都市部から郊外ののどかな地域に移り住んだHさん夫妻。若いお二人が建てた家は、どの部屋からも庭が眺められる、ゆったりとした平屋でした。木と塗装で仕上げたシンプルな内装が庭の緑と調和し、なんとも心地よい空間が広がっています。

目次:

各室から庭が眺められる平屋でゆったりシンプルな空間に経年変化する素材を余白を楽しむ生活感のないキッチン

各室から庭が眺められる平屋でゆったり

Hさんの家は名古屋市内から車で30分ほど。周囲には田畑が広がり、のどかな雰囲気が漂っています。
「岐阜の田舎で育ったので、人が多い場所が苦手。この土地は、見た瞬間に『のんびりしていていいな』と思い、即決しました」と夫は話します。

設計をお願いしたのは、松原建築計画の松原知己さんでした。「作品を見たらどれも素敵で、自分の好みを数多く説明しなくてもお任せできると思いました」(妻)。松原さんは、「庭を眺めながらゆっくり過ごしたい」というご夫妻の要望を汲み、建物と塀で庭を囲む平屋のセミコートハウスを提案。

Hさんの家
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敷地形状に合わせて東西に伸びた建物は中央で折れ、各室から庭が眺められます。
そんな気になる平屋の外観がこちらです。

Hさんの家

左官とガルバリウム鋼板で仕上げた外壁は、周囲に溶け込む落ち着いた色味。右手の塀は高さを抑えて圧迫感をなくしています。家から庭の気持ちよさをより堪能できるのが、縁側のようなデッキ。

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芝生の庭は夫のゴルフの練習場であり、バーベキューを楽しむ場でもあるとか。建物が“くの字型”になっているのがよく分かりますね。小さなベンチが設けられたアプローチは、ホッと和める空間。

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庇があるので雨が降っても傘を差さずに駐車場に行けるんです。玄関から心地よさを感じられるH邸。

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玄関扉を開けると、さっそく正面に庭の緑が見えてきます。

シンプルな空間に経年変化する素材を

室内はシンプルな内装とし、素材感や庭の緑を楽しむことを大切にしています。ですので、LDに置く家具は必要最小限に。壁に棚などは設けていません。ゆとりが感じられる各居室をご案内しましょう。
ご覧のように、LDKは一体の空間でスッキリ。

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床の無垢フローリングはナラを選び、全体をやさしい色合いでまとめています。どこからも見える庭と平屋ならではの勾配天井が開放感を感じさせますね。キッチンからは空間全体が見渡せます。

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オリジナルの木製サッシは隠し框とし、より温かみのある雰囲気に。リビングの奥には小上がりになったペットのうさぎのコーナーがあり、その上の窓からは駐車場が見えます。妻は料理をしながら夫が帰ってきたのが分かるそう。

玄関ホールからLDK側を見たところです。

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一直線ではなく、リビングとダイニングの境目で折れて角度がついているので、不思議な奥行き感があります。こちらは将来、子ども室として使う予定。

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柱の部分で2室に区切ることを想定しています。手前が洗面室で、奥が脱衣&洗濯物の乾燥室となっています。

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その横に浴室があり、寝室そばのウォークインクロゼットにもつながるので、使い勝手もいい。その寝室がこちら。

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右手の扉の向こうがウォークインクロゼットで、浴室につながっています。寝室からも庭が見えることが分かりますね。
玄関ホール近くにコンパクトな書斎を設けました。

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庭に面した窓が開放感をもたらし、癒しを与えてくれます。

余白を楽しむ生活感のないキッチン

「生活感のないシンプルで美しいキッチン」。それがH邸のキッチンの印象です。オープンスタイルのキッチンは、夫婦二人が立てるように設計しました。

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キッチンのデザインは、腰壁のモルタル塗りがポイントに。「機能性を追求するより、劣化や経年変化を楽しみたい」と妻。手仕事の味わいも感じられ、空間のアクセントになっています。そして、もう1点特徴的なのは、目線の高さの壁面には、飾り棚などの収納を設けていないこと。

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「棚をつくってものを飾るより、余白を楽しみたいと思っています」(妻)。ものが多くなりがちなキッチンですが、とってもスッキリ!
天板にはバイブレーション仕上げのステンレス、そこに木目の美しいナラ突き板を組み合わせています。

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全体を見ると温かみがありながら、シンプルでとても洗練されていますね。飾り棚を設けなかったけれど、背部には腰高の収納、左手奥にはパントリーを備えているから、収納は十分。

では収納の工夫を拝見しましょう。コンロ下には、鍋やフライパンを収めています。扉を付けずに、出し入れしやすくしています。

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薄型のIH調理器(三菱電機のユーロスタイルIH)なので、すぐ下も引き出し式の収納スペースに活用。アルミホイルやヘラなどが収納できます。

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背面には電子レンジを組み込んでダイニングから隠し、調味料専用の引き出しにはスパイスなどを入れる小さな引き出しも内蔵。

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細かく分類できるから散らかりにくく、どこに何があるかのかすぐに分かります。壁面カウンターのほかにパントリーも設けて、生活感の出やすいものを徹底的に隠しています。大きな冷蔵庫もパントリーに。

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使い勝手を優先し、建具は設けずオープンに。勝手口から光が入り、通風も抜群!よって、調理作業もスイスイ!この日はジェノベーゼの冷製パスタとビシソワーズを作っていただきました。

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夫も慣れた手つきで料理をサポートし、ササッと料理が仕上がっていきます。

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キッチンで作業をしながら……、食事をしながら……、くつろぎながら……。どこからも庭が見えるという贅沢。Hさん夫妻のお宅は、開放感とやすらぎに満ちていました。

設計/松原知己(松原建築計画
撮影/川辺明伸
※情報は「住まいの設計2018年10月号」取材時のものです