Hさん夫妻と0歳の長男が暮らす都内の住まいの外観は、モノトーンの硬質な佇まい。室内に一歩入ると、素材感豊かで上質な空間が広がっていました。
スキップフロアを生かした舞台のようなLDK
玄関から半階上がると、目の前に広がる2層吹き抜けのダイナミックなリビング。
すべての画像を見る(全14枚)北向きの大開口の向こうには明るい庭が広がり、外部からの視線も気にならないためブラインドを開け放して伸びやかに過ごしています。
「リビングは外部とつながる豊かな空間にしたい」と希望した夫妻。設計を担当したアトリエA5の清水貞博さんは、前面道路との高低差がある敷地を生かし、住まいのメイン空間であるリビングダイニングを半階ずらしたスキップフロアで構成しました。
リビングから1.2m高いダイニングへは、ウォルナット材を贅沢に使った幅広の階段で上るプランです。高低差による目線の変化、リビングとダイニングの間の漆喰塗りの壁も相まって、まるで舞台のようにドラマチックな印象。
ダイニング中央には上階へと続く鉄骨の階段が伸び、存在感を放っています。
リビングは床に大判タイルを使い、モダンで上質な印象に仕上げました。正面の壁一面は収納で、「子どもの遊び道具など、不意の来客のときにすぐにしまえる場所があるのは助かります」と妻。
対してダイニングの床は温もりを感じるフローリングに。
開口を高い位置にぐるりと配しているおかげで、周囲の視線が気にならない落ち着いた空間です。
温泉気分が味わえるこだわりのバスルーム
地上3階建てのH邸は、1階がRC造、3階が木造、その間を鉄骨造の2階がつなぐ贅沢な構造。外から見ても特徴的な2階のガラスの帯は、耐力壁のない鉄骨造だからこそ実現したデザインです。
玄関の階に夫希望のAVルーム、半階上がった2階にLDK、そして最上階の3階に水まわりや個室といったプライベートな空間を配置しています。
3階は中央の階段を境に、親子の空間がゆるやかにゾーニングされるプラン。
浴室は、「温泉気分が味わえるように」と坪庭が見える大きな開口をデザインしました。洗面ボウルは、二人並んで使える幅の広いタイプをセレクトしています。
「浅いのに水跳ねが少なくて、使いやすいです」(妻)
ディテールまでこだわったデザインと素材美
室内の素材使いにも、夫妻のこだわりが光ります。夫が「特に気に入っている」と話すのが、コンクリート打ち放しの壁の杉板の型枠跡。
「通常のつるんとした型枠跡と比べるとコストは上がりましたが、照明に照らされたときの豊かな質感を見て、やはり選んでよかったと思いました」
リビングとダイニングの間の壁の漆喰も、ざらりとした質感がアクセントを添えます。
3階への階段の踏み板は当初集成材の予定でしたが、工務店の棟梁が「心意気」でウォルナットの無垢材に変更してくれたのだそう。
さらに、設計者の清水さんとHさん夫妻の細やかな気配りを感じるひとつが、リビングに続く階段脇の小さなスイッチボックス(写真下右)。
「壁のスイッチが悪目立ちするのがイヤ」という夫妻のこだわりから、壁を部分的にくぼませてスイッチプレートを取り付け、外側に木製扉を設置。使用時以外はスイッチが目に入らず、インテリアに溶け込むデザインに仕上げました。雑然とした印象になりがちな分電盤と家庭内LAN用のルーターは、扉付きの下駄箱収納の上部に収納。
すっきり納まっています(写真下左)。
キッチンは手元が見えにくいよう立ち上がりを設け、イタリア製の磁器タイル貼りに(写真下右)。
夫念願のAVルームは、配線をすべて壁内に収める工夫をしています(写真下左)。
デザインも素材も、細部にまでこだわりが光る住まいで紡がれる、穏やかな暮らし。
設計 atelierA5建築設計事務所
撮影 目黒伸宣
※ご家族の年齢等の情報は「住まいの設計2017年3-4月号」掲載時のものです。