様々なジャンルで活躍する方をゲストに迎えて、“すまい”にまつわるお話を伺うこのシリーズ。それぞれのライフスタイルの中で、「家に求めるもの」や「大切にしているもの」を深掘りしていきます。第7回目は、日本のフェレットブームの火点け役でもあり、”怪物館”と名づけた飼育スペースで一時は120種類以上の動物を飼っていた獣医師・野村潤一郎さんが登場。野村さんが考える、動物と快適に暮らせる住まいとは?
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実は「動物」という言い方は嫌いなんです犬は暑がり、猫は寒がり。犬と猫の飼い方は違う!総ガラス張りのモダンなつくりの病院。見栄えより優先したものはとは?理想の家は、新宿に300坪くらいの土地を買って……!?実は「動物」という言い方は嫌いなんです
多いときには120種類以上の動物たちと暮らし、犬や猫はもちろん、フェレット、両生類や魚類までを診療する獣医・野村潤一郎さんは、自らの信条をこう続ける。
「本当は、動くものという意味の『動物』という言葉は嫌いなんです。
英語の『animal』は『anim(生命)』が語源で、命が宿っているものという意味。こちらのほうがいい言葉ですよね」
そう語る野村さんの傍らには彼を”とうちゃん”と慕うドーベルマンのカールくん(オス・8歳)が寄り添う。
親子さながらのたたずまいが微笑ましい。
「一説には犬は世界最古の家畜で、12万5000年前から人間と一緒に暮らしている。
ジャガーやピューマのような野生の獣は檻の中に入れておかないといけないけど、犬と馬ほど人間にフレンドリーな生き物はいません。
つまり人間と一緒に作業をして生きてきたから、意思疎通ができるんです」
実際、カールくんは野村さんの自宅で檻に入れられることもなく、自由気ままに暮らしている。
「犬でも人間と同じように育てればいいんですよ。
『テーブルの上のモノを勝手に食べちゃダメ』『お父さんのカメラをいたずらしちゃダメ』と、人間の子どもと同じように教えれば、ちゃんとわかる。
動物扱いするとダメ。
動物の子どもも人間の子どもも同じで、初めは生存欲だけで生きているけど、親や先輩から教えられて知性や社会性をだんだん身につけていくんですね」
犬は暑がり、猫は寒がり。犬と猫の飼い方は違う!
野村家のリビングでは、犬のカールくんと猫のトラキチくん(オス・8歳)、トラジローくん(オス・8歳)が”同居”している。
代表的なペットである犬と猫の飼い方について野村さんはこう話す。
「犬にとって快適な環境は、暑がりなので涼しくて、広い場所。
一方、猫は寒がりだから、室温29℃に設定してあります。
また、猫は広さではなく、高さが必要。さらに視界が必要なんです。
だから猫にとっていちばんいいのは、エアコンで暖められていて高さがあり、高い位置にある窓から外を見下ろせる場所ですね」
実際にリビングの一角には、猫専用のガラス張りのブースが設けられ、2匹が楽しく遊んでいる。
「犬や猫と一緒に暮らすには、自由にしてあげるのが大前提。
犬は野放しにするべきで、そうしないと犬との楽しい暮らしの1割も味わえません。
アメリカ映画などでは、大型犬が子どもと一緒に寝室やキッチンを駆け回っていますが、あんなイメージですよ。
だから、まずは家や部屋のつくりを複雑にせず、余分なものは置かないことが大事。
犬が踏んだり、ものが落ちてきたりすると危ないですからね」
確かに、リビングはシンプルそのもので、食器棚などの家具や什器は見当たらない。
「犬は長椅子で寝るし、トイレなどは設けず、オシッコもペットシートを1枚置いておくだけ。用足しが済んだらそのまま捨てればいいし、尿が跳ねても床はタイルなので拭けばすぐキレイになる。
部屋をゴチャゴチャさせないのが大事ですね。『この部屋で人間と一緒に暮らしている』と言うと、驚く人が多いけど、テーブルでごはんを食べて、長椅子に犬と一緒に座ってテレビを見てと、普通に暮らしていますよ(笑)」
総ガラス張りのモダンなつくりの病院。見栄えより優先したものはとは?
地上7階、地下1階の野村獣医科Vセンターは、総ガラス張りのモダンなつくりだが、実は見栄えより優先したものがある。
「病院の内装はコンクリートの打ちっ放しで、天井は配管がむき出しだし、床はタイル貼りです。
こうしたのはメンテナンスが容易だから。
動物がオシッコしたり、吐いたりしても掃除がラクで、衛生的に保てる。
床材を敷くと、どうしてもその下にオシッコがしみ込んでしまう。動物を飼うからとウッディな部屋にする人もいますが、臭ったり、虫が湧いたりするのでオススメできません。
この建物は7階建てですが躯体も軽くなり、コストも抑えられました」
理想の家は、新宿に300坪くらいの土地を買って……!?
地下1階には、珍しい魚を入れた水槽が……
動物たちと楽しく快適に暮らすために、合理的に住まいを建てた野村さんが、理想とする家はどのようなものなのだろうか。
「田舎がある人がUターンするのはアリでしょうけど、僕のように代々、東京生まれの東京育ちには、田舎暮らしはムリ。
僕なら新宿に300坪くらいの土地を買って、四方を壁で囲んで、敷地のど真ん中に『ロの字』の平屋の家を建てる。
そして『ロ』の字の中心は中庭にして、動物を放します。
平屋なのは、今まで縦に大きい、高さのある建物を建ててきて、上下の移動が結構億劫になってきたから。
家と壁の間は、いわば空地になるけど、たとえおしゃれな家を敷地目いっぱいに建てたとしても、隣りがおしゃれじゃない家だとブチ壊しじゃないですか(苦笑)。
これなら、隣家からの音や匂いの問題も生じないし、ウチの犬が吠えても大丈夫。
お互いのためのつくりなんですよ(笑)」
野村潤一郎
1961 年、東京都生まれ。獣医師。北里大学獣医学部獣医学科卒業。
野村獣医科Vセンターは、MRIをはじめとする最新医療機器を備え、動物のガン治療や再生医療までを手掛ける。
野村獣医科Vセンター/東京都中野区松ヶ丘2-5-1 TEL:03・3228・0678 http://nomura-v.com/
監修の近著『病気にならない犬の育て方』(宝島社刊)ほか、著書多数。
撮影/水谷綾子
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