ESSE誌面でおなじみ、NHK『あさイチ』のコメンテーターやラジオDJとしても活躍するモデルのはまじこと、浜島直子さんが、この度、随筆集『蝶の粉』(ミルブックス刊)を上梓しました。

これまでも夫であるアベカズヒロさんとともに、「阿部はまじ」というユニット名で『森へ行く』『ねぶしろ』などの絵本を発表してきましたが、浜島さん単身で執筆した作品を出版するのは初めて。

本を持つ女性
はまじさんの半径5メートルで起こった18篇の物語が描かれている
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随筆集『蝶の粉』出版。浜島直子さんインタビュー

「言葉」とがっつりと向き合ったその製作過程について、お話を伺いました。

●「さあ書くぞ!」と子どもが幼稚園に出かけた瞬間にパソコンに向かって…

「今回の作品は、以前『kiite』という雑誌で書かせていただいていた短いコラムをきっかけに、新たに書き下ろしを加え、全18篇からなるエッセイ集としてまとめたものです。読書は私の唯一と言っていいほどの趣味で、昔から本を読むのは大好きでしたが、いざ自分が書き手となってみると、これが苦しくて苦しくて(笑)。息子が幼稚園に出かけた瞬間に、『さあ書くぞ!』とパソコンに向かっても、実際に文字を入力し始めるまでに2時間かかったことも。“書く”ってこんなにも大変で、こんなにもおもしろい作業なのか! と痛感する日々でした」

昨年、10年間務め上げたファッション誌の専属モデルを卒業する際、「これからは、言葉のあるモデルになりたい」と語っていた浜島さん。そもそも言葉というものに魅力を感じ始めたのは、テレビ番組『世界、ふしぎ発見!』のミステリーハンターをしていた頃だったそう。

考える女性
ミステリーハンター時代の思い出を語る、はまじさん

「ペルーの洞窟に取材に行った際、人数制限でディレクターが中まで入って来られず、自分だけの力でリポートすることに。目に入ってくるものを、自分の中にある言葉を総動員してコメントしたら、『はまじ、やればできるじゃん! すばらしいよ!』とスタッフにほめられて。それまでは、いかにきれいに文章を読むかという表面的な部分しか考えていなかったんですが、素材ときちんと向き合って自分で調理したら、よりおいしいものになって相手にしっかり届くんだと気づいたんです。以来、リポート内容は一から自分で考えて伝えることに。そのうち、ラジオや対談などのお仕事もいただくようになって…。私にとって言葉は、自分を新しい世界に引き上げくれたパスポートのような存在なんです」

●話すのには瞬発力、書くのには持久力が必要

数年前からは、NHKの朝の番組のコメンテーターとしても人気を得るように。しかし、同じ言葉を使う仕事でも、「話す」のと「書く」のとではまったく勝手が違ったと言います。

「話すのには瞬発力、書くのには持久力が必要だと実感しました。今までの経験上、だれかと話しながら、間合いを見て相手の言葉を引き出すということは少しずつできるようになっていたんですが、自分の中から言葉を絞り出すのは本当に大変でしたね。子どもの頃から作文が得意だったわけでもないし、普段からメモひとつ取る習慣もありません。だから、書くときは、ただじーっと黙って、ゆっくりゆっくり記憶の海に漂うんです。そのうち、水面にぷかーっと浮かび上がってきた言葉をさっと掴む。そんな作業を繰り返しながら、少しずつ書き上げたので、とても時間がかかりました」

●はまじさんを「底抜けに明るい人」だと思って読むと、驚くかもしれません

本
好評発売中の初のエッセイ集『蝶の粉』

そうしてでき上がった文章には、まさに水面がきらきらと輝くような、繊細で美しい比喩表現が散りばめられていて、浜島さんの内面にいかに豊かな言葉の世界が広がっているのかが伝わってきます。

「比喩が多いのは、大好きな村上春樹さんや小川洋子さんの影響かもしれません。お2人の文中には、ユニークな比喩表現がたくさん出てきますよね。小川さんはものに命が宿るような書き方をされることも多いですし。それがとても素敵だなと思って読んでいたので、私も『ものモノ物』という章では、祖母の引き出しの中のものたちを擬人化して書き表しています。また、小川さんがよく使う『思慮深い』という言葉も、尊敬の念を込めて一か所だけ本の中にこっそり忍ばせたので、ぜひ探してみてください(笑)」

ちなみに、本のタイトルにもなっている『蝶の粉』というのも、あるもののたとえだと言います。

「『蝶の粉』とは、『たしかにそこにあるんだけれど、でも目には見えないもの』のこと。親からの無償の愛情であったり、当たり前のように隣にいてくれた姉の温かみであったり。そのときははっきりと認識することはできないけれど、後になって思い返してみれば、あれはこういうことだったのか、と確信がもてる“ほんとう”って、だれにでもあると思うんです」

笑う女性
なかには、女友達とのほろ苦い思い出について書かれたものも

そんな「蝶の粉」を追いかけるように、記憶を辿って著した18篇で描かれるのは、浜島さんの半径5メートル以内で起こった、ごくささやかだけれど、愛と正義にあふれた出来事ばかり。なかには、女友達とのほろ苦い思い出について書かれたものもあり、浜島さんを「底抜けに明るい人」だと思って読むと、ちょっぴり驚かされるかもしれません。

「時間がたったからこそ、昔はショックだった出来事にも、ネガティブな気持ちを一切もたずに、淡々と向き合えた気がします。あのときの経験があったからこそ、母となった今、ママ友たちともいい関係が築けていると思うし。こうして振り返ってみると、人生で起こったあらゆることは無駄じゃない、ダメなことなんてひとつもないんだな、とつくづく感じます。あのとき苦しんでいた自分にもし声をかけられるなら、『その悩みは必ず未来の自分へとつながっていくから、今のまんまでいいんだよ』と伝えたい。今まさに子育てで大変だったり、なにかに悩んだりしている方にも、この本を読んでそう思っていただけたらうれしいです」

【浜島直子さん】

44歳、北海道生まれ。夫、長男(6歳)との3人暮らし。雑誌のモデルを中心に、テレビ番組『あさイチ』(NHK)などで活躍。飾らない人柄と、独自のスタイルをもつファッションセンスが人気