ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第28回は、秋晴れの日に高野山へ出かけた話です。
「そうだ、高野山に行こう」。犬との小さなふたり旅
すべての画像を見る(全13枚)快晴だから、換毛期をむかえた毛並みが気持ちいいから、平日の真昼だから、気分転換したいし秋といえば遠足だとかたくさんの理由が連なって「そうだ、高野山に行こう」と思い立ってしまったが吉日、我ら犬一行(私と犬だけですが)は高野山へ向かった。
犬も一緒についてきてもらうため今回の移動手段は車だが、高野山に行くときは電車での旅路がまたいい。
南海電車で山を分けるように極楽橋駅まで辿り着くと、そこからはケーブルカーに乗り換える。山を登るように斜面をゆっくり上がっていく景色を後尾車両の広い窓に張りついて眺めるのがおもしろい。
昨年2月にも私と犬に加えて、妹と母と友人とで高野山に上った。そのときはスタッドレスタイヤに交換した車で向かった。降雪量が多く、膝の高さまで積もることだってある。そこに太陽の日が射し込むと、目があけられないくらい眩しい。私は雪がしんしんと降り積もった冬の高野山がいちばん好き。
車で走っていたら途中で「ここがスカイツリーと同じ高さです」と書かれた看板が目に入る。こんな山奥で突如出現する東京が不自然でおもしろい。
コロナで海外からの観光客がいないのと紅葉を見るには時期が熟していないのと平日であるのとで空いてはいたが、想像していたよりも閑散とはしていなかった。もう少し秋が深まれば高野山一帯が赤く染まる。
高野山は春の桜、秋の紅葉のシーズンはどこを見ても壮観だ。この日は赤く色づいているところもあるがやはりまだ序盤という印象だったが、それでも綺麗だった。
高野山のマスコットキャラのこうやくんもマスクを着用していた。
奥の院の駐車場に車を止めて、自販機で犬と二人で飲むために水を一本購入。石畳みの参詣道を犬と歩きながら、なにやら心に溜まっていた澱が抜けていくような感覚を覚えていた。
多くの墓石の一つずつを眺めながら、樹齢何十年もしくは何百年なのかという巨樹の杉が空に伸びていくなかを歩いていて、自然と生き死にについて思いが巡る。
先日、「犬が亡くなったときに悲しいから犬を迎えられない」と友人が話していて、SNSやメディアでそんな風に考える人もいるとは知っていたが、人から話を聞くと改めて考えてしまった。
それに対して「大丈夫。迎えよう」なんて友人にも犬にも無責任な態度は取れないし、人間の数だけ考え方がある。だが、私は犬が亡くなったときに悲しみや苦痛がやってこようとも、それよりも現在犬と生きているなかで得ていくものと失うものを尊重したい。
私は本回覧板で記憶装置としても写真を撮っていると書いたが、最近考え方が少し変わった。
もし写真が残らなくとも、犬の毛並みの肌触りが思い出せなくても、過ごした時間そのものがなかったことには決してならないのだと。実存したという事実はあまりにも強く、証明できなくたってなかったことにならない。
思いつきの遠出なんて珍しいことをして疲れてしまい、大門から眺める絶景の夕焼けを待てずに帰宅してしまった。是非よければ「大門 夕焼け」で検索をかけてください。
身体は疲れたけれど、気持ちが満たされた秋の遠足となった。
この連載が本
『inubot回覧板』(扶桑社刊)になりました。第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。
【写真・文/北田瑞絵】
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント
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