流行前なら、両親、祖父母が一同に会して、下級生たちも列席して、歌や楽器の演奏があるのですが、今回家族は両親だけ、下級生もなしでした。下級生たちとは代わりに別の日にお別れ会がありました。寂しい卒園式なのでしょうか。
すべての画像を見る(全4枚)うーちゃんは半ズボンのスーツに白いワイシャツにえんじ色の蝶ネクタイです。靴下は黒か白か迷って、半ズボンだと寒いのでハイソックスの白にしました。女の子はとても彩り豊かで、いろいろな形のお洋服でかわいらしくしています。
式は児童の園歌、園長先生の挨拶、卒業証書の授与と続きます。一人一人名前を呼ばれると園長先生の前に行き、卒業証書を受け取ると将来の夢を大きな声で言います。壇上から降りるとセンターに待っているお母さんに証書を渡します。
4年間も同じクラスだったので、顔を憶えるのが苦手な僕でもよく知っている子が何人もいます。みんな立派になったな…と喉の奥がきゅっと狭くなって声が漏れそうになります。
●うーちゃんの将来の夢は…まさかの難関職!
順番で一人ずつ壇上に上がっていきました。将来の夢は男子では「消防士」「ユーチューバー」などがありましたが、一番多かったのが「魚を釣る人」で、6人くらいいました。とくにクラスの中心の男子が同じように言いました。みんな釣りに連れて行ってもらったことがないのでしょうか。うーちゃんは毎年、しょっちゅう僕とアジやハゼを釣りに行っているので、とっくに前から「魚を釣る人」です。そんな簡単にかなう夢でいいのかな。
女子は個性豊かでバラバラで「ネイルをする人」「パスタ屋さん」「お菓子屋さん」でした。「O先生みたいな保育園の先生」と担任の先生の名前を言った女の子がいました。その子の保育園生活は楽しいものだったのだろう、そしてO先生のことが大好きなのだろうと想像すると涙がにじんで目がびちょびちょです。
うーちゃんの順番が来ました。将来の夢はポケモンのルカリオでしょうか、でもここまでファンタジーのキャラクターを言った子はいません。ハラハラします。
「ぼくは大きくなったら東大王になりたいです」
え? そんなのになりたかったの? 頼もしい。いっぱい勉強してまず東大に入らないといけない。道は厳しいけどがんばってほしい。ただ大人になったときに東大王はあるのでしょうか。存在していないかもしれません。
たしかに、うーちゃんはクイズ番組が好きで、意味が分からなくても楽しそうに見ています。『名探偵コナン』『ルパンの娘』も好きで、謎やミステリーが好きなようです。
●うーちゃんと初めて会ったときのこと。ひと目見て大好きになっていました
証書の授与が終わるとお別れの歌です。「おかあさん、覚えてる? 僕が産まれたときのこと」という歌詞の歌で、養父母である僕らはうーちゃんが産まれたときのことはまったく知りません。
その代わり、うーちゃんが5か月のときに病院で初めて会ったときのことはよーく覚えています。
うーちゃんはよく泣く子だと聞いていたのに、僕らと会っても表情をあまり変えず、抱っこされるとミルクを勢いよく飲み、お風呂に入れても泣きませんでした。全然違うじゃないかと思っていたら、次に会ったときはすごく泣いて、泣いてばかりでした。
最初は僕らに気に入られないか心配だったのかな、猫を被っていたようでした。猫なんか被らなくてもひと目見て大好きになっていたので、必要なかったのでした。
感動的な歌を聞きながら、そんな事を思い出していたら涙が止まりません。あれからこんなに大きくなって、本当によかった。
●卒園式は、大人にとって大切なイベント。心揺さぶられました
その後、集合写真を撮って解散となりました。感染予防のために速やかに帰宅するように言われました。担任のO先生とのツーショットは撮らせていただきたいと思っていましたが、子どもが集まってくるのでツーショットは撮れませんでした。
寂しい卒園式だなどとんでもない、心がこもった温かい、すばらしい卒園式でした。4年間お世話になり、本当にありがとうとございました。
僕は昔から、式典のような行事が苦手で、大切なのは日常であり特別な日だと言って厳かにすることに意味があるのかと冷めた思いで参加していました。
しかし、卒園式はすばらしい。子どもは今はあまりなにも思わないかもしれませんが、大人にとっては大切なイベントで、僕のようなひねくれ者ですら、心を大いに揺さぶるすごいものです。
去年はコロナが拡大してさまざまな行事が中止になりました。今年は開催していただけて本当によかったです。
それでは妹のぽんこちゃんはこれからもよろしくお願いします。うーちゃん次は小学校か、心配だな~。
【古泉智浩さん】
漫画家。1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。里子を受け入れて生活する日々をつづったエッセイ『
うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』、その里子と特別養子縁組制度をめぐるエピソードをまとめたコミックエッセイ『
うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』など著書多数。古泉さんの最新情報はツイッター(
@koizumi69)をチェック!