Uさん家族は、夫婦と2人の娘、そして夫の父と妹が暮らす二世帯住宅の建築を計画。夫の実家を建て替える形で、2つの世帯にとってよりよい住宅のスタイルが検討されました。建築家が導き出した答えは、あえて建物を「分離して、つなぐ」方法でした。敷地は緑豊かで、かつ観光地が近い場所。周囲の緑の取り込み方、外部との距離の取り方なども見応えのある家です。

外観
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付かず離れずの「距離」をよりよい形で実現周囲の緑と生活の緩衝帯、外階段やデッキが活躍ざっくりとしたつくりで自分で手を加える楽しみを

付かず離れずの「距離」をよりよい形で実現

U邸が建つのは、東京・調布市。深大寺と神代植物公園に近いため、豊かな自然に恵まれていますが、観光地でもあることから、敷地前の道路は多くの人が行き交うといいます。

外部からプライバシーを守ること、そして世帯間の生活のリズムの違いを考慮することを課題に、互いに気兼ねなく過ごせる二世帯住宅が検討されました。

アプローチ

「当初は1棟建ても考えていましたが、家族との話し合いを重ねるうちに、現状の分棟案に落ち着きました」と建築家の神田篤宏さんと佐野ももさん。レッドシダー張りの外観は、森の中にそっと置かれた2つの木の箱のよう。右が3階建ての子世帯、左が2階建ての親世帯のスペースになっています。

手前の道路から室内は極力見えないように設計しつつ、分棟越しには道行く人も背後の緑を見ることができます。

2つの世帯の玄関ですが、左右の玄関扉の位置が半階ずれているのがわかりますか?敷地の起伏に合わせ、半階ずつフロアをずらしたことで、室内でも世帯同士の視線は気にならなくなっています。

キッチン

子世帯のLDKから見えるのは、左奥の窓から生産緑地、右手の窓からは神社の緑。どちらを向いても手が届くほどの近さに緑があり、外からの視線も樹木が遮ってくれるのです。

LDK

キッチンから南側を見ると、正面に父が生まれたときに植えたという樹齢60余年のカキの木が見えます。収穫や手入れのために、手前にキャットウォークを設けました。

玄関

子世帯の建物の1階には、玄関と居室1室とバスルームがあります。

バス

使う時間が限られたお風呂を両世帯に設けるのはスペースがもったいないこともあって、バスルームは共用することにしました。入浴の時間帯が重なることもないので問題はありません。

周囲の緑と生活の緩衝帯、外階段やデッキが活躍

これだけの緑あふれる場所だから、「住む人が自然とより積極的な関わりを持てるようにしたい」と神田さんと佐野さんは考えました。そこで、周囲の緑と家族の生活を取り持つ緩衝帯として、外階段やデッキを多用。

外観

エントランス上部のスノコ状のデッキがほどよい影をつくっています。スノコを通じて落ちる光は、まるで木漏れ日のよう。

デッキ

3階には、両世帯をつなぐスノコデッキが、建物の周囲をぐるりと巡らされています。「スノコ状のデッキは上での人の動きがわかりますし、日よけの役目も果たします。木陰で暮らすような生活は、この場所にふさわしいと思って設計しました」(佐野さん)。

親世帯

親世帯のLDKの南側には縁側が。フルオープンにできるサッシは、自然との一体感をより感じさせてくれます。

階段

北側の窓からは、明るい光と風が階段を通して室内に入ってきます。どの空間も心地よいことが伝わってきました。

ざっくりとしたつくりで自分で手を加える楽しみを

日曜大工が趣味の夫は、「自分で直せる家にしてほしい」という要望を神田さん・佐野さんに伝えました。

子ども室

そこで、外壁は板張り、内装も合板を多用し、構造材をそのまま見せるといったざっくりとしたつくりに。

現在子世帯の3階は、家族の寝室として使っているワンルームで、アレンジしやすいようにとてもシンプル。

子ども室2

将来は4つに仕切って子ども部屋と納戸として使う予定で、田の字状の鴨居と敷居のみを設置しました。「これから子どもの成長とともに、家をどうつくり上げていくかが僕の課題で、楽しみでもあります」と夫。

ほどよくつながる家は、3世代のコミュニケーションも自然に育んでくれます。7歳と4の娘さんたちも、祖父の家に行くのが楽しいよう。「子どもたちは、『じいじんち、行ってくる』と勝手に行き来していますよ(笑)」(妻)。

設計/コンマ, 一級建築士事務所comma
撮影/桑田瑞穂
※情報は「住まいの設計 2017年11-12月号」取材時のものです。