自閉症スペクトラムっ子の5歳の女の子「サンちゃん」の日常を描いたコミックエッセイ

『つま先立ちのサンちゃん』


個性的なサンちゃんの行動に振り回されながらも、漫画はほのぼのと描かれていることから、親世代を中心にたちまち人気に。このたび、web連載から晴れて一冊の書籍になりました。

著者であり、サンちゃんのお母さんであるたなかれもんさんにお話を聞きました。

サンちゃんのイラスト
漫画の主人公のサンちゃん、5歳
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息抜きになると思って育児絵日記を描こうと決意

たなか家はれもんさん、夫、長女のサンちゃん、長男のワッくんの4人家族です。

サンちゃんは2歳1か月のときに発達障害のひとつ、「自閉症スペクトラム」の診断を受けました。知的発達がのんびりで、発達指数でいうと1歳半ほどといいます。

――サンちゃんを漫画にしようと思ったきっかけを教えてください。

現実逃避と育児のストレス発散のために始めた絵日記がきっかけです。当時、サンちゃん2歳、弟のワッくん0歳。縫い物などの趣味はサンちゃんが手を出すので危険でできなくて、息抜きになるものがなにもなくてストレスが溜まっていました。

そんなとき、SNSで育児絵日記を見かけて、絵日記なら少しのあいた時間で、立ってでも描けると思ってはじめたんです。

サンちゃんがつま先立ちの理由
サンちゃんがつま先立ちの理由(本書P80より)
――漫画の見どころはどんなところでしょうか?

謎解き…? サンちゃんの不思議行動を見ながら、なんでなんだろう? どうしたらいいんだろう? と、わたしと一緒に考えながら読んでみたら、読み終えた頃にはサンちゃんの気持ちを推測する術が身についてるかもしれませんよ…サンちゃん限定ですけどね…ふふふ。

――漫画では、旦那さんとの連携が絶妙でした。旦那さんと子育てについて普段どのような会話をされることが多いでしょうか?

なんでも話します。この質問に対する答えも一緒に考えてます(笑)。子どもについては、何に関しても、話さない内容がないです。わたしが黙っていられないので、思ったこと感じたことすべて話します。喋る量は母8:父2くらいです。

――読者からの反響はいかがですか? 印象的なご意見があれば教えてください。

「雰囲気が明るくて読みやすい」と言われることが多くて嬉しいです。自閉症のお子さんがいらっしゃる方から「わかります!」とか「あるあるですね!」と言われるたびに、「あら、これ“あるある”だったのね!?」って思ってます。「サンちゃん全然個性的じゃないのかもしれんな」と(笑)。

はじめての教室
――現実では子育てに追われ大変な部分も多いのではないでしょうか?

目が離せないところですかね…。サンちゃんを連れてワッくんのお迎えに行くと、荷物の片づけをしている一瞬のすきに、サンちゃんが裸足で園庭に飛び出していたり、ペンで教室の壁に落書きしていたり…。

あとは、どんどん体重が重くなっていることです。自転車に子ども2人を乗せて走るのがかなりキツくなってきました。床に寝転がってしまったり、お店で癇癪(かんしゃく)を起こしたときに、「とりあえず抱えてその場を離れる」ということも難しくなってきましたね。

●じつは女の子らしい一面も。ギャップが愛おしいサンちゃん

――サンちゃんの個性豊かなキャラクターが楽しい本書ですが、れもんさんが母として思う、サンちゃんのいちばん愛おしい部分を教えてください。

頭になにかをかぶったり乗せたり、首からカバンをかけたりした時、その姿を鏡で確認しに行ってニコニコしているサンちゃんがすごく好きです。いつもクールなイメージなんだけど実は女の子らしいかわいい一面がある…そのギャップがいいです(笑)。

――感謝したいことはありますか?

感謝したいことは、お母さんに漫画家という新たな夢を与えてくれたことです! そして、たくさんの人と出会わせてくれたこと。

サンちゃんの録画再生ブーム
――子育てを通じて、ご自身が大きく成長できたなぁと思うことがあれば教えてください。

成長というか、変わったなぁと思うのは、人に対して不満を感じた時に、まず1回その人の立場になって考えてみるようになったことでしょうか。
子育ては想像していた何千倍も大変で、苦しいこともいっぱいあるんだけど、いろんな人の助けで何とかなっていて、その苦労と、助けてくれる人たちの存在を知ることができたのはよかったなぁと思います。自分を育ててくれた、たくさんの人に感謝。
そして、今サンちゃんとわたしたち家族を支えてくれている人たちに出会えて本当によかったなぁと思います。

――この先、発信していきたいことはありますか?

今後の目標…予定は、サンちゃんの「就学に向けての1年」を描くことです。すでに実生活では壁にぶつかっているので、それをわたしたちはどう越えていくのか、わたしも楽しみです。うそ、半分こわいです(笑)。

――この本を読んでどのようなことを感じとってほしいですか?

単純に笑っていただけたら嬉しいです。読まれる方の立場によって、感じることや思うことはまったく違ってくるんだろうなぁと想像します。
自閉症のある子とかかわりのある人、ない人、自閉症を知っている人、知らない人、だれが読んでも楽しんでもらえるようにと思って描きましたので、自由に読んで、自由に感情を表現してもらえたらいいなぁと思います。

『つま先立ちのサンちゃん』

(扶桑社刊)は、たっぷり224ページ、サンちゃんと家族の暮らしがつまった本です。ぜひサンちゃんの日常を身近に感じてみてくださいね。