一般的にファッション指南といえば、「○○のトレンチコートはマスト」「○○のバッグは使い回しがきく」といったように、オススメのアイテムを挙げる場合が多いでしょう。でも、そうしたアドバイスとは一線を画す方法で、おしゃれのつくり方を教えてくれる人がいます。『わたし史上最高のおしゃれになる!』の著者で元アパレル企業のパタンナー、現在はファッションブロガーの小林直子さんは、まさにそんな人。流行のアイテムを追うのではなくて、「短時間でコーディネートしやすいシンプルなワードローブを持つことを心がけて」と説きます。詳しくお話を伺いました。

小林直子さん
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独自のメソッドでおしゃれのつくり方を教えてくれる小林直子さん

人それぞれのワードローブのつくりかたとは?

 

――本は、どのような人に向けて執筆したのですか?

【小林】 初心者のためのワードローブのつくり方と、おしゃれになるためのヒントを書いたつもりです。女性でも男性でも子どもでも応用できる内容。ワードローブのつくり方、つまり服、バッグ、靴、ベルトなどの小物についてのそろえ方は同じなので、だれが読んでも構わないのです。どんな人でも実践できるようにおしゃれの基礎について書いてあります。

――本を拝見すると、イラスト数点があるのみで、おすすめのスタイルや、おしゃれなバッグや靴についての写真も記述もありません。これはなぜでしょうか?

【小林】 すべての人が同じライフスタイルではありません。年齢も住んでいるところも、仕事のあるなしなど、全部違います。またみんながみんな、同じスタイルが好きというわけでもありませんし、予算も違います。今回お伝えしたかったのは、それぞれの人が自分のなりたいスタイルになるためのワードローブを自分でつくる方法についてです。ですから私がなにかをすすめて、これを買いなさい、着なさいというようなことは書いていないのです。

――自分でやりなさい!ということですね。なんだか難しくて大変そうです。

【小林】 難しいことはありませんが、最初だけは大変かもしれません。それは料理づくりと同じです。なにごとも練習して慣れてくれば、簡単にできるようになります。それに皆さんが毎日の食事を自分でつくるように、服についても自分でできるようになるほうがいいと私は考えています。なぜなら、食べることと同じで、私たちは死ぬまで毎日なにかしら着なければならないからです。なにを着ていいか、なにを買ったらいいかをいちいちだれかに聞くことはできないでしょう? それは毎日の献立をだれか教えてもらって、そのとおりに材料をそろえるのと同じです。でもだれかのおすすめのゴージャスなお料理を毎日食べていたら、お金もかかるし、栄養のバランスも崩れます。同じように、服についてもだれかのおすすめをいちいち買っていたら、いくらお金があってもたりなくなってしまいます。それになにより、いつまでたっても自分でできるようにはなりませんね。

――この本には被服費の予算についても書かれています。給料の手取り額の1割ということですが、これは結構少なくないですか?

【小林】 多いか少ないかはその人の収入によりますね! 多くの人にとって、手取の1割というのは少ないと感じる額でしょうけれども、被服費を使いすぎている人が多いのが現状だと思います。タンスの中はほとんど着ないような服が7割から8割を占めているという方がたくさんいらっしゃるように思えます。これらは買わなくてもよかったものです。そうならないためにも、最初から少なめに予算を決めておいて、お金を使うことはとても大切です。

――そうですね。この本のなかではおしゃれに見せるためには、コーディネート全体を3色以内でおさめる3色ルールについて書かれています。バッグや靴、スカーフなども含めて3色以内ということですが、実際自分の持っているものでコーディネートしてみると、4色や5色にすぐなってしまいます。3色以内でないといけないのでしょうか?

 

3色ルール
ベルト、靴、バッグ、スカートの柄で赤色のリレーションをつくった3色コーディネートの例

【小林】 ガイドラインですから、3色以内でないといけないということはありません。ただ、洋服の世界には3色ルールというものがあって、それを土台にしてから4色、5色と色をたしていきます。ほかの物事と同じように、コーディネートにも基本というものがあるのです。たとえば食事の場合でも、ご飯、おかず、汁ものというように、基本の構成がありますよね。それと同じです。まずご飯、おかず、汁ものを用意して、それから副菜をどうしようか考えますよね。洋服のコーディネートについても、まずは簡単な基本ができるようになってから、なにかプラスするものを考えましょうということです。
実際、多くの人が、洋服の基本については習ったことがないと思います。私たちは習ったことがないにもかかわらず、いきなり難しい料理をつくろうとしているのと同じことをやっているのです。ご飯と簡単なおかずもつくれないのに、いきなり三ツ星レストランで出すような難しい料理にチャレンジしてもうまくいかないのと同じように、洋服の基本ができていないのに、雑誌に載っているようなスタイルをそのまままねしてもうまくいかないでしょう。そしてうまくいかないからどんどん買いたしていく。このループにはまったまま、抜けられない人が大変多いです。

――おしゃれに見えなかったり、次々に新しいものを買ったりするのは、要するに、今まで洋服の基本を習ったこともなく、よく知らなかったからということでしょうか?

