都心からのアクセスのよさと豊かな自然が人気で、近年移住者が増えている東京都青梅市。この地に移住して、無垢の木を使ったナチュラルな住まいに暮らす2組の家族を取材しました。移住のきっかけや、住まい、実際に暮らして感じる魅力について詳しく紹介します。
Case1:ひとめぼれした山のふもとの土地に家を建てる
●家族構成:夫、妻、長男 都心から移住
緑の木々を背景にして静かにたたずむ木の家。大きな屋根が印象的なこの家に住むのは、秋山敬二さんと、真希さんご夫妻です。
仕事が多忙で、東京都西部のまちで職住近接のアパート住まいだったというおふたりが、ゆくゆくは家を…と考えていたときに、たまたま訪れた住宅展示場で出合ったのがこの家でした。
「ひとめぼれして、すぐに契約してしまいました(笑)」と敬二さん。この家に合うロケーションは「自然豊かな環境」と考え、ふたりで最適な場所はないかと埼玉県飯能市周辺や東京都多摩地区を見て回ったそうです。そして家に続いて、またまたひとめぼれしたのが青梅でした。
「緑の色が違ったんです」と敬二さん。「みずみずしくて新鮮で。ほかのどこよりも」と真希さんも声をそろえます。穏やかな山並みが続く青梅丘陵のふもと、という緑を楽しむのにうってつけの土地を確保し、2013年に家が完成しました。
●ぬくもりあるリビングでゆったりとした時間を楽しむ
周囲の景観にもしっくりなじむ家の玄関を開けると、重厚な木の質感、そして天井の登り梁が空間に力強さを生み出すリビングが広がります。
南向きの窓から降り注ぐ日差しと、格子から差し込む淡い光がナチュラルな温かみを添えて、時間がゆっくり流れていきます。
そして、この家の大きな存在は「身も心も温まる」とおふたりが語る薪ストーブ。「子どもの頃から火を見ているのが好きだったので、どうしても置きたかったんです」と敬二さん。「正解でした。温かさの質が違います」。真希さんも「足元だけではなく、全体がほわっと温まります。温かさが優しいですね」と語ります。
●室内を彩るアンティークのインテリア
そんな空間を彩るのは中近東やアジアのインテリア、アンティークのアイテムです。じつは、このテイストにたどり着くまで紆余曲折があったそう。
「当初は、シンプルで上質な木の家具でそろえればいいかな、と思っていましたが、どうもマッチしなかったんです」と敬二さん。
家になじむものを選びたい、と試行錯誤するうちに、もともと真希さんが好きだったトライバルラグ(手織りのじゅうたん)をひいてみたところ、驚くほどしっくりなじんだのだそう。
織り手の温もりを感じる、鮮やかな配色が美しい、中央アジアの国々のじゅうたん、100年という時を刻み、皮を張り替えて使い続けられたイス。
真希さんのお気に入りは、タイとインドのイスに、中央アジアのカザフ族の刺繍の第一人者、アイナグルさんの手がけたマット(スルマック)を敷いたもの。「手仕事ならではのゆらぎがあるものが、この家には似合う気がします」と真希さん。
●キッチンはアジアンな雑貨で統一感を出す
リビングに続くキッチンも、木目にシックな藍色のタイルがなじんだ、どこか懐かしい、落ち着きのある空間。こちらもインドの木版更紗「アジュクラ」のショールをカーテンにしたアンティークの食器棚や、アジア各地のカゴが穏やかで、心地よい雰囲気を醸し出しています。
吹き抜けに面したロフトは、天窓から光が差し込む居心地のよい空間。クローゼットとして使っているのは、パキスタンのスワット家具。素朴で力強い手彫りの彫刻が印象的です。
春には山桜が満開になる並木道を臨める窓には、インドネシア製のデスクをそなえ、敬二さんの勉強スペースとして使用。「お気に入りの場所です。遠くに東京スカイツリーも見えるんですよ」と敬二さん。
壁にかかっているのは、インドの手描きショール。青梅市でインドや中央アジアを中心に伝統的な製法の生地を使ったアイテムを制作している「KANNOTEXTILE」で購入したものです。
みんながあいさつしてくれる子育てしやすいまち
真希さんのお気に入りは、格子窓の前。「朝、薪を運ぶときに朝日を見て、そのあと格子窓の前のイスでゆっくりお茶をするひとときが好きですね」
この家に住み始めてから誕生した、息子の連多郎くんにお気に入りを訪ねると「全部、好き!」と即答!
