在宅の時間を楽しく過ごせる家。そんな家づくりをしたいという人が増えています。今回紹介する事例は、趣味のスペースやワークスペース、ライブラリーコーナーを備えたお宅。パブリックな部分も、パーソナルな部分も充実したつくりの住宅です。設計したのは、一級建築士の俵谷知英子さん。建築費は2160万円、今どきのニーズに合った住宅と、そこで暮らし始めたMさん一家の様子をレポートしてくれました。
すべての画像を見る(全14枚)キッチンを中心に家族みんなが集まるLDK
住まい手であるMさん夫妻は、「ぜいたくは好きではないけど、こだわるところはこだわりたい」という主義の持ち主。
夫はイギリスに住んだ経験があり、その時に日本の文化のよさを改めて感じるように。盆栽や苔を育てたり、三味線をひいたりすることが趣味になったそう。
「昔ながらの日本の文化を楽しんだり、自分の時間を持ったりしつつ、家族と気軽にコミュニケーションがとれるようなお家にしたい」。そんなMさんの要望をかなえることになりました。
こちらは1階のLDK。できるだけ広くスペースを取っています。どこにいても家族の気配が感じられる部屋に。「無垢材の床材は、裸足で歩くととても気持ちいいです」とMさんからも好評です。
「夫婦はダイニングチェアのまま、子どもはソファに移って、食後はみんなでおしゃべり。会話が弾みます。それに、そばにいるという安心感があるのか、子どもがひとりでもおとなしく遊んでくれますね」(Mさん)
LDKのシンボルは対面キッチン。朝食や少し軽く食べたい時などは、つくったものをすぐに渡せます。片づけも、受け渡しがスムーズなので快適です。
コミュニケーションが取りやすいのもメリット。キッチンでお絵描きや人形遊びをしている子どもが、Mさんに楽しげに話しかけてくるそう。
「ものが多くないので、背面収納は腰までの高さにしました。壁にあるオープンな棚に食器を飾るように置けてお気に入りです」(妻)
住まいのデザインや見た目も大切ですが、長く住むことを考えたら、耐震性は重要な課題。もともと震災や大雨の影響を受けた旧家の建て替えだったこともあり、耐震性は法令上の最高等級の耐震等級3を満たすようにしました。真ん中に移っている柱は構造上大切な柱です。
こだわりの間接照明を、LDKを引き立たせる大事なアクセントに。「コスト調整のため採用できないかもしれなかったけど、実現できて本当によかったなと思います」(Mさん)。
趣味の部屋にライブラリコーナー!家にいる時間が楽しい
畳コーナーは、夫のお気に入りの場所。障子のデザインと窓の高さにこだわりました。家の中にこだわりの場所がひとつでもあると豊かな気持ちを味わえるものです。趣味の三味線を弾いたり、盆栽を飾ったり。充実した時間を楽しんでいるそう。
小さな子どもがいる家庭なので、お昼寝の場所にも活用。また、LDKと一体的に使うこともできます。お仏壇を置いていて、法事の時には親戚で集まるそう。多目的に使える部屋です。
「三味線をひいて自分の時間に没頭している時でも、ふとリビングの方を見ると妻と子どもの姿が目に入ります。自分の時間を大切にしつつ、家族の気配が感じられて気に入っています」(夫)
ちなみに、畳スペースはLDKよりも高さを30cm上げています。座っていても、畳スペースからリビングの様子がわかりやすい仕掛け。畳下の空間は収納になっていて、ふだん使わない布団や家電などを収めています。
こちらは、2階に続く階段スペースを生かした本棚。家族の本や絵本を置いています。2階にあがる時に、大人も子どもも好きな本を選んで、自分の部屋に入るのが習慣。常に目がいくところにあるので、家にどんな本があるかわかりやすいですね。
「娘がもう少し大きくなったら、保育園や学校でつくった工作や絵を飾りたいなと思います」(Mさん)
家族の成長に対応した、機能的な工夫がいっぱい
2階のホールは、夫のパソコンスペースに。窓をたくさん設けたことで、風通しもよく明るい空間になりました。
家族が通る場所をパソコンスペースにしているので、みんなが気軽に会話できます。仕事はテレワークではないので、あえて個室にはしませんでした。
広々とした2階の洗面室。ぬくもりを感じる木の洗面台を造作しました。洗面台は幅広に。お出かけ前にふたり同時に並んでも、広々使えます。女の子がいる家庭なので、将来おしゃれをしたくて洗面室を使う時間が長くなっても安心ですね。
この洗面室には、坪庭に面した窓が。わずか1畳弱の坪庭ですが、2階のホールに光を届けます。
2階の子ども部屋には、黒板クロスを使用しました。チョークで描いた絵は、濡らしたタオルで消すことができます。イラストレーターの妻は、絵がとても上手。親子でお絵描きは楽しいですよね。
玄関周りの様子。「植栽は自分で植えました。解体する前の家にあったものや、祖母のお庭から持ってきているので思い出が残りますし、手を入れながら住む住まいが気に入っています」とMさん。
間取図
建築費:2160万円
設計/hito coco一級建築士事務所
撮影/松本匡司
●教えてくれた人/俵谷知英子さん
「hito coco一級建築士事務所」主宰。一級建築士でありインテリアコーディネータであることを強みに、設計当初から提案の中にインテリアの要素を加えることが得意。住む人に寄り添った住宅をデザインすることを心掛けている