ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第27回は、家業でもある柿の収穫の話です。
柿の木陰から日なたへと、犬はまっすぐ駆けてゆく
農業は重労働だとつくづく思う。
平種なし柿の収穫が始まり、両親もよその畑も、朝早くから日が沈むまで収穫している。
近所には80代でも畑で農仕事をしている方も多く、いつも母が「○○さんはすごい」とか「えらいなぁ」と表敬しているが、いやいやあなたもよ? すごいよと思っているままを告げたら、私はまだまだや! と突っぱねられた。うちは皆頑固だ、犬に似たのかもしれない。
今年からは父が農仕事に加わるようになって、母と一緒に畑に行っている。これまでも休日に手伝ったりしていたが三月に定年退職をしてから本格参入となった。
父は自らを新人と称し母から農作業のいろはを教わっている。
ある昼下がり、私も柿が実っている様子が気になって、犬とともに収穫中の畑に行ってきた。畑に近づくにつれ音楽が聞こえてきた、あいみょんだった。
昔から母は畑仕事の間はラジオを流していて、「ドッキリ! ハッキリ! 三代澤康司です」のヘビーリスナーだ。
畑では早々に赤い色味がついた柿と、これから色づいてくる青い柿とがあって、それでも全体が赤く染まっているように見えた。9月下旬から空気が冷えるようになって急に色づいてきたらしい。
収穫を迎えた実を見定めながら、一個ずつハサミで柿の軸を切って優しく「てかんご」へと入れていく。てかんごってなんぞやと疑問が浮かぶかもしれませんがカゴのことです。カゴよりも長くなるのに、てかんごって呼ぶのも昔から。
そして一杯になったらコンテナへと並べていく、というのを繰り返す。体力も気力も丈夫でないと務まらないだろう。コンテナに並べられた柿は美しく、見飽きることがないのだ。
畑に着くとすぐに犬は母めがけて突進し、母のそばで収穫作業を眺めていた。母は「ここほれワンワンってこの木だワンワンって赤なってるところを教えてくれたらなぁ」なんて犬に笑いかけていた。
たまに母の足に掴まって邪魔もしたが、脚立に上り下りしているときは距離をとってじっとしていたので、タイミングは計っているようだ。
母が腰を下ろすと、休憩か?! と言わんばかりに、飛びついていた。母と父に囲まれた犬は、ふたり分のなでられる手を受け止めながら、伸びるように草っぱらに寝転んだ。
少しして、二人が収穫を再開すると犬も活動モードに突入した。剪定されて落ちている木の枝をくわえてぶんぶん振り回したり、投げてと促すように私のもとに枝を持ってきたり…
そんなふうに遊んでいたと思えば急に般若のような面構えで土を掘りはじめてせわしない。
次は葉っぱにとまっている蝶々をめざとく見つけては、蝶々に向かって背伸びをしてみるも、かわされるように遠くへ飛んでいってしまった。
柿の木陰から日なたへと駆けてゆく犬を見たときに、光が似合う子やなぁと感じた。ときおり犬があまりに目映いため心臓のあたりに鈍痛が走って苦しい。
犬は光の中が似合う。うちの柿はおいしい。この二つだけは胸をはって断言できる。
この連載が本
『inubot回覧板』(扶桑社刊)になりました。第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。
【写真・文/北田瑞絵】
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント
@inu_10kgを運営