パンのブームが続いています。全国各地のその土地・その店ならではの“地元パン”が人気を集め、遠くから買い求める人も。

「京都は、老舗から新店舗まで、新旧の個性あるパン屋が混在する街。パン好きにとって、京都でパンの食べ歩きをするのは、ぜいたくで至福の時間です」と語るのは、エッセイストの甲斐みのりさん。

京都通で知られ、京都に関する著書を何冊も出版している甲斐さんが選んだ、思い出に残るパン屋さんとは…?

ラインパン
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じつは、パンの年間購入量日本一の都市は「京都」!老舗パン屋さんの昔懐かしいパンたち

京都といえば、和食や和菓子のイメージが色濃いですが、パンの年間購入量全国1位の都市としても有名。老舗はもちろん、ここ10年以内にできた店が数多く点在しています。

評判の店が軒を連ねる今出川通りは、通称「パン屋通り」と呼ばれることも。かつて京都暮らしをしたことがあり、今でも年に何度か京都へ通っている私は、時間を見つけては京都のパン屋さんを巡るのが楽しみ。少し離れた場所でも、電車やバスを乗り継いで向かうその道中に、心が浮き立ちます。

伏見の歴史ある納屋町商店街にある「ササキパン本店」は、友人に教えられて目指した店。そうして求めたパンを、『地元パン手帖』という本の写真日記で紹介したところ、伏見が地元の知人から「ササキパン本店は私の実家のすぐそばで、子どもの頃から当たり前に通った店です! 今でも帰省するとパンを買いに行きます!」と、わざわざ連絡をいただきました。

私がこうして、地元パンの記事を書くなかで意外だったのが、「知らなかったパンを知ることができてうれしい」という声よりも、「私の地元の昔から食べていたパンが紹介されてうれしい」という声の方が大きいこと。
地元パンとの再会は、地元愛を感じるきっかけでもあるのですね。

●「S・K・B」は「ササキ金龍堂ベーカリー」、地元に根づいたパン屋さんの証!

ササキ金龍堂ベーカリー

さて、そんなササキパン本店の創業は大正10(1921)年。なんと今年で97年目です。

もともとの店名は「金龍堂」。パン袋には、小さく「S・K・B」という、アイドルのグループ名のようなイニシャルが入っているのですが、それは「ササキ金龍堂ベーカリー」を略した文字。

パン袋のほとんどが、昭和30年代初期にデザインされたものといいます。

創業当時はあんパン1個5銭で販売していたそう。大正時代のお金の価値は、1銭がだいたい、今の100円ほど。5銭はちょっとぜいたくな値段でした。

ときは流れ、現在のササキパン本店のパンは、ほとんどの菓子パンが税込130円と、庶民の味方。

戦争時期を乗り越えたあとは、近隣の保育園や学校関係の施設にもパンを納め、地域密着を貫いてきました。

高齢の常連さんも多く「小さな頃から、ここのパンを食べて育ってきた」と話を聞くと、現在店をきりもりする三代目・四代目ともに「まだまだがんばらなければ」と思うそうです。

ササキパンに行ったらぜひ食べたい!名品たち

乙女のように可憐な「ラインパン」に、グローブ型の「ジャムパン」…。創業から97年間愛され続けてきたササキパンの名パンたちをご紹介します。

●真っ赤なゼリーがチャームポイント「ラインパン」

ラインパン

私がササキパン本店でいちばん好きなパン。縦割りコッペパンの間にバタークリームを挟んで、赤いゼリーをちょこんとのせた「ラインパン」。

食べ進めると、パンとケーキの間を行ったり来たり。ふわふわと気持ちが宙を舞う可憐な乙女のようなパン。見た目にもうっとりさせられます。

●ふくふくしたグローブ型がかわいい「ジャムパン」

ジャムパン

グローブ型が懐かしい! 中身も昔ながらの甘いジャム。

パックの牛乳と合わせて食べたくなります。気分は昭和にタイムスリップ。

●カスタードクリームがあふれる「クリームパン」

クリームパン

ぽってり、ふっくら、なごやかな形。

パンの間からあふれるカスタードクリームからも、誠実さがにじみます。ほっと落ち着き、体に熱が蓄えられる。合わせるならば、パックのコーヒー牛乳でしょうか。

●そのままでも、焼き目をつけてもおいしい「ブドーパン」

ブドーパン

元気に育ったブドウの房のように、おおぶりのブドウパン。「ブドー」という表記も昔ながら。

ブドーパン

2つに割ると、大粒のレーズンが。ほんのり焼き目をつけて味わうのが個人的には好みです。

●しっとりとした最高級の味わい「食パン」

食パン

食パンの白い生地を含めると、トリコロールカラーのチャーミングな見た目。最高級という文字の通り、きめ細やかで、耳までしっとりソフトな口当たり。トーストにも、サンドイッチにも。

●レトロなデザインのパン袋

パン袋

ほとんどのパン袋が、昭和30年代初期から変わらぬデザイン。お城のマークは、伏見城にちなんでいるのでしょうか。

「メロンパン」や「サンライズ」の“全糖”という文字は、砂糖が貴重だった時代を物語っています。

●今回の地元パン

・店名 ササキパン本店
・住所 京都府京都市伏見区納屋町117
・電話 075-611-1691
・営業時間 7:00~19:00 
・定休日 火曜日

【甲斐みのり】

静岡生まれのエッセイスト。大阪、京都と移り住み、現在は東京にて活動。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨などを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。まち歩きや手みやげ講座など、カルチャースクールの講師もつとめる。著書は

『地元パン手帖』

(グラフィック社刊)、

『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』

(エクスナレッジ)、

『全国かわいいおみやげ』

(サンマーク出版)など40冊以上。ホームページ

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