長女の誕生を機に、妻の母と同居することにしたMさん夫妻。母が所有する築50年のアパートの北側半分を2階建ての二世帯住宅にリノベーションしました。子育てをしながら働く夫妻にとっては、願ってもない都心の立地。設計を手掛けたDIG DESIGNの嶌陽一郎さんによれば、敷地は接道していないため、建て替えは不可能。また、アパートを合法的に個人住宅に変えるため、外壁だけを残して柱・梁を撤去し、構造からつくり替えるという難工事になりました。しかし、これにより新築と同等の耐震・断熱・防火性能も備える家になりました。
すべての画像を見る(全16枚)温かな木の色と白でまとめた上品なインテリア
妻、母、そして祖母も建築に関心が高く、幼い頃からデザイナーズ住宅で育った妻は一時期、建築家に憧れたほどの建築マニア。新居の要望は充実したキッチンとバスルーム空間、動線の短い家事エリア、そして抜け感のある明るいLDKと庭代わりの屋上でした。
リノベ後の2階LDKは白い壁・天井にナラの床板、同色の木のキッチンを合わせ、品のいいナチュラルな空間に。スイッチプレートと照明器具のゴールドがアクセントになっています。
リビングを小さくした分、家族が集うダイニングには大テーブルを造り付けました。近くに住む姉夫婦や友人とよく集まって食事をするそうです。
キッチンの対面奥はアールの壁に包まれたリビング。小さな空間ですが居心地がよく、ソファに座ると外に視線が抜けていきます。
家事動線を短縮、働く人のための時短キッチン
L+I型にレイアウトしたキッチンの後ろには、家事室兼用のパントリーを設けています。ここには冷蔵庫、洗濯機・乾燥機を置き、妻が食事の支度をする一方で、夫はアイロンがけをするなど家事分担もスムーズ。コンロ側はIH調理器とバーベキューグリルを設置し、独立させました。
広い作業スペースを確保できたので、妻と母が同時にキッチンに立っても余裕で調理ができます。L+I型のレイアウトは「シンクとコンロの位置が近いので使いやすい」と妻。
シンク側はL型レイアウト。炊飯器などの小さな家電は引き出し収納で隠し、電子レンジはLDから見えない場所に設置しています。
「水回りの予算は潤沢に使う」と決めていた妻。食洗器、IH調理器、バーベキューグリルは憧れのブランド、ミーレで統一。IH調理器(左)の隣はバーベキューグリル。
鋳鉄製グリルの下に敷き詰めた溶岩石の遠赤外線効果により、炭火焼きのような焼き上がりになるそう。ショールームの試食でそのおいしさを知り、購入を決めました。
水栓金具もこだわりのハンスグローエに。シャワーホースは引き出せて、手が汚れていてもボタン操作できるので便利だとか。
キッチンの隣は冷蔵庫と洗濯機のあるパントリー。戸を開け放したまま調理と洗濯が同時進行できるよう、キッチンレイアウトを検討して動線を短くしました。
右の収納は隣のバスルームと間仕切りなしでつながっていて、入浴時に脱いだ洗濯物をいちばん下のボックスに入れれば、パントリー側から取り出して洗濯できます。
I型コンロの両側に引き戸を配してシンメトリーなデザインに、引き戸を閉めればスッキリと美しく見えます。
トラバーチン貼りのホテルライクなバスルーム
学生の頃から国内外の雑誌で様々なインテリアを目にしてきた妻は、広く明るいホテルライクなバスルームを希望。そこで嶌さんは日当たりのいい2階に、屋根の勾配に沿って吹き抜けた天井の高いバスルームを提案。
バスルームにはLDKと屋上の両方に出られるデッキを隣接させて、光が差し込む開放的な空間に仕上げました。壁と浴槽エプロンは天然石ならではの美しい縞模様が表れたトラバーチン貼り。洗面コーナーまで伸びる横長のミラーには、様々な明かりが楽しめる調光機能付き間接照明が仕込まれています。
「オーバーヘッドシャワーがとても気持ちいいんです。夏場は海外のホテルのバスルームで過ごしているみたい。リラックスできますね」と妻。
夫も「足を伸ばしてゆったり湯につかれます」と満足そう。夜は間接照明でリラックス。バスタブに浸かれば吹き抜けた大空間が楽しめ、左の窓からはデッキにも出られます。
キッチンと同様、こちらも憧れのブランドをチョイス。特にデザインに優れ、浴び心地のいいハンスグローエのオーバーヘッドシャワーとハンドシャワーはバスタイムに楽しさを運んできてくれます。シャンプー置き場もホテルのようなトラバーチン貼りに。
広がりを重視し、サニタリーは浴室、洗面、トイレを一部屋にしたスリーインワンスタイルに。美しい石貼りの空間をより広く見せるのは横長のミラー。トイレの前に設置したタオルウォーマーのおかげで寒い時季も快適で、デッキから差し込む光も開放的です。
曲面を描く洗面ボウルが美しい洗面カウンター。下に引き出しがついていて、ミラーの右端はキャビネットになっています。
ピンクの壁が愛らしい1階の子ども室。コストダウンのため、1階個室の壁は家族総出で塗装したそうです。
玄関土間と式台にもトラバーチンを使用。「コンパクトな家こそ、狭くしがちな部分をゆったりさせると広く見えます」と嶌さん。美しいインテリアと使いやすさを両立させた住まいがリノベーションで実現しました。
設計/ 嶌陽一郎(DIG DESIGN)
施工/タツミプランニング
取材/安藤陽子
撮影/桑田瑞穂
※情報は「住まいの設計2019.04月号」掲載時のものです。