ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている
@inubot。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第10回は、春の訪れを犬と見つける日々のこと。
醒めないでほしい、夢のような春の昼下がり
すべての画像を見る(全15枚)2019年3月21日
外では春一番が吹き荒れて強い風が窓を叩く。
弱に設定したコタツで大の字の姿で横になってから2時間は経過していて、体とクッションの境目が曖昧になってきた。
犬はコタツ布団の上に寝転べば、私の右腕を枕にしながら規則的な寝息を立てている。呼吸とともに小さく上下する体を起こさないようになでれば、春本番を間近にした冬毛は繰り返しなでるだけでも抜けていき、指の間には毛がたまる。
冬と夏の毛並みは見た目も毛質もまったく違うのだが、冬毛は抜けたあともやわらかくて、集めれば綿のようにふかふかとしている。
どんな夢を見ているのだろう。犬が一度目を覚ましてバッと勢いよく顔を上げると、連動して私の右腕が軽くなった。そして上体を起こしたまま一点をしばらくじっと見つめていたが、ふたたび右腕に沈むように返ってきた。眠たそうに重たいまばたきを二、三度繰り返して、もう一度おやすみなさい。
犬が頭を起こせば私の腕は軽くなり、下ろせば重たい。当たり前で、単純なたし引きだが、この歓びの替えになるものはどこにもない。
外では春一番が吹き荒れて強い風が窓を叩き、守られた部屋の中で眠りについた私たち。醒めないでほしい夢のような昼下がりだった。
「春を見つけに行こう」
冬の名残が残っている3月初旬、母から心がはずむ誘いを受けた。いつもの散歩バッグに、暖かいから水も忘れずに持って行こう。
散歩バッグとリードを持って外に出れば、庭でまったりしていた犬はそれを見るや否や飛び起きて伸びをした。暖かくなってきて、犬が庭で過ごすようになったけれど、家の中と同じように快適な場所を見つけて過ごしている。
犬はいつだってパワフルで頼もしいけれど、陽だまりのなかで活気を帯びているようだ。そんな犬を見ていると暖かくなってよかったなぁと思えて、改めて春のいいところを再発見した。
山に行くと梅やサクランボの木が花を咲かせていた。母は父と育てているサクランボの木から枝を少し切って、玄関に生けてくれた。
小さな頃から母は生活の中に四季折々の花を添えてくれる。
犬は花を見たらいつも熱心に匂いを嗅いでいる。私はというと最近は花を目で見て写真を撮ることで愛でていた。この春は犬を見習って、嗅覚も視覚も五感を働かせて花に触れたい。だけど花の中には犬にとって毒になる種類もあるというので、そこは気をつけなければいけない。
鳥が鳴く先を犬が見上げている。山にいるとあちこちに春の蕾が膨らんでいるのを感じた、蕾が開いたらどんな花が咲いたのかまた見に来よう。
【写真・文/北田瑞絵】
1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント
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