作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。
今回は、たくさんあるバジルを使ったジェノベーゼレシピについてつづってくれました。

第55回「私好みのジェノベーゼ」

暮らしっく
すべての画像を見る(全8枚)

●秋になると台所に立つのが楽しい

朝、庭掃除をしていたらどこからともなく甘い香りがする。自転車に乗った親子が「金木犀のいい匂いねえ」と言いながら通り過ぎていった。振り返ると、向かいの家の金木犀が去年より随分成長して、オレンジ色の花をつけて星空のようだった。今年も秋が来たみたい。

朝顔は夏の終わりを拒むように、ユーカリにからまって、赤紫の花を咲かせている。地球は生きているなあと思う。電気を消すようにパチンと季節が切り替わることはなくて、それは植物や人の成長と同じだ。“夏が終わる”というより夏が衣を羽織って秋という名前に変わるということなんだろう。

芋蒸しパン

涼しくなると、台所に立つのが楽しい。火を使うのも苦にならないし、冷蔵庫に入れた作り置きが傷みにくいのも嬉しい。お隣さんが、実家から届いたサツマイモをおすそ分けしてくれた。芋に栗に南瓜に、大好物が待っている秋だなあ。芋はふかしたり、芋蒸しパンにしたりしてあっという間に食べてしまった。油を使わない蒸し料理が年々好きになっていく。

●バジルを使ってジェノベーゼペーストを作ろう

そうそう、夏の終わりに知人にバジルをたくさんいただいたのだ。今年は我が家はダンゴムシに全部食われてしまったから、ありがたい。香草って少しあるとアクセントになるよね。トマトに乗せたり、サラダにちぎって使ったり。
でも…なかなか減らない。そのうち冷蔵庫で、しなってきてしまった。ジェノベーゼペースト作ろう! 夏にも作ったので秋版のジェノベーゼ作戦だ。

最近、ハンドブレンダーを手に入れたので使ってみよう。ポタージュやドレッシングを等作るのにも便利だ。もちろんミキサーでも大丈夫だが、周りにくっついて上手くつぶせないこともあるので、時々ふたを開けて混ぜたり、ある程度オイルをしっかり入れることがポイントかな。

でも、私は、このオイルたっぷりがちょっと苦手なんだなあ。ソースになるくらいに滑らかなジェノベーゼを作るには、びっくりするくらい大量にはオイルを入れねばならん。一口目はおいしいけれど、どんどんと重く感じてしまう。お年頃だろうか。

そこで私は…。

ミキサーに入れる前

まずは、バジルの葉っぱだけをちぎって容器(またはミキサー)に入れる。量は40グラムくらいかな(茎は苦くなるのでここには入れず、冷凍にしておいて他で使う)。そこにニンニク1かけと、何でもいいので家にあるナッツを。アーモンドがあったので5粒ほど砕いて入れた。そこに塩を小さじ1杯、オリーブオイルを小さじ4杯入れる。バジルは洗うと水が入って腐りやすい上、オイルが乳化されて白くなるので洗わない(もしくはキッチンペーパーでしっかり水分を拭き取る)。これをブレンダーでギュイーンといく。

オイルが少ないので、詰まってなかなか思うようにいかなかったりするので、オイルが平気な人はもう少し入れるのがいい。イマイチだなという時はすり鉢を使うと確実にペーストになる。手に勝るものなしだ。

ジェノベーゼペースト

私は、葉っぱの食感が残っている方が好きなので、青のりくらいの細かさで終了。空気が入らないように密閉すれば冷蔵庫で1週間は持つ。

●ジェノベーゼでアレンジレシピ

キュウリのジェノベーゼ和え

ジェノベーゼ生活のはじまりはじまり。まずは、キュウリをばんばん綿棒で叩いて、一口大に割る。包丁で切るよりも凸凹の断面にソースが絡むので梅肉和えの時なども、あえてそうしている。そこにジェノさん登場。スプーン1をボールの中でしっかりと混ぜてキュウリと絡める。器に盛って最後にパルミジャーノチーズをかければ、完成。これはビールが合う。

ジャーマンポテトジェノベーゼ風

二日目は、ジャーマンポテト(ベーコン抜き)のジェノベーゼ風。

ジャーマンポテト調理

ジャガイモ4つを、皮付きのまま大きめにカットし、まずはフライパンに150ccほど水を入れて蓋をして5分ほど蒸す。その後、水分を飛ばしながらこんがり焼き目がつくまで焼く。お箸をさして通れば完成。火を切ってからジェノベーゼソースを入れるのがポイント。バジルの匂いが飛ぶので極力熱さないのがいい。これもビールが合う~。

ジェノベーゼパスタ

三日目は、定番のジェノベーゼパスタに。オクラやナス、ジャガイモ等の野菜を入れるのもいいけれど、今回はソースとパルミジャーノのみでいただく。秋近くのバジルは、花が咲き、葉の色も濃くなり強さが増す。夏に作ったジェノベーゼソースより味も香りも確実にたくましくなっていて、他の野菜に勝ち目なしだからだ。同じ素材でも、風味の違いで季節が巡ったことを知る。人間と同じだなあ。

秋はどことなく寂しい。若い頃は俄然夏の方が好きだったが、今は、少し寂しいくらいが心地よい。落ち着いて仕事にも暮らしにも向きあえる秋が一番好きになった。一日一日、冬へと衣替えする季節を楽しみたいと思う。

【高橋久美子さん】

1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。最新刊で初の小説集『

ぐるり』(筑摩書房)が発売。旅エッセイ集『旅を栖とす』(KADOKAWA)ほか、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集「いっぴき」(ちくま文庫)、など。翻訳絵本「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:んふふのふ