下の写真右側にある大きな木製の家具、何だと思いますか?実はこれ、キッチンで本棚で収納でテレビ台で冷蔵庫でパントリーで、そして何とトイレでもあるんです。この家具があるのはT邸のLDK。敷地面積50平米弱の土地に建つ鉄骨造3階建ての家で、LDKはその2階にあたります。リノベーション費用は何と530円! さて、どんなリノベーションなのでしょうか?

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日当たりのいい2階をLDKに。でも、スペースも予算もない?扉の向こうは何?大型家具の中に収められているモノたち大型家具が曲線を描くワケ。実はとても理にかなっていた

日当たりのいい2階をLDKに。でも、スペースも予算もない?

世田谷区にお住まいのTさん一家は、フランス料理店オーナー兼シェフの夫、会社勤めの妻、3歳の長女と1歳の長男の4人家族。子どもが増えてこれまでの家が手狭になったことで、家探しを始めました。
そこで出会ったのが、南北が道路に接する3階建て鉄骨造の一軒家。直感的にリノベーションできそうだと感じた夫は、建築家の竹島淳二さんに相談しました。
竹島さんは同級生で建築家の檜垣幸志さんに共同設計を持ちかけます。

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2人が考えたのは、日当たりのいい2階に家族が過ごすLDKを持ってくるプラン。しかし、2階は31平米しかなく、キッチンに冷蔵庫、ダイニングテーブル、テレビ台など、すべてをそのまま置いたらスペースが狭くなってしまいます。
しかも、もともと東側の壁の中央にトイレがあり、できれば位置変更も撤去もしたくない……。予算が限られる中で、竹島さんと檜垣さんが出した結論が、この大型家具だったのです。

扉の向こうは何?大型家具の中に収められているモノたち

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まずはもともと2部屋あった2階の壁を取り払い、大きなワンルームとします。そして、東側の壁全面に木製の家具を設置。そこに必要なものすべてを収める、というのが、2人が考えたプランでした。家具の扉をすべて閉めた状態が上の写真。扉の向こうは、左からパントリー、キッチン、冷蔵庫、トイレ、収納、テレビ台、収納です。
「えっ、冷蔵庫? トイレも?」と思うでしょう。落ち着いてください。写真で詳しく解説します。

キッチン

右側の写真はパントリーです。食器や食料品のストックだけでなく、電子レンジも収まっているのがすごいところ。左側はオリジナルのキッチン。元は洋室があったのですが、その窓の幅にピッタリはまっていますね。下部には引き出し式の収納、上部にも吊棚があるので収納量も申し分ありません。

キッチン

キッチンのコンロは2口。キッチンの幅が限られていることと、作業スペースとシンクをできるだけ広く取りたいという妻の要望から、2口コンロを選択しました。キッチン右隣の扉を開けると、冷蔵庫がピッタリと収まっています。

トイレ

そして、冷蔵庫の横が問題のトイレ。左が扉を閉めたところ、右が開けたところです。「冷蔵庫の横にトイレってどうなんだろう?」と一瞬思ってしまっていましたが、全然違和感がありません!ドアを閉めていると、その奥にトイレがあるとはとても思えません。

階段

こちらは3階へ上がる階段からリビングを見下ろしたところ。テレビ台の様子がよくわかります。テレビの上部と下部、両隣の棚はすべて収納。かなり大容量です。書類や本、テレビ周りの機器、子どものおもちゃなどいろいろなものを収納しています。

大型家具が曲線を描くワケ。実はとても理にかなっていた

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実はこの大型家具、気づいている方も多いと思いますが少しカーブしています。特に、テレビ台の周辺は大きくへこんでいるので、わかりやすいですね。
膨らんでいる部分もあり、上から見るとちょうどSの字を描いているような形をしています。これは、この大型家具に収納するものと場所をよくよく考えれば必然なのでした。
キッチンや冷蔵庫、トイレにテレビと、様々な奥行きがある設備や機器が収納された家具。最も奥行きのある冷蔵庫と薄いテレビを同じ家具で収納すると、自然に曲線を描くことになるのです。

「リノベ予算の6割はこの家具に充てた」という竹島さん。
特に、直線である木のパネルを組み合わせてきれいな曲線に見せるための設計には苦労したと言います。でも、そのおかげでLDKは驚くほどスッキリ。

ダイニング

階段脇、キッチン側はダイニングスペース。ガラスのテーブルは、夫の店で使っていたものを持ってきたそうです。コストカットのため床材はほとんど既存を利用していますが、家族で過ごす2階だけは全面無垢フローリングとしました。

1階

ところで1階はというと、もともとキッチンのあった場所に衣類などをしまう大型収納を設け(写真左)、階段下にはワインセラーを設置しました。右の写真は大型収納側から見た1階廊下。建具やユニットバスは既存を利用しています。洗面とトイレは新しいものに交換。規格品を利用することでコストを抑えました。

和室

和室は畳を取って長尺シートを貼り、みんなの寝室として使用しています。長尺シートは子どもたちがおねしょをしてしまってもサッと拭くだけで便利、と妻。
こんな風に、1階はなるべく手を加えずに、上手に既存を利用することでコストダウンに成功しています。

設計/竹島建築設計事務所+檜垣幸志建築設計事務所
撮影 飯貝拓司
※情婦は「住まいの設計2017年3-4月号」取材当時のものです