作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。冬が近づく今、久美子さんのもとに届いたのは季節の特産品。今回はそんな旬の食をいただき、人とのつながりについてつづってくれました。

第34回「優しい冬の暮らし」

暮らしっく
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●こたつに衣替え。冬の準備を始めた

こたつを出してしまった。春から秋までは書斎で書くけれど、冬になると私はこたつ人間になってしまう。もう、こたつとセットで生まれてきたんじゃないかってくらい子どもの頃から好きだ。足だけ温かいというのがいい。暖房だと頭から温かくなって、ぼーっとして眠くて仕方なくなってしまう。いや、こたつでも結局寝てしまうんだけどね。

そしてやっと衣替えをした。全部出すと春にしまうとき洗うのが大変なので、今年はこれを着ようというものだけ、全体の6割くらいを出すようにした。夏にこの方法で衣替えをしてすごく楽だと気づいてしまった。特に今年は外に出ていくことが少なかったので、着そうな服だけセレクトすることに。体は一つなわけで、なきゃないで平気なんだなあと気づいた。でも、どうにも好きな服を捨てることはできないので、眠らせておいてまた次の年に着ることにする。多分ね。心ときめく物と出会ったら買ったりもするし、そういう気持ちも大事にしていたい。

●さまざまな地域から届いた冬の特産物。中には新鮮なカツオも…

愛媛の実家からはみかんや柿が届き、長野からはりんご、九州からは大根にホウレンソウ、春菊、旬の物が体を元気にしてくれる。原稿が立て込んでよれよれの私を助けてくれるのは、やっぱり生命力のある食物たちだ。こたつにみかんは文句なしのベストカップルだし、自分で育てた春菊や青梗菜を食べるのも至福である。

お皿に野菜

それから、ぬか漬けも最高の季節。夏の間は、発酵しすぎるのが心配で冷蔵庫にしまっていたが、今は発酵の速度が丁度いいので、人参や大根、カブも入れて、毎日食べるのが楽しみ。混ぜた後、手がツヤツヤになるのも嬉しい。

たくさんのカツオ

実家が農家なので野菜や果物の旬についてはよく知っているつもりだが、冬の食に、もどりガツオが入ることを知らなかった。徳島の友人のお父さんが漁師さんなのだが、先日カツオが5匹届くという魚市場のような出来事があった。

ここぞとばかりに有次の出刃包丁を出して、捌いた。カツオのタタキを作りたいが、稲わらがない。どうしようかなあと部屋中を物色し、去年収穫して乾燥保存していたレモングラスがあるのに気づいた。七輪にレモングラスの乾燥させたのを入れて燻して、あとはコンロに網を置いて両面を炙って、氷水にざぶんと通す。

柚香という徳島から届いた柑橘をしぼって醤油と合わせ、そこにスライスしたにんにくと、生姜をすりおろす。太めに切ったタタキを皿に並べて、そのタレをどぶーんとかける。庭の大葉を刻んでのせる。

カツオに大葉など

美味しいわ。びっくりする美味しさやわ。高知で食べたのと同じくらい美味しい。刺身、タタキ、竜田揚げ、頭もカマ焼きにして食べた。三枚おろしにしたときの中骨は、味噌汁などの出汁を取るのにもいいなと思って冷凍にした。カツオ祭だ!

●おすそ分けやお返しが広がる冬になるといいな

お隣さんに一匹持っていくと、相当びっくりしている。そりゃそうだよねえ、隣人がカツオ持ってくるって漁師ですよねえ。でも大喜びで盛り上がった。
赤身の魚だからか、食べた先から体調が良くなっていった。血や肉になっていってくれたんやなあ。ありがとう。魚に触れ、捌いて内蔵を出したり頭を落としたりしていくと、命をいただいていることを感じる。カツオという大きな魚だったからなおさらかもしれない。しばらく台所は魚臭いのだ。でも、それが生きるということなんだと思う。スーパーに並ぶ切り身も、パックに入ったお肉だって、誰かが捌いてくれているんだ。

海沿いの人々はあんなに新鮮な魚を毎日食べているんだと思うと、羨ましいなあと思った。カツオを送ってくれた友人にみかんを送ることにした。それぞれに、ないものを補いながらこの世界がまわっていってくれたらいいなと思う。物じゃなくても、それはさりげない挨拶ひとつかもしれない。一本のメールかもしれない。
嬉しさのお返しが広がっていく冬になるといいな。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。近著に、詩画集

「今夜 凶暴だから わたし」

(ちいさいミシマ社)、絵本

『あしたが きらいな うさぎ』

(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集

「いっぴき」

(ちくま文庫)、絵本

「赤い金魚と赤いとうがらし」

(ミルブックス)など。翻訳絵本

「おかあさんはね」

(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:

んふふのふ