「子育てには、青梅がとてもよかったと思います」と真希さん。「自然が多くて遊ばせやすいですし、青梅の皆さんは温かい。みなさんが声をかけてかわいがってくださいます。そしてたくさんの方があいさつしてくださる。こんなにあいさつがあるまちに住んだことはありません。安心感があるし、うれしいですね」。
「青梅大祭、だるま市など、昔から続く地域のお祭りが多いのも青梅の魅力です」と敬二さん。
訪問 看護事業の経営者である敬二さんは「ご年配のお客様に、住むなら歴史のあるまちを選びなさい」といわれていたそう。「その言葉の意味を実感しています」。
この家に住んで10年。リビングのつるつるだった床は、連多郎くんが走り回ったり、愛猫・グリとレオがガリガリ削ったりするうちにアンティークのような味わい深い雰囲気になりました。
ひとつひとつ、しっくりなじむインテリアをそろえた家は「本当に『帰りたくなる家』ですね」と敬二さん。横で真希さんもうなずきます。
ひとめぼれした家と青梅で育まれた空間は、秋山家の健やかな足場になっているようでした。
Case2:都心から移住して薪ストーブのある家に暮らす
●家族構成:夫、妻、長女、二女
青梅駅から奥多摩駅へ向かう鉄道の駅を降り立ち、多摩川上流を臨みながらしばらく歩くと、のどかな里山が広がります。
そんな風景のなかに建つ、四角い箱型が印象的なお宅。山野裕行さん、悦子さんご夫妻が建てた家です。
もともとは、商店街のあるにぎやかなまちに住みたい、と東京の中野区で暮らしていたご夫妻。有名な建築家に依頼し、こだわりつくした一軒家を建てたにもかかわらず、ずっと悦子さんが憧れていたことがありました。
それは、薪ストーブがある家。「さすがにまちなかの中野ではムリ。あきらめて、都心の生活を楽しんでいました」と悦子さん。けれど中野に住んで10年が過ぎた頃、夫婦の想いは変わってきました。
「都会暮らしも十分経験したし、郊外の自然があるところに住むのもいいんじゃないかと思ったんです」と裕行さん。「家族そろって、田舎暮らしのほうが子どもたちにとってもいい経験になる気がして。長女が高校3年、次女が中学1年になるタイミングで引っ越しを決断しました」と悦子さんが続けます。
●ログハウスに似合う土地探し
薪ストーブに合う家として選んだのは、ログハウスメーカーが手がけた住まい。以前悦子さんが、住宅展示場で「すてき!」と心に残っていた、箱型スタイルの家を購入することになりました。
続いて、2階に設置するピクチャーウィンドウからの眺めが楽しめる、土地探し。
「外の景色を絵のように枠取りするために設けられた窓からの風景は、絶対に譲れない条件。更地だったこの場所の草むらをかき分け、超ロングの自撮り棒にカメラを取りつけて確認しました(笑)」と悦子さん。努力のかいあって、山の稜線を臨める場所を青梅で見つけることができました。
●天然無垢のリビングはにぎやかな雰囲気に
エントランスを入ると、天然の無垢材をいかしたシンプルなリビングは、壁も床もすべて木の温もりある空間。1階も2階も基本的にまったく仕切りがなく、ひとつながりになったのびやかなレイアウトです。「どこにいても、家族の気配が感じられる家にしたい」という悦子さんの希望にマッチしたつくりでした。
リビングは、オモチャ箱のように、にぎやか。「かわいいパッケージ、カゴ、時計、レトロなグッズが大好きなんです」という悦子さんのお気に入りがズラリ。
そして飾られている棚は、DIYが得意な裕行さんお手製。「もうちょっと減ってくれてもいいと思うんですけどね」といいながらニコニコ笑う裕行さん。
リビングはときに、リース講師でもある悦子さんの工房にもなります。花材や木の実、つるがあちこちに置かれていても、木の懐の広さでまるでインテリアのよう。しっくり溶け込んでいます。
家族が食卓を囲むテーブルに設えた、食器棚も裕行さんによるもの。「器やグラスが取り出しやすく、重宝しています」と悦子さん。
「壁の色はグリーンにしたい」という悦子さんのリクエストに応えて、ペンキ塗りは2人で手がけたそう。まるで夫婦合作のミュージアムのようなリビングは、家族の笑顔が絶えない明るい空間です。
