「次はどうなるんだ!?って、どんどん引き込まれていました」
WOWOWで12月2日から放送されるドラマ『名刺ゲーム』に主演する堤真一さんは、初めて台本を読んだときの印象をそう語ります。はなやかなテレビ業界の裏にある番組づくりの過酷さや、人気商売ならではの悲惨さといった闇の部分がリアルに描かれる本作について、堤さんにお話を伺いました。

堤真一
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思春期の娘を持つ父親役は、今まであまり経験がなかったので新鮮です

「出演の決め手になったのは、完全に脚本です。純粋に、読み物としておもしろかった。つまらない脚本って、読もうとして開いても、なかなか読み進められないんですよ。そういうものは、あまりやりたいとは思えないですね」
原作は、数々の人気バラエティ番組を手がける放送作家・鈴木おさむさんによる同名小説

『名刺ゲーム』

(扶桑社文庫)。堤さんもやはり、テレビ業界に携わる1人。これはリアルだな、と実感した部分はあるのでしょうか。
「それが、意外とないんです。というか、じつは僕も、テレビ業界の裏側がどういうものなのかまったく知らない。本当にこんなにギスギスしてるの? って逆に聞きたくなります(笑)。これがリアルだったら怖いなあ…。書いている方が業界の人だけに、ちょっとぞっとしますよね」

堤さんも、作品の宣伝などでバラエティ番組に出演することはありますが、ドラマとバラエティ現場の雰囲気の違いを感じているそう。
「バラエティは、ドラマと違ってやり直しができない、本番一発勝負。そんななかで芸人さんたちは『俺がいちばんおもしろいんだ』って存在感を示さないといけない。すごい緊迫感が漂ってるんですよね。たまに出ると、『俺はこんなところにいてええんやろか』って緊張してしまう(笑)」

堤さんが演じるのは、人気クイズ番組のプロデューサー、神田達也。ある日、娘の美奈とともに見知らぬ地下室に拘束されたところから、物語は始まります。思春期の娘を持つ父親役は、今まであまり経験がなかっただけに、堤さん自身も新鮮に感じているそう。
「思春期の女の子ってどう接していいかよくわからなくて、娘役の大友花恋ちゃんとはまだあまり話せてないんです。嫌われたらどうしよう?って(笑)。息子役なら『おう』って感じで気楽に話しかけられるんですけど」

捕らわれた神田の前に現れるのは、岡田将生さん演じる謎の男。男は美奈を人質にして、あるゲームを挑んできます。ゲームが進行するにつれて明らかになっていくのは、ヒットメーカーの神田が行ってきた非道な振る舞いの数々。そんな神田の人物像を、堤さんは「余裕のない人」ととらえます。
「神田は1つヒット作を出しても、次々におもしろい番組づくりを求められる。視聴率が少し落ちただけで、『もうダメなんじゃない?』と言われるような世界で生きている人。必死に仕事をして、周りが見えなくなって、だんだん態度も横柄になっていって…。余裕がなくなって、常に追われている感じがあります。それはきっと、テレビ業界に限りませんよね」

神田に限らず、登場人物は全員「追い詰められて、どこか壊れてしまった人ばかり」と堤さん。
「環境次第でだれでもそうなってしまうのかも、と思わせられるのも、このドラマの怖い部分です」

子どもはどんなに小さくても、自分とは違う人格を持った人間

堤真一

神田とはまた違った形ですが、堤さん自身も「追われているような感覚は若い頃から今もずっとある」そう。
「今でも、舞台の本番前は失敗する夢を見ます。ただ、年を重ねるごとに、夢の中でも自分なりに成長してくるんですよね。若いときに見ていたのは、『まったくセリフを覚えてないのに、今から本番だ、どうしよう…』って恐怖で目が覚める夢。最近は開き直って、覚えてないままでも『いいや、なんとかなるだろう』と舞台に出るようになった。それで1幕はどうにかこなせるんだけど、2幕はやっぱりできなくって、結局は焦りまくるという夢。慌てて目が覚めるっていうのは同じなんだけど、ちょっとずつ対処できるようになってるんですよね。たぶん60代になったら、最後までできるようになってると思う(笑)」

周囲から傲慢と思われたり、敵をつくることになっても、神田が強引に自分のやり方を押しとおそうとするのは、ひとえに「おもしろい番組をつくりたい」という思いから。堤さんにとっての「おもしろいもの」とはどんなものなのでしょうか。
「僕はドキュメンタリーが好きなんです。見たことのない動物や自然を見て、『こんな世界があるんだ』と驚きたい。反対に、おもしろくないなあと思うのは、『これおもしろいでしょう?』『奇抜でしょう?』ってわざとらしく提示してくるもの。おもしろいかどうかは、見た人が判断することだから。つくり手側の狙いが透けて見えると、かえって引いちゃいますね」

スリリングな展開で始まりながらも、次第に家族との絆について考えさせられるのも、ドラマの見どころ。神田のように仕事が忙しいあまりに心のゆとりがなくなり、家族と溝が生まれてしまう可能性は、どんな家庭にもあるもの。家族が壊れないようにするには、どうしたらいいのでしょうか。
「どうなんでしょうねえ…。僕はそれなりに年を取っているから冷静に考えられるけど、もし若いときに結婚して、仕事も大変で、家では思春期の子どもに文句言われて、みたいな状態だったら、父親としてはけっこう傷つくと思うんですよね。そういうのが重なったとき、無理に維持しようとしても余計にぎくしゃくすることもあるでしょうし。ひずみはひずみとして受け止めていくしかないと思います。もしも家族が離れてしまったら、それは辛いことだけど、そこからどう生きるかは、自分が決めていくことだから」

仕事を離れれば、自身もひとりの家庭人である堤さん。子どもと接する上で大切にしているのが、「ひとりの人間として尊重すること」だと話します。
「どんなに小さくても、自分とは違う人格を持った人間だから。自分の趣味を押しつけたり、所有物のように扱わないほうがいい。親は、つい自分が望む方向に子どもを誘導したくなるものだけど、子ども自身の気持ちを尊重することが大切だと思っています」

ときに冗談を交えて取材陣をリラックスさせながら、ドラマの見どころや仕事との向き合い方を話してくれた堤さん。ドラマでは、追い詰められていく主人公をどう演じてくれるのか、こちらも見逃せません。

【堤真一さん】

1964年、兵庫県生まれ。舞台、映画、ドラマなどで幅広く活躍する。主演をつとめるドラマ『名刺ゲーム』(WOWOW)が、12月2日(土)夜10時スタート(全4話)※第1話無料放送。また、2018年1月10日より、舞台『近松心中物語』に出演。