「不妊治療」と聞くと女性が病院に通うイメージが先行していますが、男性側に問題があり、妊娠に至らないケースも決して少なくないということがわかってきています。
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精子も年齢を重ねることで老化する!男性不妊の原因と治療
そこでここでは「男性不妊」について、「井上メディカルクリニック」の井上憲先生にお話を伺い、原因と種類、治療方法について、詳しく教えてもらいました。
――男性不妊が話題になっています。原因は?
ひとくちに男性不妊といってもさまざまな原因がありますが、遺伝性や発育段階で受けた影響による先天性のものと、後天性のものに大きく分けられます。
後天的に発症する要因としては、ストレス、アルコール、喫煙、肥満、糖尿病などの病気や薬の影響、精巣の損傷もしくは機能障害、精子の産出や射精に関するトラブルなどがあげられます。
●男性不妊は「造精機能障害」「精路通過障害」「性機能障害」の3つ
――男性不妊にはどのような種類がありますか?
おおまかに分類すると、「造精機能障害」「精路通過障害」「性機能障害」に分けられ、精液をつくる機能に問題がある造精機能障害が、男性不妊の原因の約90%を占めています。
精路通過障害は、精子自体はつくられている状態で、精子の通り道がふさがってしまっているケース。もしくは炎症などがあり、精子が通過しにくい状態のこと。
性機能障害はなんらかの要因で性行為ができなくなっている状態で、婚姻カップルのセックスレスが社会問題にもなっている近年、増加傾向にあると言われています。
――男性不妊の診断はどんなことをするのですか?
一般的な検診の流れは、下記のようになります。
1.問診
2.身体診察
3.採血によるホルモン検査
4.精液検査(精子濃度や運動率)
5.超音波検査
人によっては、上記に染色体検査やAZF欠失検査(※無精子症の検査)が加わることもあります。
●治療には投薬のほか、手術やカウンセリングも
――検診の結果、男性不妊が疑われる場合は、どんなことをするのでしょうか。
造精機能障害の場合、大きく薬物療法と手術療法に分けられます。薬物療法は、ホルモン分泌異常が原因の場合はホルモン剤の注射を用いたり、特発性(原因不明)の造精機能障害の場合は漢方やビタミン剤や抗酸化剤などが処方されます。
精索静脈瘤を有する症例に対しては手術を行うこともあります。
――精路通過障害の場合は?
精路通過障害の場合は、軽度のものならつまりがある部分を取り除いてつなぎ合わせる、「顕微鏡下手術」も可能です。しかし、重症の欠損があるケースでは手術が難しく、精子を採取して「顕微授精」を行うことが一般的です。
精子を回収するのは「TESE」という精巣内精子採取術です。無精子症の男性のなかにはY染色体のAZFという領域が欠けているケースがあり、TESEの精子回収率に影響があると言われています。
この場合、TESEを行っても精子を回収できないので、TESE前に前述のAZF欠失検査を行うことで無駄な手術を回避できます。この検査は採血で行います。
――性機能障害の治療はなにが行われるのでしょうか。
性機能障害は投薬とカウンセリングによる治療も可能で、改善が見られない場合は、高度な生殖補助医療にステップアップします。
●卵子だけではなくて精子も老化する!?
――最近、「精子の老化」が話題になっていますが精子も老化しますか?
卵子と同様に個人差がありますが、一部の男性は、35歳を過ぎると細胞分裂を促す精子の力が衰えてしまうと言われています。
女性の年齢に関係なく男性が35歳以上の場合、若い場合より妊娠率が下がり、流産率が上がる傾向があります。もちろん、そうならないケースもあるので人それぞれですが、精子も卵子も年齢を重ねることで老化してゆきます。
――不妊治療の一環で検査をする男性が多いのでしょうか?
不妊治療はもちろん、最近では妊活中ではない男性でも、ブライダルチェックとして検査を受ける方も。一般的な人間ドッグや健康診断感覚で、自身の生殖能力をチェックする男性も増えてきています。
自身の健康状態を把握し不安を解消するのはもちろん、現時点での「精子の状態」を知ることは大切。もしなにか問題があったとしても、早期発見によって短期間で治療がすむケースもあります。
男性不妊でも最大90万円の助成金が受けられる!
男性に原因がある場合の不妊治療にも助成金があります。男性の精巣から精子を採取する手術の費用を、1回につき15万円まで最大6回助成(東京都の場合)。所得制限があり、夫婦合算で730万円未満となっています。
女性の不妊治療に関しては、年齢に応じて助成の回数に制限がありますが、現在のところ男性の年齢制限はありません。
しかし精子の老化が取りざたされる昨今、近い将来男性の助成にも年齢制限が加わる可能性もあります。
また、助成金に制限がないとしても、精子そのものにタイムリミットがあるのは変わらない事実。将来子どもをもちたいと考える男性は、健康診断の一環として検査を受けておいても損はなさそうです。