家事ラクのアイデアが満載で、アトリエスペースまで備えた楽しい戸建住宅を紹介します。住まい手は、ともに仕事を持つ夫婦と2人の子ども。家事時間の短縮ができたおかげで、家族が一緒に過ごす時間も増えました。写真はLDKの様子です。表しにした吹き抜けの梁が印象的。アトリエスペースの隣に位置しています。ここはまさにこの家の心臓部といえる場所。独立型のキッチンを中心に、ダイニング、「みんなの書斎」と名づけられたアトリエスペース、畳コーナーにまで目が届き、キッチン裏は玄関土間、パントリー、洗面や洗濯・収納スペースなどにつながっています。
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スペースを仕切ったりつなげたり自由自在な間取りに綿密に計算された動線で、自由自在に使える家事ラクハウスいつでも家族の気配を感じられる、オープンなキッチンLDから中が見えない冷蔵庫キッチン収納の使い方も自由に玄関から続く長い土間スペースは、収納にも一時置きにも大活躍子どもの作品は、見える場所にまとめて掲示2か所のトイレはプライベートとパブリックに完全に分けてワークデスクは2人分。時間を分散して使い分け洗濯物は乾燥室から、衣類収納スペースへ直行宅配ボックスも置き配スペースも完備間取図スペースを仕切ったりつなげたり自由自在な間取りに
Tさんの家 愛知県 家族構成/夫42歳、妻41歳、長女7歳、長男5歳
設計/吉村真基建築計画事務所|MYAO
《この家のこだわりポイント》
- キッチンを中心に家事スペースを効率よく配置
- 乾燥室や土間収納などで家事の効率化を徹底
- 明確に住み分けられるアトリエスペースとプライベートスペース
- 各スペースを自由に仕切ったり、つなげたりできる、可変性に富んだ間取り
綿密に計算された動線で、自由自在に使える家事ラクハウス
「アトリエスペースが欲しい。家事もラクにこなしたい」との思いをカタチにした家事ラクハウス。この家に暮らすのは会社員のTさん、教員の妻、小学2年生の長女、保育園児の長男です。夫妻の仕事と子どもの年齢を聞いただけでも、日々の忙しさが容易に想像できるでしょう。
美術大学出身の妻は仕事の傍ら、地域のアートイベントやアートワークショップに関わってきました。それゆえ新居には自由に使えるアトリエを要望したとか。設計を依頼したのは建築家の吉村真基さん。
計画は夫の転勤で5年の歳月を要しましたが、その間にTさん夫妻は家づくりに真剣に向き合いました。「自分たちの暮らしに必要なものはなにか、どんな動線にすれば家事効率がよいかを徹底的に分析したんです」(妻)。
吉村さんから提案されたのは2つの切妻屋根が組み合わされ、扇が開いたようなユニークな形の家。
「アトリエスペースには、来客用のトイレや洗面をつけてイベントにも使えるように。居住スペースには家事をラクにこなせる工夫を盛り込んでもらったので、すごく助かりました。また引き戸だから自由に間仕切れて、公私の区別も簡単につけられます。どうしても欲しかったのは乾燥室。クロゼットとつなげているので、洗濯にかかる時間を大幅に短縮できました」(妻)
平日は妻が、休日には夫が食事をつくります。「リモートワークのおかげで家族と過ごす時間が増えました。僕も家事に参加するし、家族の関係性が今まで以上によくなったと感じますね」(夫)
夫妻の忙しい毎日を支えているのが、この家事ラクハウスなのです。
アトリエスペースの上に設けられたロフトからの眺め。
現在は子どもたちの遊び場として使われている「みんなの書斎」から見るLDKと畳コーナー。使い方に応じて、つなげたり仕切ったり。
いつでも家族の気配を感じられる、オープンなキッチン
オープンタイプのキッチンはオリジナル。裏側のバックヤードと行き来もラクにできる動線です。またスケルトンの鉄製階段を通じて2階ともつながります。踏板は木製なので、金属のかたさをやわらげる効果も。「2階へ持っていくものは、階段の隙間にちょっと置いておけて便利なんです」(妻)。
キッチンからは庭で遊ぶ子どもにも目が届き、家事をしていても安心できます。
LDから中が見えない冷蔵庫
キッチン裏の冷蔵庫置き場は袖壁で仕切ってあるのでLD側からは中が見えません。だから来客時でもストレスフリーに開閉できます。冷蔵庫の裏も収納スペース。
冷蔵庫の向かい(写真右)にはランドセルや子どもの学校関係書類などが一手に収まり、土間(写真奥)は分別ゴミや備蓄品などの収納庫。窓つきで通風も良好。
キッチン収納の使い方も自由に
オリジナルのキッチンは壁の収納の面材を合わせて統一。背面には調理家電、食器を収納しているので、調理中でも振り向けばすぐに必要なものが取り出せます。
ダイニング側の収納には家族で遊ぶゲームなどが。小さな子どもでも出し入れしやすい位置です。
玄関から続く長い土間スペースは、収納にも一時置きにも大活躍
