大型のテレビを組み込んだリビングの壁面収納、憧れますよね。新築やリフォームの際に取り入れたいと考えている人もいるかもしれません。でも、家具工房「フリーハンドイマイ」の代表・今井大輔さんによると、スマートフォンの普及やAV機器のコンパクト化などによって、そうした大型の壁面収納の依頼は近年少しずつ減っているといいます。
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今使いやすいサイズが、ずっと使いやすいとは限らないパソコンやスマホの普及で、専用のスペースは不要に子ども中心の収納は、将来使いにくくなる可能性も必要最小限の要素で組み立てていく「柔軟性」のある収納とは今使いやすいサイズが、ずっと使いやすいとは限らない
大きな収納のご相談にくる方は、しっかりとした収納計画を立てている方が多いです。たしかに、整理収納に関する書籍などがたくさん出版されていますし、「使いやすい高さやサイズにしたい、しまいたいものに合わせた収納をつくりたい」と願うのは当然のことです。
しかし、私が長年いろいろな家具づくりをしてきて思うのは、「今使いやすいサイズが、ずっと使いやすいとは限らない」ということ。その理由は、家電製品やAV機器などの「モノ」の変化によるもの、もうひとつは子どもの成長によるライフスタイルの変化によるもの、大きく分けて2つあります。
パソコンやスマホの普及で、専用のスペースは不要に
今から10年ほど前を振り返ると、私はスマートフォンさえ持ち合わせていませんでした。そのさらに昔は、家具の図面を描くのに、平行定規というなんともアナログなものを使っていました。
それが今ではパソコンで図面が描けるようになり、目に見えないラインまで記録として残せるようになりました。スマートフォンがあれば移動の際の地図は不要、現場でトランシーバーを使う必要もありません。スマートフォンやタブレットでプレゼンテーションができるようになったのも大きな変化です。
少し前までは「リビングでパソコンを使うスペース」「プリンターやFAXをしまうスペース」「CDやDVDを収納する引き出し」などがほしい、というリクエストがよくありました。
ところが今は、無線LANや軽量化によってパソコンは家の中のどこでも使えるように。CDやDVD、レコードなどをたくさん所有する方も少なくなり、AV機器もコンパクトになりました。
以前、家具を納品したお客様からも「プリンター専用の収納スペースをつくったけれど、プリンターを手放したのでスペースが必要なくなってしまった」「スピーカーを置くスペースを確保しておいたけれど、小型で高性能のものを使い始めたらスペースを持て余してしまった」というお話を聞いたことがあります。
子ども中心の収納は、将来使いにくくなる可能性も
「今使いやすいサイズが、ずっと使いやすいとは限らない」と感じるもうひとつの理由は、子どもの成長によるライフスタイルの変化。子どもが大きくなると、家での過ごし方や親との距離感が変わり、当然収納のスタイルや量も変化します。
子どもが小さいと、散らかりやすく増えやすい子どものモノを主体に考えて収納をつくりがちです。でも、子どもは中学生くらいになると、リビングで過ごすよりも自分の部屋で過ごすことが多くなります。
お客様からは「今まで子ども部屋を納戸のように使っていたので、子ども部屋に置いていたものをリビングにしまわないといけなくなって困った」なんてお話をよく聞きます。場合によってはゴルフバッグやスーツケースなどの大きなものをリビングに収納しなければならない、といった必要性が出てくる可能性もあります。
ところが、おもちゃや学用品、文具や本、ゲーム機といった子どもの細々とした持ち物をメインとしたリビング収納だと、そうしたものをうまく収納できません。子どもが小さい頃は使いやすかったリビングの収納が、子どもが大きくなったら使いにくいものになってしまった…ということも起こり得るのです。
必要最小限の要素で組み立てていく「柔軟性」のある収納とは
そう考えると、今後オーダーで大きな収納をつくる際に求められるものは、「柔軟性」なのではないかと思っています。私の考える、「柔軟性」のある収納とは、「必要最小限の要素で組み立てていく収納」です。
もしもリビングボードをつくりたいと考えているなら、高さを抑えたシンプルな扉のみの収納が良いと思います。
扉を開けたら可動棚が入っているだけの形で、場合によっては引き出しを少しだけ。あとは市販のケースやカゴなどを組み合わせて、その時々で使いやすいようにアレンジする。
最初からあまり細かくモノの定位置を決めて収納をつくってしまうと、それを使わなくなった時にその場所が必要なくなってしまいます。その結果、そのスペースが雑然としてしまうことも。
もちろんオーダー家具ですので、棚板を追加したり、扉を引き出しにつくり替えたりすることも可能です。でも、柔軟に使い続けられる収納にしておけば、長く、不自由なく使い続けられます。実際私も、依頼を受けていろいろと考えた結果、結局はシンプルな形に行き着くことが多いです。
家具をつくる時には、いかにそのモノがしまいやすいか、ということよりも、その家具を使う方が暮らしやすいかどうか、ということをじっくり考えるようにしています。そうすることで、自然と使いやすい形が決まってくると感じています。
●教えてくれた人/今井大輔さん
暮らしに寄り添うオーダーキッチンやオーダー家具を手掛ける家具工房「フリーハンドイマイ」代表。神奈川県高座郡に工房とショールームがある。