キッチンをつくる際「どのようなデザイン・収納にしたいか」を考えることは大切です。あわせて、「部屋のどこにキッチンを据えるか」や「自分たちにとって心地良い動線や距離」について考えることも重要です。「過去に暮らした住まいでの経験が、いま暮らしている家のキッチンづくりの際、とても役立ちました」そう語るのは、家具工房「フリーハンドイマイ」の代表・今井大輔さん。暮らしやすい「動線」や「距離」について、詳しく教えてくれました。
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「回遊動線」「外との距離」が家づくりのひとつの指標にぐるりと回遊でき、対面側でも作業できるキッチンに大満足キッチンの近くに土間や勝手口があると、なにかと便利心地良いと感じる距離や動線は、数字だけで測れないことも「回遊動線」「外との距離」が家づくりのひとつの指標に
私が結婚当初に住んだ小さなアパートは、キッチンのすぐ横に、庭に出る掃き出し窓がありました。
冬は冷えましたが、この外が近いという感覚はとても素敵で便利で、気に入っていました。
その後、別のマンションに引っ越しましたが、キッチンからベランダにすぐ出られるようになっているかどうか、ということを重視して物件探しをしました。今考えると、これはすごく大事なことだったな、と思うのです。
こちらは当時住んでいたマンションのキッチンと通路です。
玄関からキッチンまでの距離はあるものの、キッチン側からも、廊下側からも洗面所にアクセスできる回遊動線は大変便利でした。
また、キッチンの突き当たりには勝手口のようなバルコニーへの出入り口があり、何かと重宝していました。
結果として、この家で経験した「回遊できる動線」「外との距離」が、自宅を建てる際のひとつの指標になったのです。
キッチンに限らず、使いやすい、作業しやすいと感じるポイントは人それぞれ。ですが、目的とする場所までの距離が心地よいかどうか、ということが後々重要になってきます。
例えば、洗濯機から物干し場までが近い方がいい、という方も人もいれば、よく日の当たる屋上の方が気持がいいので洗濯機との距離は気にしない、という方もいらっしゃいます。
キッチンをつくる際も、こうした「距離」に対する感じ方を大切にすると、うまくいくのではないかと思います。
ぐるりと回遊でき、対面側でも作業できるキッチンに大満足
今の自宅は、玄関からすぐにキッチンにアクセスできるようになっていて、キッチンの先に洗面所を配置しています。
キッチンはペニンシュラ型ですが、アイランドキッチンのように回遊できるレイアウトになっています。
キッチンをぐるりと回遊でき、さらにそのまま縁側に出られるようにすることで、家じゅうぐるりと回遊できるようにしました。
大きくなった子どもたちと一緒にキッチンに立つとどうしても通路の行き来が狭くなります。だからといって通路を広めにすると、キッチンとバックカウンターの距離が遠くなりすぎてしまいます。
そうすると、おもにキッチンを使う妻が、バックカウンターから食器を出し入れする際に一歩踏み出すことになってしまうので、却って使い勝手が悪くなってしまう。
そこで、たどり着いたのが現在の間取りでした。家族の誰かがキッチンの通路にいる場合は、反対側からぐるりと回れるし、キッチンの対面側でも作業ができるレイアウトは、とても使いやすくて気に入っています。
※ペニンシュラ型のキッチンとは、オープンな対面型キッチンで短辺の一方が壁にくっついている形をいいます。ペニンシュラとは、英語で半島という意味
キッチンの近くに土間や勝手口があると、なにかと便利
以前、勝手口がある家で暮らしていたとき、ゴミがある程度たまったら、勝手口から外に出して収集日まで置いておけるので、大変便利でした。
今の家は、勝手口はありませんが、玄関からキッチンへのアクセスが良いので、ゴミ出しがそれほど面倒ではありません。
おかげで、キッチンのそばに大きなゴミ箱やたくさんの種類のゴミ箱を置かずにすんでいます(私が住むエリアは分別が細かいのです)。
キッチンには燃えるゴミ(生ゴミ)、プラスチックゴミ、紙ゴミ、3種類のゴミ箱だけを置いて、その他のゴミ、たとえばビンや缶などは、すすいだら玄関の分別用ゴミ箱に置くようにしています。
また、私の家では、部屋がすっきり見えるよう、リビングにゴミ箱を置いていません。
ですので、LDKで出たゴミはキッチンのゴミ箱に捨てるのですが、そうした際も、ぐるりと回れる動線にしておいて良かったと感じます。
家族みんなで料理をする機会が多いお宅の場合は、狭くてもいいので回遊できる動線を確保しておくと助かると思います。
また、キッチンの近くに土間や勝手口をつくっておくと、ゴミの一時置きにも役立ちますし、根菜類や食品ストックなどの置き場としても使えます。
心地良いと感じる距離や動線は、数字だけで測れないことも
ちなみに、わが家のリビングダイニングは正方形に近い形をしています。
ですので、リビングなのかダイニングなのかが割と曖昧で、ご飯をつくる人、くつろぐ人、食べる人、それぞれがなんとなく近い感じが気に入っています。
なんとなく近い距離の中で家族と過ごしていると、みんなできちんと暮らしている、生きているのだなあと実感するのです。
動線にしても、距離にしても、その感じ方は数字だけで測れるものではありません。
家づくりの際は、自分や家族が心地良いと感じる距離や動線を大切にし、しっかりとコミュニケーションしながら決めていくと、居心地の良い空間になるのではないかと思います。
●教えてくれた人/今井大輔さん
暮らしに寄り添うオーダーキッチンやオーダー家具を手掛ける家具工房「フリーハンドイマイ」代表。神奈川県高座郡に工房とショールームがある