●カフェで提供するメニューを考案する明るいキッチン
自宅サロンと中野でレンタルカフェも営む悦子さんにとって、キッチンは大切な場所。正面とサイドから光が差し込み、清潔感のある白い壁のキッチンは得意のフレンチやスイーツに腕を振るい、新たなメニューを試作する大好きな場所でもあります。
鍋やフライパン、調理道具を使いやすく機能的に整えるとともに、飾り窓にはハーブなどをグラスに入れて並べて楽しんでいます。「青梅は農業も盛ん。とくに、青梅市で西洋野菜やハーブなどを栽培する農園『lala farm table』のファンです」
●念願の薪ストーブに家族も大満足
玄関横の土間に設えた念願の薪ストーブは、家族全員にとって、想像以上に素晴らしいものだったようです。「火を見ているのもほっとするし、体の芯から温まります」と裕行さん。「薪ストーブでつくった煮込みやシチュー、ピザやグラタン、パイ…。とってもおいしいですよ」と悦子さんも満足げに語ります。
火をつけるのは裕行さんが担当。朝5時に起きて、薪をくべて、「次第に温かくなってきたなというときが、至福の幸せです」と裕行さん。今では、週末、薪を集め、薪を割る作業も楽しくて仕方ないのだそうです。
「寝るのが趣味(笑)」という長女も、「薪ストーブの前で、うとうとしているのが大好き」と語ります。
そして、悦子さんにとって、薪ストーブは新たな活動のきっかけにもなりました。「シマーポット」との出会いです。
シマーポットとは鍋にハーブやスパイス、フルーツなどを水とともに煮込んで、蒸気とともに上がる香りを楽しむもの。薪ストーブの上に置いておくと、次第にやわらかく香りが部屋いっぱいに広がっていきます。悦子さんは、最近日本でも数少ないシマーポット教室を開催。人気を博しています。
この日は、青梅で多くとれたいただきもののユズ、庭のローズマリー、スターアニス、シナモン、クランベリーを使用。
2階は、クロスで空間を仕切り、家族それぞれの空間に設えています。そしてこだわりにこだわった「ピクチャーウィンドウ」も2階の大切な場所。窓枠が切り取った景色は毎日の楽しみです。
青梅に移住して新しい仕事にチャレンジ
窓からの風景だけではなく、おふたりとも青梅の自然を存分に楽しんでいます。クルマが趣味の裕行さんは、奥多摩方面へドライブに。「中野からだと、行きも帰りも渋滞を逃れられませんが、ここなら、ふらっと行って帰ってこれるのがうれしいですね」
仕事でバイクに乗る機会が多い悦子さんも「サイドミラーに移る景色を見るのが楽しくて。木々の緑、紅葉、川のせせらぎ…。お気に入りの場所もたくさん増えました」と、うれしそう。
じつは悦子さんはカフェ運営も、リース講師も、青梅に来てから新たにチャレンジしたこと。「澄んだ空気と、ゆったりした時間のなかで、やりたいことに一歩踏み出してみよう、という気持ちになれたんです。ずっと夢だったことも実現できたし、いつも気にしてくださる優しい青梅の方々が活動を支えてくださいました。ありがたいです」
都心ではできなかった体験とともに、家族それぞれの宝物が増えて、ドアを開けるたびに「ワクワクする玉手箱」のような、楽しいおうちになっていきそうです。
古民家のうどん屋さんをリノベする「青梅市わがままライフコンテスト2024」開催
秋山さん、山野さん家族が暮らす青梅市では、遊休地や空き家を活用するリノベーションコンテストを開催します。今回は、市内にある築90年の古民家で営業中のうどん屋さんを、心地よい人間関係が築ける交流拠点にリノベするアイデアを募集。
「わがままライフ」×「交流拠点」をテーマにしたこのコンテスト。「青梅でこんな暮らしをしたい」という夢があふれる、さまざまな人と交流できる場所づくりのアイデアを求めています。年齢や資格などの応募条件はないので、だれでも参加可能。簡単なスケッチでも応募できるので、ぜひ参加してください。
問い合わせ先/青梅市わがままライフコンテスト事務局
ome.wagamamalifecontest2024@gmail.com