作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。二拠点生活のひとつ、愛媛で農業をしている高橋さんに、チームメイトとの会話で感じたことをつづってくれました。

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第111回「ポジティブな人、ネガティブな人」

暮らしっく
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地元の愛媛でやっている畑のチームに、さまざまな若者が集ってくれている。こういう活動に参加してくれるという時点で、基本的にみんな前向きで明るい方だ。よく喋る人、おとなしい人、いいパンチラインを入れてくる子、様々だ。農作業だけでなく、深く関わっていくうちに、それぞれが抱えるコンプレックスとか悩みについて一緒に愚痴ったりする時間も増えてきた。

人に心の柔らかい部分を見せることで共感しあったり安心できたりするので、ある程度までは共に愚痴っていいと思うのだ。

畑が終わったあと、うちでごはんを食べてコーヒーを飲んで、畑以外の近況を話していると、

「ああ、私にはこういう雑談の時間が必要だったんだ」

と一人の子が言った。

一人暮らしをしていると、確かに、なんでもない話をすることが少なくなる。こういうなんでもない話で自分がまとまっていったりする。私も東京に帰れば、一人でごはんを食べることの方が多い。私はそれも気楽でいいなと思う。わりと一人が平気なタイプなのだ。自分のためにとびきり美味しいものを作るし、美味しいものは一人で食べても美味しい。でも、美味しいねと言い合えるのはもっと幸せだとも思う。

●ポジティブな子との会話に学んだこと

そんななか、畑に新しい子が入ってきた。彼は、スーパーポジティブで、周囲も一緒に明るい気持ちになれるような人だった。私はどちらかというとネガティブの部類に入るから、彼の出現に目を見張った。

とてもよく喋る。よく喋る人って、自分のことばかり喋る人が多い。彼も自分のことを喋るんだけど、自慢話とかでなくて、みんなに共通の話をする。

農業仲間と

例えば今日は、

「僕、歯をすごく大事にしてるんですよ」

「ほう。どのくらい?」

「三か月に一回検診に行ってるんです」

ほうほう。話題が50代みたいだが、これはどの方向に進んでいくんだろう。

「人間の病気の第一位って何かわかります?」

「虫歯?」

「いいえ、歯周病なんだそうです。あれって最終的に歯がなくなるでしょう? そうすると、認知症になる割合がぐんと上がるんですって」

「ほうほう」

「僕、健康で長生きしたいんですよねえ」

そりゃあそうだ。私だって痛みなく長生きしたい。

「なんで長生きしたいかって考えたとき、僕はいっぱい楽しい思い出を作りたいからなんです」

「ほほー!」

長生きするために何かをしているというのはよく聞くけど、長生きしたい理由を言う人に初めて会ったかもしれない。だから、歯を大切にしているだなんて、一生続く目標だ。

そして彼は口癖のように

「今日もいい日だなあ」

と言う。「出た!」と私は笑う。

畑でみんなでおにぎりを食べると、

「おにぎりも美味しいですけど、みんなで畑で食べるから2倍美味しいですよね」

とも言う。ピュアすぎるわー! でも、心の底から思っているからこそ言えるんだねえ。

20代後半でどうしてこの境地にまで行き着いたのか…もしかしたらとても大変な経験があるのかもしれないけれど、それは尋ねず、私達は彼の「今日もいい日だなあ」に素直に癒やされるのだった。

しんどい時期や体調の優れなかった日を思うと、特別でない今日は本当にいい日だった。太陽の下、誰かと一緒にごはんを食べることの幸せを噛みしめ、感謝する。彼の何気ない言葉で細やかな幸せや感謝の心に気づいたのだった。