作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。コロナ禍で迎えたお正月で感じたことをつづってくれました。

第37回「お正月と縫い物」

暮らしっく
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●新年から感じる長い冬。手の届く範囲で楽しく

あけましておめでとうございます。新年、一本目の「暮らしっく」です。今年も暮らしの機微を書いていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

東京で過ごすのも悪くないなと思ったお正月。
実家に帰れない、友達と集まれない、街に出られないとなると、諦めもついて手の届く範囲で楽しみを見つける。なんだかこうして、仕方ないね~と言いながら1年が経っていた。近くの幸せを見つけるのが上手になってしまった。元々家でこもって書いている私はますます家と近所が好きになっていく。

たまたま私は家でできる仕事だったから良かったが、医療関係や音楽関係、飲食店を営む友人たちから聞こえてくる第3波への落胆の声は大きい。やっと日常が戻りつつあったのに…。再び緊急事態宣言が出された東京や近郊の都市で、彼らはまたそれぞれに試行錯誤し闘っていくのだと思うと、気の毒でならない。
都心で昼営業のコーヒー屋さんをしている友人は、人のいなくなったオフィス街で店を維持することはもう限界に近づいていると言っていた。保証の多くは夜営業の店舗に向けたものだということも言われてみないと気づかなかった。細やかな声をすくい上げてくれる国や街であってほしい。冬はまだ長い。

●年越しはいつものように

鏡餅

暮れ、母から届いた鏡餅を玄関に飾る。一気に正月感が出てきた。

しめ縄を買うのもなんだかあれだなと思って、庭の三角葉アカシアと柳葉アカシアを切ってしめ縄の要領で編み、輪っかにして真ん中に地元の神社の絵馬を飾って、おお~作ってしまった。子どもの頃は、秋に収穫した稲わらで祖父と一緒に年末になるとしめ縄を編んでいた。今もわらがあれば、細めのしめ縄ならば編むことができる。南天の実と、ウラジロというシダ植物を飾れば、一気に正月飾りっぽくなった! やっぱり手を動かすこと、作ってみることは楽しいなあ。

焼いたお餅

ストーブの上でお餅を焼いて、お雑煮を作る。チンしただけより、やっぱり香ばしいお餅の方が数倍おいしい。大晦日、友人のお父さんのお店で取り寄せたお節料理のお重が届く。4日間、いくら食べても飽きない本当に味わい深いものだった。これを、厨房で年末にこつこつと作ってくれたのかと思うと胸が熱くなった。人の手のぬくもりが今はとくに身にしみる。

前回

書いた通り、完成した柚香チェッロを、こたつでちびりちびり飲みながら過ごす。紅白を見て、いつの間にか『ゆく年くる年』になって、そしてうたた寝して…年を超えた。まあ、毎年こんなもんだ。

●愛着のある靴下を縫いながら未来のことを考える

靴下

チベットの毛糸の靴下に穴が空いてしまって縫おう縫おうと思ったままになっていたのを思い出す。もう一足、分厚い靴下も破れたのがあったので、その靴下の丈夫な部分を丸くくり抜いて毛糸の靴下に縫い付ける。私は裁縫が全然得意じゃない。でも嫌いじゃない。小学生の頃から使っている小さな裁縫箱を開けて糸を針に通して、一針一針縫っていく。石油ストーブの上でやかんが湯気をくゆらせる。静かだ。静かな元日だ。

中にも当て布して縫った方が強くなるかなあと思って、次はひっくり返して縫う。できたー! とはいてみたら、やっぱり中からも縫ったので、ちょっと盛り上がって歩いたら変な感じ。でも強くなったからいいな。

こういうのをSDGsとも思わず普通にずっとしている。環境のためというよりは愛着の方が強いから苦にならずにできるんだと思う。子どもの頃は、体育館の朝礼で繕った靴下をはいているのが恥ずかしかったけどねえ。裁縫している時間って、なんて穏やかで心落ち着くんでしょう。ますますインドアになってしまうじゃないか。あ、最近ジョギングも始めました!

2021年、そのもっと先の未来はどんなだろう。あと10年もすれば夏はどこの県でも42℃が普通になるらしいねえ。コロナ対策で、再び使い捨てのプラスチック製品が多くなった今、子ども達や、これから生まれてくる人々が過ごす未来を頭の片隅に置いて生活したいなと思う。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。1月29日に旅エッセイ集『

旅を栖とす

』(KADOKAWA)を発表。
近著に、詩画集

「今夜 凶暴だから わたし」

(ちいさいミシマ社)、絵本

『あしたが きらいな うさぎ』

(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集

「いっぴき」

(ちくま文庫)、など。翻訳絵本

「おかあさんはね」

(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:

んふふのふ