Oさんは、主に本の装丁を手掛けるグラフィックデザイナー。公私ともに膨大な本を所蔵しており、「象徴的な本棚」が欲しかったといいます。「設計の労力の8割方をこれにかけた気がします(笑)」と設計をした関本竜太さん。「象徴的な本棚」……。それは、3層吹き抜けの壁一面に造られた、迫力に満ちた本棚となりました。

目次:

本への愛が詰まったダイナミックな本棚街に開かれた共有の「中庭」家としての質を保つ細部へのこだわり

本への愛が詰まったダイナミックな本棚

絵本の中から抜け出してきたような愛らしい佇まいの家、こちらが東京に建つOさん家族の住まいです。

Oさんの家
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切妻屋根にドアと四角い窓があるだけのシンプルな外観は夫の希望だったそうです。外から見ると小さな家ですが、一歩入ると予想外の光景が!

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その室内ですが、床を掘り下げ、天井高を確保した一室空間のLDKが広がっています。玄関脇の北側には3層を貫く吹き抜けがあり、吹き抜けに面した壁一面が天井近くまで本棚になっているのです。

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本棚には手前に文庫本が置ける奥行きがあったり、横置きできるスペースがあったりと、工夫が満載。妻や娘の本も仲よく同居しています。

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上部の本はどうやって出し入れするのだろう? そんな疑問が生まれますよね。関本さんは、左手の腰壁状の手すりを倒して床板とし、本棚に手が届く仕掛けをつくりました。
手すりは軽い力で上げ下げできるアシストするダンパー付きに。使い勝手もしっかり考えられています。

手すりは3分割され、写真は中央のみ倒した状態です。1、2階とロフトの3層をつなぐ吹き抜けの見上げは圧巻。天井高はロフトまで7.6mもあるそうですよ!

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手すりを床板にする工夫の他に、屋根までの梯子など、一部の隙もなく本棚を使うための機能が搭載されています。

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本棚の前には玄関の床とフラットにつながったモルタルの通路が。右手の床が一段下がっているので、ベンチとしても使えます。

街に開かれた共有の「中庭」

この家のもうひとつの魅力は、南側の外部のつくり。敷地は南も細い路地に面していて、建て替え時には道路中心線から2m後退させる必要がありました。幸い向かいの家が先に家を後退させて建て、植栽も施していたため、こちらも同様に路地に開くことで、共有の中庭のようなスペースが出現しました。

Oさんの家

塀を開けると向かいの家の前庭と路地が。そこにO邸の庭がつながって、広場のようなスペースが生まれました。夫は最初に敷地を見たときから、この余地を生かしたいと考えたそうです。「子どものプールを出して遊ばせることも。流しそうめんもいずれやりたいですね」(夫)。
塀を閉じればプライバシーは守られるから安心です。

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手前の板塀は可動式で、2枚の引き戸をすべて引き込むとLDKの開口部と同じ間口分が開きます。開口部の外には夫の要望だった縁側を設けました。

Oさんの家

家としての質を保つ細部へのこだわり

本棚や空間のダイナミックさに目を奪われがちですが、細部にまで配慮の行き届いた設計と丁寧な施工にも注目ください。DKの天井は構造材を表しにすることで、オープンな空間に変化とリズムを生み出しました。

Oさんの家

玄関とLDKの間にはガラス戸が建て込まれ、閉めると室内窓のような趣に。

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ガラス戸なので開放感も得られ、明るい光も入ります。ロフトは家型のブルーの壁が印象的。

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内窓からも本棚が見えます。

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いろんな使い方ができそうで、なんだか楽しげな空間ですね。2階は寝室、浴室などのプライベートな空間でまとめました。

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こちらは家事動線を考慮し、回遊できるプランに。主寝室へは右手前の通路からだけでなく、浴室の右手前にあるクロゼットからも行くことができます。先ほど出てきた「倒れる手すり」ですが、3分割された手すりを全部倒し、吹き抜けをふさぐと写真のようになります。

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床面積が増える分、主寝室に広がりが出ますね。手すりは閉めると遮音効果があり、本棚の本を出し入れするときばかりか、静かに寝たいときもこの状態にするそうです。

このように、本棚だけではなく細部にも細かなこだわりのある設計をしているOさんの家。そのおかげで、Oさん一家がどの場所にいても楽しくくつろげる空間になっているのかもしれません。

設計/関本竜太(リオタデザイン
撮影/澤﨑信孝
※情報は「住まいの設計2018年10月号」取材時のものです