「平屋と広い庭が欲しい」という10年間思い描いた夢を実現させた二宮さん家族。夫の転勤で兵庫に住んでいたときから、いずれは妻の地元である宮崎に戻ることを想定し、実家のすぐ近くに土地を購入。その後は着々と構想を練り、家と暮らしのイメージを具体的に膨らませていったといいます。10年ぶりに地元に戻った二宮さん家族が設計を依頼したのは、宮崎市を基点に活動する建築士事務所・COGITEの蒲牟田健作さん。蒲牟田さんには「豊かな自然に囲まれた土地と調和しながら自分たちの時間を手作りしていきたい」と伝えて、家づくりがスタート。蒲牟田さんは大きなLDKを道路側に配し、一人ひとりの個室は大きな庭に面した長い廊下でゆるくつながるプランを提案。家族仲のいい二宮さん一家らしいオープンな空間をつくり上げました。
すべての画像を見る(全16枚)飫肥杉(オビスギ)の梁を表したスケール感のあるLDK
高窓からの採光や高い天井のおかげで、のびやかな印象のLDK。パントリーと浴室以外の天井にはすべて地元の飫肥杉を使いっています。少し短めのピッチの梁が空間にリズム感を与えています。
このLDKと個室の間には通り抜けができる大容量のウォークスルーのクロゼットも用意されました。
キッチンの奥には全開閉できるルーバー状の室内引き戸を設け、パントリーとLDKを仕切っています。同じ空調環境を維持しつつも、視線を緩やかに遮ぎれるのはこの形状ならでは。
コウモリランをはじめ、たくさんのグリーンやアフリカのオブジェが室内を満たすリビングは、妻が長年かけて選りすぐったのものばかり。様々なものが大きな空間に違和感なく同居しています。
庭の一角に設けたデッキは、リビングの床と同じ高さ。引戸を開ければ、屋外と一体化したような気分になれます。今は広々としている芝生の庭ですが、将来は「うっそうとしたジャングル化」を目指し、環境に合えば10m以上にも成長するというジャカランダという植物を植えました。
窓に面して横並びに配置した4つの個室
南向きの庭に面した廊下には、4つの個室が均等に並びます。扉を閉じれば自分の世界に没頭でき、開ければ庭の緑と光や風が開放感をもたらす明るい空間に。
個室にいても声はつつ抜けなので、いつも家族を近くに感じられるのだそう。
リビング側から子ども室がふたつ、その先に夫の部屋、妻の部屋と続きます。初めての個室に年頃の姉妹は大喜びしたのだとか。
各個室の奥には階段とロフトを設けました。
二宮家には家族がほかにも。知り合いの倉庫で生まれた3匹の子猫たちを家族に迎えています。この長い廊下はそんな猫たちにとって格好の遊び場になっているそうです。
窓には軽やかな一枚布のカーテンを垂らして、強い採光量をコントロールします。
地盤を上げることで豪雨対策も
家が建っているのは既存地盤から約70cm上げた位置で、洪水などのときに周辺が冠水しても安心して暮らせるよう配慮されています。
アプローチと庭を仕切る塀の造作は、蛇籠という河川工事の護岸などに使用される鉄線を用いたかごに、砕石を詰めたもの。
駐車スペースと玄関のレベル差はスロープでつなげています。地盤を上げて板塀や石垣の高さは低くても、道路からの視線は確実にカットすることができました。
玄関に入ると、夫婦が大好きという海をイメージした、鮮やかなマリンブルーの壁が目に飛び込んできます。ここはDIYの作業場としても使える空間です。
ひとつながりのオープンなサニタリー
個室っぽい浴室が嫌だったという妻の要望で、洗面、トイレはまとめてワンルームに。
このスペースで皆から好評なのが壁付きのレインシャワー。体全体がまんべんなくお湯に包まれます。冬でもこれだけで済ませてしまうほど快適さなのだそう。
隣の洗面室にはIKEAで購入した洗面コーナーが造作したかのように美しく収まっています。窓から差し込む朝の光を感じ、庭や遠くの木々を眺めながら、今日も二宮家の一日がゆっくりと始まります。
設計/蒲牟田健作(COGITE )
撮影/伊藤美香子
※情報は「住まいの設計2018年1-2月号」掲載時のものです