※写真はイメージです pixelcat / PIXTA(ピクスタ)隣家の木の枝が自分の家の敷地内にはみ出してきて困った、という経験はありませんか?できれば切ってしまいたいところですが、隣家からはみ出した木の枝を許可なく剪定すると、法律で罰せられる場合があります。どうしてなのでしょうか。宅地建物取引士の吉井希宥美さんに話を聞いてみました。
すべての画像を見る(全5枚)民法では枝を切るのはNG、根はOKと決められている
※写真はイメージです / PIXTA(ピクスタ)
筆者の実家は分譲住宅で、生垣で囲まれていました。父はきれい好きで、生垣の剪定をこまめにしていました。
隣の家は手が回らないのか、庭木は「自然のまま」。伸び放題というほどではないのですが、あまり手入れに熱心ではなく、生け垣の角をしっかりと整える几帳面な父は気になっていたようです。
※写真はイメージです まちゃー / PIXTA(ピクスタ)
ある日、見かねた父が無断で隣の家のアジサイを剪定したことがありました。「隣のお宅の枝を切るなんて」と、それを見た母は激怒。父と大喧嘩していました。
そのとき子どもだった私はどちらが正しいのかまったくわからず、ぼう然としていました。みなさんはどちらが正しいと思いますか?このことについて、民法に次のような条文があります。
民法233条1項
隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
民法233条2項
隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
表現が難しいですが、「民法233条1項」については、隣家の枝が自分の土地を越えている場合についての法律です。
隣家の木の枝が境界線を超えて出ているとき、木の所有者に対して境界線を超える部分を切り取るよう請求することができるのです。
木の枝が越境してきて自分たちの日常生活に支障があるような場合は、切り取らせるよう求めることができます。しかし、木の所有者の承諾無しでは切ることはできません。
「民法233条1項」については、隣地の根が自分の土地を越えている場合についての法律です。隣地の根が境界線を超えて出ているときは、その根を「切り取る」ことができます。どうしてなのでしょうか。
タケノコはいいけど柿は取っちゃダメ?
※写真はイメージです poteco / PIXTA(ピクスタ)
民法には上記のようにし書かれていないので、その理由についてははっきりしません。諸説ありますが、不動産業に携わっている者の観点からすれば、土には所有権があって、そこに「根」という他人の所有物が侵入してきたからではないかと思っています。
小さい頃、祖父母に「隣の家の竹林から越境した根から生えてきたタケノコは、勝手に取ってもいいよ」と言われていました。いっぽう越境した枝に実っている柿は取ることを禁じられていました。いま思うと祖父母が言っていたことは案外正しかったのかもしれません。
とはいえ枝を切ってはいけないと言われても、自分たちの生活に支障が出ては困ります。
枝の越境のでトラブルになり、裁判になった例をみてみると、単に枝が越境しているだけではなく、「毎年大量の落ち葉が屋根の上に落ちてくる」「腐敗した落葉により屋根の劣化が激しく、雨樋が腐敗してしまった」「雨樋がすぐに詰まってしまう」などの被害があったために、枝の切除をするように命じる判決が下りているようです(新潟地判 昭和39年12月22日)
深刻な「根」や「枝」の問題は円滑なコミュニケーションで柔軟に対応を
※写真はイメージです 茜堂_akanedou / PIXTA(ピクスタ)
法律では根を切って良いことになっていますが、現実問題としては勝手に根を切って、万が一隣家の樹木が枯れたりするとトラブルになる恐れがあります。ひとこと伝えてから切った方が、トラブルを未然に防げるでしょう。
以前、仲介した借家の隣に貯水池があり、そこにある樹木の根が借家の排水溝に入り混んだことがありました。これが原因で排水口が詰まり、大騒ぎに。排水升の高圧洗浄で対応しようとしましたが、解決しません。
業者さんにみてもらうと、根本的に解決するためには、排水升をコンクリート製から塩化ビニール製にするのがよいとのことでした。この費用を誰が負担するかでずいぶんもめましたが、話し合いの末、最終的には大家さんが負担することで決着しました。
ご近所付き合い(法律では相隣関係と言います)は円滑なコミュニケーションが大切です。意外に深刻な事態に発展することもある「根」や「枝」の問題。円滑なコミュニケーションで、柔軟に解決したいものですね。