高台にあり、南に向いた窓の先に抜群の眺望が広がる中古マンション。購入時はすでにリノベ済みで、内装や設備機器はすべて新品でしたが、塩化ビニルなど新建材を多用した内装や半独立タイプのキッチンを含めた間取りも、好みやライフスタイルに馴染まないものでした。マンション購入後すぐに工事はせず、「一度住んでみて、不満な部分を見極めてリノベしよう」と考えた大谷さん夫妻。2年ほど生活しながらリノベーションで必須の条件を洗い出し、新品だった設備をうまく生かすことで、予算内で希望通りの住まいを実現しました。

窓から日が入って明るいリビング
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目次:

2年生活しながら、リノベで必須の条件を絞り出す新品の設備を生かし、予算内で賢くリノベーションスリットを介して、寝室に光と風を通す腰高の本棚を廊下に設置し、楽しい通り道に回遊できる間取りで、日々のルーティンもスムーズ間取り(リノベーション前後)

2年生活しながら、リノベで必須の条件を絞り出す

ダイニングでくつろぐ大谷さん夫妻

設計は、学生時代からの親友の古谷野裕一さんに依頼。夫妻は以前、古谷野さんが設計した集合住宅に住んでおり、建築家としての古谷野さんの力量の高さを十分に感じていたそうです。

希望したのは、毎日を心地よく過ごすことができ、ゲストを招いてホームパーティも楽しめる空間。LDKの素材には徹底してこだわり、床は杉無垢材、白い壁は調湿・防臭効果のあるドイツ漆喰を使用して、心身ともにやすらげる空間に仕上げました。

南に向けて2つの窓がある明るいLDK

南に向けて2つの窓がある明るいLDK。無駄をそぎ落としたシンプルなインテリアが、視線をのびやかに誘います。

家具の配置で、ワンルームのLDKを緩やかにエリア分け。リビングには、カリモクの限定ファブリックを使用したソファをゆったりと配置しました。

リビングの中央に見えるハワイアンシルキーオークの壁の先に、寝室とクローゼットを配置

リビングの中央に見えるハワイアンシルキーオークの壁の先には、寝室とクロゼットを配置。壁の左右を開けることで、視線や光が抜けて、空気が滞らないようにしました。

ダイニングテーブルは、タモ集成材の天板に、夫と古谷野さんがコラボしてデザインした脚を組み合わせて製作

ダイニングテーブルは、タモ集成材の天板に、夫と古谷野さんがコラボしてデザインした脚を組み合わせて製作。Yチェアと、スヴェイルファニチャーのオリジナル「チェア LK-14」を合わせました。

エアコンや給湯器などの配管ルートをクリア塗装の溝型鋼で、床柱のように演出

エアコンや給湯器などの配管ルートを、クリア塗装の溝型鋼で床柱のように演出してすっきりとさせました。

【この住まいのデータ】

▼家族構成
夫39歳 妻36歳

▼リノベを選んだ理由
塩化ビニルなど新建材を多用した内装や、半独立タイプのキッチンを含めた間取りも、自分たちの好みやライフスタイルに馴染まないものだったため。

▼住宅の面積やコスト
専有面積/74.75㎡ 築40年(昭和53年築) 工事費/600万円(税込み、設計料別)

新品の設備を生かし、予算内で賢くリノベーション

新品だったためそのまま利用したLIXILのキッチン

「新品の設備機器は使い勝手に不便がなかったので、そのまま使うことでコストバランスを図りました」と大谷さん。LIXILのキッチンは新品だったためそのまま利用。ただし、適度に手元を隠しながらオリジナル感も出したいと考え、白いカウンターで囲ってオープンすぎないキッチンに整えました。

白で統一された洗面室

白で統一された洗面室は清潔感があり、新品の洗面台も必要な機能を備えていたため、そのまま利用。「既存のままで十分だと判断しました」

新品のユニットバス

新品のユニットバスもそのまま利用。「10年もすれば設備交換は必要になるだろうから、現状使えるものは活用して、その分LDKに費用をかけたいと思いました」と大谷さん。

設備や壁などが一新されていたトイレ

トイレも設備や壁などが一新されており、このままでOKと判断し、既存のまま利用することにに。生かせるものはそのまま使うことでコストアップを防ぎ、予算内でのリノベが実現しました。

スリットを介して、寝室に光と風を通す

両サイドの壁はハワイアンシルキーオーク、正面の壁はチェリーを採用した寝室

寝室の両サイドの壁はハワイアンシルキーオーク、正面の壁はチェリーを採用。「これらは大谷さんも一緒に工場まで足を運び、ご自身で選んだものです。大谷さんの徹底したこだわりがこの素材には詰まっているんですよ」と設計を担当した古谷野裕一さん。

居室をつなぐスリット

ウォークインクロゼットと寝室はスリットを介してLDKとつなげ、光と風を通すようにしました。

扉を付けずに北側の既存窓の近くに寄せたウォークインクロゼット

以前の収納は個室に挟まれて風通しが悪く「洋服にカビが生えてしまうほど湿気が多かったんです」と妻。そこで、新規のウォークインクロゼットは扉を付けずに北側の既存窓の近くに寄せることで風通しをよくし、以前の悩みを解消しました。

腰高の本棚を廊下に設置し、楽しい通り道に

「単なる通り道ではなく、楽しみや機能性を持つ空間」になった廊下

玄関からLDKへ向かう廊下に、腰高の本棚を設置。本好きな夫の蔵書や妻がコレクションしている雑貨を飾るように収納して、「単なる通り道ではなく、楽しみや機能性を持つ空間」に整えました。

LDKから玄関方向への眺め

LDKから玄関方向への眺め。写真左手の建具もそのまま活用。リノベ済み部分は極力生かし、既存の間取りの特性を取り入れながら、手をかける部分を抑えることで、コストバランスに配慮しました。

回遊できる間取りで、日々のルーティンもスムーズ

北側に新設した土間

北側に新設した土間。正面の扉を開けると玄関とつながり、回遊できる間取りとなっています。オープンなウォークインクロゼットとも連続しているため、外出や帰宅時の身支度もスムーズに。

長さ11mの壁

LDKから土間までを一直線につなぐ白い壁は、長さ11m。プライベート感のあるウォークインクロゼットや寝室から明るいリビングに向けて陰影が生まれ、白い壁グラデーションが美しく描き出されます。

「できるだけモノがない空間で暮らしたいんです。でも本や食器が好きだから、どうしても増えてしまって(笑)」という夫妻。そんな悩みも、暮らしの楽しみのひとつ。これからどんなふうに変化していくのか、楽しみが尽きない住まいです。

間取り(リノベーション前後)

リノベーション前の間取り図

リノベーション前

リノベーション後の間取り図

リノベーション後

設計/古谷野工務店
明治10年に創業以来、地域の累計棟数1000軒余りの実績を持つ自社設計・施工を得意とし、施主の要望の最適解の実現を目指す。古谷野裕一さんは建築家の小川広次氏に師事し、大手設計事務所での勤務を経た後、古谷野工務店に入社。一級建築士として新築、リノベーション、店舗設計まで幅広く手掛ける

撮影/飯貝拓司 ※情報は「リライフプラスvol.32」取材時のものです