アトリエ側の玄関、家族が使う玄関、勝手口は、長い土間でひとつながりになっています。キッチンの裏に当たる位置には備蓄品や分別ゴミを置く収納庫、壁には雨具やお出かけバッグなどをハンギング収納。広いので子どもの自転車も置いておけます。いただいた泥つき野菜などもここへ一時置きできる大活躍スペースです。
来客時などには引き戸を閉めてパブリックな空間に雰囲気を変えられます。
子どもの作品は、見える場所にまとめて掲示
「子どもは自分の作品を飾られるのが大好きだから、みんなに見えるところに貼ってあげるんです」(妻)。壁に鉄板を埋め込んだ小さなギャラリースペース。マグネットだから、貼るものも手軽に変えられます。
アトリエ側から庭に続く土間は文房具や工作材料を置いておく棚をDIY。
2か所のトイレはプライベートとパブリックに完全に分けて
キッチン裏にあるトイレは家族専用。ハイサイドライトが設けられた明るい空間。「ダイニング側からは入り口も見えないので落ち着いて使えるんです」(妻)。
アトリエ側にある来客用の手洗いとトイレ(左手)。「これならお客さまにも遠慮せずに使ってもらえます」(妻)。リビングとアトリエの仕切りを閉じれば個室にもなります。
ひと続きのアトリエと「みんなの書斎」。今はコロナ禍で対面のアートイベントを控えているため、子どもたちの遊びのスペースに。上部は普段使わないものを置いておくロフト。壁のペイントもグリーンイエローとライトグレーで変化を。
姉弟の使う領域は「背の低いカラーボックスでスペースを分けてけんかにならないようにしています」(妻)。
ワークデスクは2人分。時間を分散して使い分け
手前は妻のワークデスク、奥が夫のワークデスク。夫はテレワークが多く、妻は出勤なので、デスクは2人分ですがイスはひとつ。時間で使い分ければ事足りるそうです。「LDKとも吹き抜けでつながっているので、仕事をしていても下の気配が分かります。夕飯の匂いが漂ってくると、そろそろ仕事を切り上げようかな、と」(夫)。
背面には大容量の本棚が。3分の2を妻、3分の1を夫と振り分けています。右のデスク隣は、将来的には布団干し場にも使えるサービスバルコニー。
2階にも手洗い場があってなにかと便利。
洗濯物は乾燥室から、衣類収納スペースへ直行
クロゼットと浴室に挟まれた脱衣室。上はタオルなどの収納、下のカゴには洗濯するモノを入れ、洗濯機へポイ。
妻が切望した乾燥室には乾燥機を設置し、庭側と道路側に通風ドアも設けてあります。ここに洗い物を干して、乾いた洗濯物はハンガーにかけたまま、ファミリークロゼットに収納。「このスペースと動線はすごく考え抜きました。たたむ時間も惜しいので、そのままかけられたら便利だろうと思っていたんです」(妻)。片隅に設けられた小ぶりなカウンターではアイロンがけや小物をたためます。
洗面スペースの向かい側は家族専用トイレ。
浴室にはハイサイドライト、通風用の腰窓を設け、オーバーヘッドシャワーと通常のシャワーの2つを設置。子どもと入浴していても同時に使えて便利。
宅配ボックスも置き配スペースも完備
アトリエの隅には荷物搬入用の通路があり、車から降ろしてすぐに室内へ入れられるので、雨の日には特に重宝。また大きな荷物の置き場所にもなります。
玄関隣には宅配ボックスもビルトイン。
傾斜地に建つ家の外観。敷地や近隣との関係を考慮して、角度がつけられています。2つの切妻屋根で構成され、左側の屋根の下が住居スペース、右の屋根の下がアトリエスペース。前庭には家を建てる前から敷地にあった大ぶりな庭石と新しく入れた石を組み合わせ、さながらロックガーデンのような趣に。
切妻屋根の内部は吹き抜けで、複雑に組み合わされた梁で構成。
寝室の正面右奥は畳コーナー、左奥は書斎コーナーになっています。現在は2階をワークスペースにしているので、ここは子どものおこもり場になっているとか。
寝室の見返し。クロゼットは寝室側からも出し入れできる両面使い。クロゼットには2本のポールが渡してあり、仕事着はクロゼット側に休日に着る服は寝室側にと、仕分けているそうです。
間取図
DATA
敷地面積/391.69㎡(118.69坪)
延床面積/143.22㎡(43.40坪)
1階/ 102.90㎡(31.18坪)
2階/ 40.32㎡(12.22坪)
用途地域/第1種住居地域
建ぺい率/60%
容 積 率/200%
構造/木造軸組工法
竣工/2018年 1月
素材
[外部仕上げ]
屋根/ガルバリウム鋼板縦ハゼ葺き
外壁/ガルバリウム鋼板、
一部サイディング鎧貼り、モルタル金ゴテ仕上げ
[内部仕上げ]
1階 床/桜
壁/合板+塗装
天井/梁表し
2階 床/桜
壁/塗装
天井/梁表し
設備
厨房機器/オリジナル
衛生機器/パナソニック、TOTO
フォンテトレーディング
窓・サッシ/オリジナル(木製サッシ)、LIXIL
施工/誠和建設
設計/吉村真基建築計画事務所|MYAO
撮影/松井 進 ※情報は「住まいの設計2021年8月号」取材時のものです