ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第26回は、妹と、自炊写真と犬の写真を交換し合う、夜のやりとりの話です。
一人暮らしの妹とLINEのやりとり。さみしかったわけではなくて…
すべての画像を見る(全14枚)24時間365日マナーモードにしている携帯は音を立てずに画面の明るさだけでメッセージの受信を主張している。部屋には携帯と私と犬が点々に散らばるように転がっており、つけっぱなしにしていたテレビでは金曜ロードショーが始まっていた。
寝ながら上体だけ浮かして携帯を見れば、いつもの犬が伸びをしている待ち受け上に「犬の写真送って」という一行が表示されている。送信者は、東京で一人暮らしをしている妹だ。
手を伸ばして携帯を取ると、やはり寝ながらミミズのようにずっずっと犬のそばまで移動していく。テレビではまっくろくろすけが俊敏な動きでサツキとメイから身を隠して、えらいなあと感心する。
浅い眠りについていた犬はわずかに目を開いて近寄ってきた私を見やると、再び目を閉じた。寝息で己のヒゲを震わせている犬を眺めていたら目的を忘れそうだった。
とくによろしい角度を探して写真を撮ると、妹に送ります。既読がすぐにつくと一拍あいて「かわいい」と返事がきて、また一拍あいて妹の晩ご飯の写真がきたので、写真はタップせず「おいしそう」と返す。
「火使う料理めんどい」
「自炊してえらいのう」
「うむ」
妹とそんなメッセージのラリーをしながら、犬の寝息に耳をすましていた。妹にも聞いてほしくて犬の寝息の動画を「よお寝とる」という言葉とともに送れば、「ええこっちゃ」というメッセージと缶ビールの写真が届いた。
妹は一人で食事をしているときに、犬の写真をせがむ。それが毎日、高頻度で続くこともあれば、ぱたりとやむこともある。
その都度撮っては送り、もしくは撮れなければカメラロールから近日のお気に入りを送るのが習慣化している。
ただし妹もinubotのフォロワーであるため、SNSに載せた写真だと「もう見たなぁ」と指摘を受けるのだ。
犬の写真を送ったあとには、妹が食べているご飯が送られてくる。LINEの画面に、犬の写真、妹の食事風景が縦に並ぶまでがワンセット。スーパーやコンビニの惣菜もあれば、自炊しているときもある。
妹のこの行動の真意は孤食が寂しいからだと思っていたけれど、本人に問うたら、見当違いもいいところだと一蹴されてしまった。
「ちゃうよ」
「じゃあ、なんで」
「犬ちゃん元気しとるかなーって気になるからよ」
「そうなん、寂しいんとちゃうんや」
「はい」
そうか犬は元気よ、と返事を打つ代わりに夏を満喫しているとびきり快調そうな写真を送れば、「よかった」というメッセージとギョーザの写真が届いた。あんたも元気そうでよかった。いつでも呼んでくれたら犬の写真を食卓に飾るから、たんとお食べ。
今年はなかなかどこにも行けないが、外出先での孤食が年々苦痛になってきて、しのげそうならガムを噛んでいる。しかしいよいよ食べねばならぬ状態になれば、机の上に携帯を置いて(行儀悪いね)ツイッターのinubotを遡りながら食事を摂っている。過去の自分がアップロードした犬の写真はツボを突くものばかりで有り難いです。
この連載が本
『inubot回覧板』(扶桑社刊)になりました。第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。
【写真・文/北田瑞絵】
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント
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