【小林】 そのとおりです。まずは基本について学ぶことが大事です。だれもがご飯と簡単なおかずぐらいはつくれるように、洋服の基本もそんなに難しいことはありません。その簡単な基本についてこの本には書いてありますので、新しく学ぶつもりで読んでみるといいと思います。

コーディネートができるようになるとさまざまな効果が実感できる

 

――この本に書かれているワードローブのつくり方についてはもう実際に実践していらっしゃる方がいるんですよね。

【小林】 はい。ファッションレッスンという形で本に書かれているのと同じ方法をずっと教えてきましたので、もうすでに実践している方がたくさんいらっしゃいます。

――では、この本に書かれている方法でワードローブをつくったり、毎日のコーディネートができるようになったりすると、どんな効果がありますか?

【小林】 多くの人から報告があったのは、まず「おしゃれですね」と言われたということです。友達から言われたり、洋服を買いに行って販売員の方に言われたりという報告もたくさんいただきました。

――ショップの販売員さんにおしゃれだと言われるなんてすごいですね。

【小林】 ここに書かれている方法は、たとえば3色ルールにしても、全体のコーディネートの中に同じ色を2点以上配置して関係性をつくるリレーションについても、だれが見てもわかりやすくおしゃれだと感じる方法です。これはたとえばパリコレクションなんかでも、実際に多くのブランドがやっていることなのです。注意深く見ていればわかることなのですが、今まで、3色ルールやリレーションができるようにワードローブをつくっていきましょうという提案をしている本もなかったと思いますから、多くの人が知らなくても当たり前なのです。けれども、この2つの方法は簡単ですし、効果的なので、初心者はまずこの2つができるようになるといいでしょう。

――そのほかにはどんな効果がありますか?

【小林】 もうひとつ多くいただいているのが、お金が節約できたという感想です。被服費が節約できたので貯金できるようになったというお話もいただきました。そして、今までどれだけ無駄な買い物をしていたかよくわかった、もっと早く知っていればよかったのにということを皆さん、おっしゃっています。

――おしゃれに見えて、お金が節約できるというのは多くの人が望んでいることですね。

【小林】 そうだと思います。ファッションに関する仕事をしているのでもない限り、お金をかけずにおしゃれに見えて、余分なものを持たず、洗濯するのも、しまうのも簡単ということが、ごく一般の普通の生活をしている人たちの望みではないでしょうか。そのほかにいただく感想としては、自分にたりないものがわかったのでどんどん買いたさなくなったとか、毎朝、なにを着たらいいか悩む時間が激減したといったことです。

――みんながファッション業界の人ではないのだから、ものすごくおしゃれである必要もないということですね。

【小林】 おしゃれってなんなのと言われたら、やっぱり趣味なんです。それは趣味ですから、すべての人がおしゃれである必要なんてありません。

――本にも、おしゃれをしない自由があると書いてあります。

小林 はい。私たちにはおしゃれをする自由もあるけれども、おしゃれをしない自由もあります。だから、おしゃれじゃないからって、だれかのことをバカにしたり、差別したりしてはいけないと私はいつも言っています。女だからおしゃれじゃなきゃいけないなんて、そんなことはまったくありません。

――ファッションを勉強したり、仕事にしたりしている人が、おしゃれじゃなくてもいいなんて言うのを聞いたことがありません。

【小林】 だれも言っていないでしょうね! 多くの人が今、おしゃれやファッションで苦しんでいます。本当は楽しいはずのおしゃれが苦痛になっている人も多いです。服もバッグもたくさん持っていて、お金もたくさん使ったのにおしゃれにならない。毎日、なにを着ていいかわからない。これは本当に苦痛だと思います。そんなふうになったのも、今までちゃんとおしゃれの基本について学んだことがなかったからです。おしゃれやファッションは人生でいちばん大事なことではないのですから、知らなかったのなら今から学んで、これ以上、着るものに毎日煩わされないようにすればいいと思います。

――おしゃれ初心者向けの本ということですけれども、書かれていることをすべて実践するのはちょっと難しいかなと思ったのですが、どうでしょうか?

【小林】 すべて実践できなくてもまったく問題ありません。ただ知っているのと知らないのとでは全然違いますよね。どうやったらおしゃれに見えるのか、次はなにを買えばいいのか、予算はどうやって設定したらいいのか、試着したらどこをチェックしたらいいか、きちんと見えるにはなにを着たらいいのかなど、事前に知っておけば、たとえ失敗したとしても、次に直せばいいだけです。おしゃれになりたい人だけではなくて、もうこれ以上、洋服のことで煩わされたくない、余計なお金も使いたくないという方も、参考になるのではないでしょうか。毎日の服選びがラクになり、おしゃれの楽しさがわかるようになると思います。