レトロ感を生かした団地リノベが、今人気です。年月を重ねたものが持つ味を生かして、コスパよくリノベできてしまうのが魅力の団地リノベ。では実際、どういったところがコストダウンのポイントとなるのでしょうか?今回は自身も団地リノベをしたという、建築家の長久保健二さんが、自邸を交えてポイントを解説してくれました。コストにまつわる工夫、アイデア、リノベの楽しみ方の参考に!

リビングでくつろぐ夫妻と猫
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目次:

既存の「味」を生かして心地よい団地暮らし団地のレトロ感を残しつつ、快適な住まいを実現団地リノベの楽しみ方、教えてください

既存の「味」を生かして心地よい団地暮らし

長久保さんがリノベで重視したことは、コスト、眺め、光、周囲の環境。すべてをクリアした物件が、築39年の団地でした。建設当初から使い継がれてきたパーツをアクセントにして、やわらかくやさしい空間に仕上げました。

間取り(リノベーション前後)

長久保さん宅の間取り

大きな間取り変更は行わず、2室あった和室はそのままに。東側の個室と玄関をつなげてワークスペースを新たに設け、玄関のたたきを拡張。リビングとダイニングの間に、ラワン合板で、空間を切り取るような緩やかな間仕切りを設けました(2018年4月竣工、千葉県船橋市)。

長久保さん宅の工事費の内訳

長久保さん宅の工事費

団地のレトロ感を残しつつ、快適な住まいを実現

ポイント1:間取りを大きく変更せず、緩く仕切る

ほとんど間取りを変更せずコストダウン。

「古い壁を新しくするだけでは、団地のいい表情を残すことができない。既存のよさをどう残すかが、団地リノベの醍醐味です」(長久保さん)

LDをラワン合板で緩やかに仕切ることで、リビングを景色として切り取る額縁のような新鮮さがプラスされました。既存のままとした和室には、有孔ボードを使った収納棚を造作して場を分けることに。

LDに開放的な間仕切りを設置

ひと続きだったLDに開放的な間仕切りを入れました。おかげで、広々としたイメージはそのままに個室感があります

ポイント2:既存の床材の上から床を張る

リノベ前に床下をチェックしたところ、腐食などはなく状態がよかったため、重ね張りにしたことで、解体・撤去費用の削減、工期の短縮につながりました。ダイニングの床は、DIYで塗装したラワン合板を使用、リビングの床はオーク複合フローリングで仕上げました。また、2つの和室の壁は既存クロスの上から塗装。

ポイント3:壁をはがして「現し」にする

壁紙とタイルが貼られていたキッチンの壁をはがしたところ、その表情に惹き付けられた夫妻。接着剤の跡や建設時のスタンプの跡なども、ヴィンテージ感があると感じ、「現し」にすることに。洗面所と玄関も同様に、現しを採用。

壁の一部を現しにして黒タイルで仕上げたキッチン

独特の色と質感がレトロな団地の風景と合い、唯一無二の空間となりました。夫婦で壁をはがしたのもいい思い出に。

ポイント4:設備や配管の位置をそのまま利用

キッチンや洗面、浴室など水回りの位置を一切変えずに設備工事費を削減。リノベ前に給排水設備をチェックしたところ、前のオーナーが交換していたようできれいだったため、既存の配管をそのまま利用しています。

現しと黒タイルで壁を仕上げたサニタリー

シンプルな洗面ボウルとミラーキャビネットのみでミニマム、かつ低予算で仕上げた洗面室。

団地リノベの楽しみ方、教えてください

戸建てを検討しながらも、団地に惹かれてリノベーションした長久保さん。団地や集合住宅のリノベーションと、そこで暮らすための予備知識を教えてもらいました。

Q.後悔しないリノベーションをするための心構え、教えてください。

A.どんな暮らし方がしたいか、を考えておくことが大事

ローテーブルのある書斎

リノベーションは、物件の内覧のときから始まっていると思います。「どんな暮らしがしたいか」を思い描きながら、物件を見る。ベランダでたくさんの植物を育てたい。夫婦それぞれにくつろげる空間が欲しい。老後の暮らしを考えて予算的に無理をしないこと…。私も理想の暮らしを考えながら物件を選びました。

ゆずれないポイントがしっかり押さえられていれば、物件のマイナス面もカバーできるのかなと思います。

Q.集合住宅での暮らし、不安があります。

A.購入前に、物件の管理状態をよくチェックしておくといいと思います

窓からの眺め

これも、物件を見るときのポイントになりますが、管理組合や管理会社が実動しているかどうかを不動産屋さんに聞いておくといいと思います。集合住宅で多いトラブルは音の問題ですが、管理側が立ち会うことで解決することもあると聞きます。大規模修繕の時期や配管の交換時期も聞いておくといいですね。コスト削減につながることもあります。

Q.個室は欲しいけど、閉塞的なのはいや!なにかいい方法は?

A.緩やかにゾーニングすると、コスト削減にもつながります

拡張した玄関の横にあるワークスペース

わが家ではリビングとダイニングの間に、大きな額縁のような間仕切りを設置していますが、ダイニングとリビングはつながっていて開放的なのに、リビングに入ると落ち着く。結果として夫婦、そして猫のお気に入りペースになりました(笑)。

新たに壁を設けるのはそれなりにコストがかかりますから、開放的な間仕切りや室内窓、腰まで高さの収納棚などで緩やかに空間を分ける、というのもひとつの手だと思います。

Q.床材や壁材にラワンベニヤが人気と聞きました。

A.人気アップとともに価格もアップ。取り入れるなら色味に注意!

内装のイメージ

ラワンベニヤは店舗などでも使われることが多く、最近人気がありますが、黄色っぽいもの、赤っぽいものなど色にばらつきがあります。

わが家でもリビングの床と壁に使いましたが、ピンクっぽい色を希望していたのに、届いたものが黄色く、イメージに合わなかったので交換してもらいました。好きな色味を設計者や工務店にしっかり伝えておいたほうがいいと思います。

長久保 健二さん

●教えてくれた人/長久保 健二さん(長久保健二設計事務所)
都市デザイン研究所、田縁建築設計事務所勤務後、2015年に独立。光や風、景色を感じられる設計をモットーとし、新築やリノベーションを手掛ける。船橋市、墨田区にショールーム兼オフィスがある。書道家の妻、猫と暮らす。

撮影/山田耕司 ※情報は「リライフプラスvol.37」取材時のものです