今、パンがブームです。全国各地のその土地・その店ならではパンが人気を集め、遠くから買い求める人も。

「おもに昭和20〜30年代に創業し、その地域に根づくパン屋のパンを“地元パン”と名づけて研究しています。戦後の食糧難の時代は、パンは豊かさの象徴でした。昔ながらのパンは、パン袋や名前も愛らしいものばかりで、興味がつきません」と語るのは、エッセイストの甲斐みのりさん。

今回は、奈良県桜井市「マルツベーカリー」で食べられる、やさしい味のパンとかわいい袋のデザインについて語っていただきました。

マルツベーカリー
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「マルツのパンがなくなったら生きていけへん!」地元にしっかり根づいたバラエティ豊かなパン

これぞ地元パン! 高校の購買部で買えるほか、法事やお供えにも使われている、奈良県桜井市の「マルツベーカリー」の定番パンをご紹介します。

お話を聞かせてくださったのは、2代目ご主人の奥さま。奥さまの実家はマルツベーカリーの数軒隣で、2人は幼なじみだったそう。

「主人の父である先代が残してくれたマルツベーカリーの名物パンの数々は、私たち夫婦の宝もの。そのことに感謝しつつ、マルツにしかない味をこれからも守っていかなければと思っています」

名物パン“パピロ”
名物パン“パピロ”はミルククリームがほんのり甘い、やさしい味。

先代がパン屋を始めたのは昭和23年。時代は戦後の食糧難。
「これからはパンの時代がやってくる」と先見の明をもち、パンをつくりはじめました。

100年を越える歴史を誇る桜井高校の購買部でパンを販売したり、市内の幼稚園や保育所にパンを届けたり。法事や仏前のお供えものとして、お菓子ではなくマルツベーカリーのパンを注文する人も多くいます。

地元の人たちには、食事・おやつ・贈りものとしてもおなじみ。同郷同士集まれば、マルツのパンの話で盛り上がると、お客様からもよく言われるそうです。

あんパンやジャムパン、「パピロ」や「イタリヤンパン」…。どれも懐かしく、長年愛されてきた味

●うず巻き模様の名物パン「パピロ」

名物パン“パピロ”

創業当時から70年愛される、白いうず巻き模様のあるパン。やわらかなパンの中に、バタークリームに似たミルク風味のクリームをはさみ、ほんのり甘い味わいです。“パピロ”という愛らしい名前は、材料のひとつであるクリームの商品名に由来します。

●「シューパン」は昔ながらのクリームパン

シューパン

ぽってり甘いカスタードクリームをたっぷり入れて焼き上げた、しっとりやわらかなクリームパン。

シューパン

「シューパン」というモダンな名前は、マルツベーカリーならでは。創業当時からの定番パンです。

●昔から子どもたちに人気の「ジャムパン」

ジャムパン

こちらも、創業当時から販売されている定番。菓子パン生地の中に、イチゴジャムを入れて焼き上げています。

●粒あん派に愛される「小倉あんパン」

小倉あんパン

創業当時から販売されているパンのひとつ。菓子パン生地の中には、粒あんが。根強いファンがいる人気パン。

●チャーミングな名前の「イタリヤンパン」

イタリヤンパン

細長いパンの間には、パピロと同じ「パピロクリーム」が入っています。

イタリヤンパン

“イタリアン”ではなく、“イタリヤン”という名前が、昔風で微笑ましい。店内では「イタリヤ」と呼ばれています。

●コッペパンの間にクリームいろいろ!「いちごロール」「ピーナッツパン」(ピーナッツロール)「チョコレートロール」「バタークリームロール」

クリームいろいろ

ほんのり甘い菓子パン生地で焼き上げたコッペパンの間に、いろいろなクリームをはさんでいます。すべて創業当時からおなじみのパンです。

●2種類の食パンもいい顔をしています

2種類の食パン

もっちりとした生地の「ストロングブレッド」と、ふんわりやわらかな生地の「ファミリー食パン」。

食パンの袋

食パンの袋も、おしゃれさん。

●パンを包む衣装(袋)にも注目!

パンを包む袋

パピロ、小倉あんパン、ジャムパン、シューパン、メロンパンなど、創業時から変わらない姿で店に並んでいます。

パンを包む袋

それぞれに個性があって愛らしいパンの袋も、昭和の時代から同じデザイン。パソコンなどない時代のレタリング文字は、素朴な手づくり感と、センスのよさを感じます。

ストライプのテントの色

買いもの袋のデザインは、店先にかかる赤と青のストライプのテントの色と同じ。

店には、遠方に引っ越したり、ほかの町へ嫁いだ人が、「久しぶりにマルツベーカリーのパンが食べたくなって」と立ち寄ることも日常風景。

「『マルツのパンがなくなったら生きていけへん!』と言っていただけることが、なによりの励みです」という奥さまの言葉が、頼もしく聞こえました。

●今回の地元パン

・店名 マルツベーカリー
・住所 奈良県桜井市桜井196
・電話 0744-42-3447
・営業時間 7:00~売り切れ次第終了
・定休日 日曜日

【甲斐みのり】

静岡生まれのエッセイスト。大阪、京都と移り住み、現在は東京にて活動。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨などを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。まち歩きや手みやげ講座など、カルチャースクールの講師もつとめる。著書は

『地元パン手帖』

(グラフィック社刊)、

『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』

(エクスナレッジ)、

『全国かわいいおみやげ』

(サンマーク出版)など40冊以上。ホームページ

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