こんな山の上に店舗があるの!?と疑ってしまうような山梨・西八千代郡の高台に、イタリアンレストラン「イル ポッジョ」はあります。味はもちろん、甲府盆地や八ヶ岳を望むロケーションも地元で評判になっています。レストランは武井さん夫妻が営んでいるもので、夫は料理を、栄養士である妻がデザートを担当。絵本に出てきそうな三角屋根の真っ白な建物は、1階が店舗で、2階が夫妻の住宅になっています。建設にあたって夫婦が強く希望したのは、ふたりが子どもの頃から慣れ親しんできたこの雄大な景色を、店舗からも住居からも眺められることでした。設計を担当したオンタイムデザインオフィスの深澤賢治さんは、店舗も住居も窓の配置がポイントになったと言います。

絶景を味わい尽くすレストラン兼住居
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目次:

DIYも組み合わせてこだわりどころに予算を集中最も重要なカギとなったのは景観の生かし方自宅も最大限に眺望を生かしたつくりに

DIYも組み合わせてこだわりどころに予算を集中

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お店のシンボルは、入口に面した大きなドーム状の石窯です。

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夫は国内外で料理経験を積み、本場ナポリでピザ修業もした上で、念願のイタリアンレストランをオープンしました。

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レストランをつくる際にはナポリから取り寄せたピザ窯と、ナポリ式のエスプレッソマシンは外せなかったと言います。こだわりどころに惜しげなくお金をかけたぶん、ローコスト対策は必須でした。

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そこで、漆喰の壁は自ら塗り、テーブルや家具に至るまで、すべて手づくりしました。

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夫が丹精込めてニ度塗りした漆喰の壁は、エスタコウォールを使用。石灰石が主成分の自然素材で、ヨーロッパ伝統の塗り壁材です。

絶景を味わい尽くすレストラン兼住居
絶景を味わい尽くすレストラン兼住居

壁に掛けられた黒板のワインリストには、厳選された山梨県産のおいしいワインが並んでいます。年代物のミゼット、きれいに重ねられた薪、エントランスボード、カウンター、さり気なく飾られたフレーム、食材まで、すべてのものから武井さんのこだわりが感じられます。

絶景を味わい尽くすレストラン兼住居
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ホールと厨房の一体感を出すために、厨房はオープンに。

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グラス、調味料、フライパンなどの調理器具も、美しくディスプレイされています。

最も重要なカギとなったのは景観の生かし方

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屋外テラスは夫妻の期待通り大人気で、景色を眺めながらのランチの、特等席になっています。そもそも夫妻が景色にこだわったのは、「ほかの土地で暮らしてみて、初めてこの地のよさを実感したから」(夫)と言います。
その想いに応えた深澤さんですが、難しい面もあったそうです。
「耐震のためにはどうしても壁が必要でしたが、開口のためには壁をできる限り減らしたい。そのために、木造の柱と鉄の梁を使用したハイブリッド構造を採用。耐震性を強化しつつ、大きな窓を取ることに成功しました」(深澤さん)。

そうやって、1階店舗の屋外テラスからはもちろん、店舗内や、2階のキッチン、浴室からも、この絶景を眺められるプランが完成したのです。

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また、もとは畑だった土地を購入したため、農地転用という高いハードルもあったそうです。けれども、周りの農地を利用して、野菜の自主栽培ができるというメリットも生まれました。

自宅も最大限に眺望を生かしたつくりに

「限られたスペースの中で、2階の自宅はリビングを中心に、各部屋を周りに配置。ゆったりできるスペースを確保できるように計画しました」と深澤さん。

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主役となるLDKには、北西だけでなく、南西にも大きな窓を設けて、最大限に眺望を生かした住まいを実現。ただ、年間を通して風が強く吹きつける土地柄に配慮して、リビングダイニング西側の開口部は断熱性も重視しました。

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家族の食事をつくる妻は、料理中も景色が眺められることを要望。店舗のテラスと同じ方向にキッチンを配置しました。

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さらに、キッチンの先にある広いバルコニーは、まさにアウトドアリビング!テーブルやハンモックを置き、家族のくつろぎのスペースになっています。
「ここで取る朝食は最高! バルコニーで過ごすと、心に余裕ができます」と妻。

夏には甲府の花火鑑賞する特等席になり、子どもがプールを楽しむスペースにもなっているそう。夫が手塩にかけて育てている野菜畑も一望できます。

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北側から見たダイニングとリビングです。

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2階のワークスペースでは、事務仕事ができるようになっています。

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店舗側からつながる自宅の玄関を1日に何度も通り、オンとオフの区分けなく働く夫と、子育てしながら店舗の手伝いもしている妻。そして、そんな両親の姿を見ながら成長していく子どもたち。
店舗兼用住宅ならではのよさを実感し、満足げに笑顔を浮かべる武井さん夫婦でした。

設計/オンタイムデザインオフィス
撮影 目黒伸宜
※情報は「住まいの設計2017年3-4月号」取材時のものです