コンパクトだけど収納スペースが十分にあって窮屈でない。そのうえ、使い勝手もいい!そんな夢みたいなキッチンを紹介します。今回訪れたのは、建築家・保坂猛さんのお宅。延床面積約19㎡という平屋のお宅のキッチンには、理想を実現するためのヒントが詰まっていました。
すべての画像を見る(全13枚)レンジフードの上や壁面、コンロ奥のちょっとしたスペースを余すことなく収納スペースとして活用しています。
夫婦二人三脚でつくり上げた狭小だけど使い勝手のいいキッチン
保坂さん夫妻が2年前に建てた平屋は、なんと延床面積約19㎡。そこにキッチン、ダイニング、寝室、浴室などの空間がきちんと機能する形で存在しています。「古代ローマ人が生活の中で大切にしていた〈食事、学問、入浴、演劇、音楽〉の5つの要素を大事にして、暮らしの質をそぎ落とさないような設計に努めました」と保坂さん。
家全体、そしてキッチンはとくに妻の恵さんのアイデアや要望をすべて反映しました。コンクリート壁と無垢の床材とのバランスを考えて、重たい印象にならないよう、キッチンにはステンレスを採用。キッチン下収納は扉を付けずオープンにすることで、出し入れしやすく圧迫感の感じられない仕様に。
「普通ならキッチンを支える脚が必要になるんですが、脚がなければそのぶん少しでも収納スペースが増やせる、ということで、キッチンは両側の壁のくぼみに載せるだけというプランを夫が提案してくれて。おかげでめいっぱい調理道具が入れられて大満足です」(恵さん)
また、シンクは日々の洗い物がしやすいように何度もシミュレーションして高さやデザインを恵さんが設計しました。カフェで見てからずっと自宅のキッチンに取り入れたかったという、カップやグラスを一瞬で洗うことができるピッチャーリンサーも採用。料理好きな恵さんの希望がすべてかなえられたキッチンが完成しました。
お気に入りの器や調理道具を減らすことなく、かつ機能的な空間にするために、ボウルやざる、コーヒーや紅茶を入れるパーコレーターなど軽めのアイテムは、レンジフード上のスペースを収納場所に。片手鍋は使わず、持ち手が取れてサイズ違いの鍋を入れ子にして省スペースで収納できるタイプのものをセレクト。重ねて収納できないグラス類は、ダイニングの窓部分を活用した奥行きの浅い棚にまとめています。
狭いからものが置けない、不便と捉えるのではなく、限られた空間だからこそ、そこにどうやったら大事な要素をすべて入れ込むことができるか、じっくり考えて工夫をする。そんなプロセスさえ楽しめる保坂さん夫妻だからこそ実現した、理想のキッチンといえそうです。
プロペラ状のリンサーディスクをカップで押さえると水が噴射され、瞬く間に洗浄してくれるピッチャーリンサー。業務用のため入手するのが困難で「探しに探してやっと見つけた」こだわりの設備。
「使うたびに気分が上がる」と恵さん大絶賛の水栓は、ハンスグローエのプレミアムブランドAXORのもの。
ANAの機内で実際に使われている機内搭載カートをキッチンワゴン代わりに使用している。トップはちょっとした作業台にも使えて便利。
My Favorite Kitchen Item!
フィンランドのiittalaの鋳物製鍋。木製の持ち手はフタを持ち上げる際にも使えて便利。
ひと目ぼれして購入したという陶芸家・塚本誠二郎氏の急須。現在はもうつくられていない価値ある作品。
海外旅行が大好きな保坂夫妻。旅先のお土産屋で購入したスプーンをコレクション。
恵さんお気に入りの和食器店「ボクノワタシノ。」で購入した器の数々。
白熊のエッグスタンドも同店で購入。遊び心のある動物モチーフの雑貨がお気に入り。
保坂さんの安らぎ時間のお供拝見!
左/夫婦で過ごすおやつの時間。お菓子と飲み物の組み合わせはその日の気分に合わせて。
右/恵さんの父親が60年前に購入したというコーヒーサイフォンで淹れるコーヒーの味は格別。
保坂邸DATA
住所/東京都文京区
家族構成/夫:40代 妻:50代
敷地面積/31.43㎡(9.52坪)
延床面積/18.84㎡(5.71坪)
竣工/2019年2月
●保坂 猛さん/建築家
2004年に保坂猛建築都市設計事務所を設立。2005年に建てた横浜の自邸「LOVE HOUSE」は国内外で多くの賞を受賞。2015 年より広島工業大学で非常勤講師、早稲田大学芸術学校にて准教授を務める。
撮影/山田耕司 ※情報は「リライフプラスvol.41」取材時のものです