作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセイ。今回は、そろそろ梅の季節が近づいてきましたが、青梅の今の季節だから味わえる「梅肉エキス」についてつづってくれました。

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第98回「体しゃきっと梅肉エキス!」

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急に暑くなったかと思えば、雨が降ってどかんと冷えこんだりと心身ともに不安定な季節ですねえ。愛媛から東京に帰って(現在2拠点生活中)きて、しばらくは体調を壊してしまっていたけれど、そろそろ梅の季節だなあ、いやまだちょっと早いかなと、いつもの道を歩いていたら…おお、道に2、3梅が転がっておるではないか。

梅

まだカチカチの青梅だった。この時季、風雨で熟していない梅が落ちていることも多い。でも、やっぱり拾ってしまう梅子(初夏の私のことです)なのであった。

持ち帰り、半分はゆっくりと氷砂糖を溶かしながらエキスを引き出す梅シロップにした。残りはどうしようかな。梅干しにするにはカリカリで美味しくないしねえ。

●おばあちゃん直伝の梅肉エキスを思い出す

そうだ、前から試してみたかった梅肉エキスを作ってみようかな。子どもの頃、おばあちゃんが作ってくれた青梅の汁を煮込んだ漢方薬だ。

青梅はそのまま食べたらお腹を壊すけれど、その汁を煮込んで作った「梅肉エキス」には殺菌作用があり、逆に腹下しや腹痛に効くといわれている。子どもの頃から、お腹の調子の悪い朝は耳かきにいっぱい、真っ黒ですっぱいエキスを舐めたのを思い出す。

大学で一人暮らしをはじめたときも、東京へ出てきたときもおばあちゃんの梅肉エキスは常備薬兼お守りとして救急箱に入れていた。

自分でも作れると知っていたけれど、作り方が面倒だと母から聞いていたので、ずっと躊躇していた。ようし今年はこの青梅で梅肉エキスを作ってみるぞ。

●梅エキスのつくり方

おろしがね

まずは、おろし金で青梅をおろしていく。金属品だと梅の酸でとけるかもしれないのでなるべく陶器か樹脂で作られたおろし金を使いましょう。また、酸がきついので、ゴム手袋を着用してください。
ひたすら梅をおろす。なんて地味な作業だろう。大根などに比べて梅が小さいので滑ってとてもやりにくい。後で知ったんだけれど、種を残して実をカットし、フードプロセッサーにかけると、あっという間らしい。私は地道に一つずつすり下ろした。腕力が尽きそうだよ。

しぼる

まだあるけどもう無理! 諦めたところで、土鍋を取り出しすり下ろした青梅を手ぬぐいに包んでぎゅーっと汁を搾る。繊維の隙間からぽちぽちと緑色の液体が滴り落ちる。お皿いっぱいの梅をおろしたというのに、たったこれだけ!! 唖然とする。おばあちゃんは夜な夜な孫のためにこの面倒な作業をしていたのだな。私達が舐めていた梅肉エキスは、おばあちゃんの私達への思いそのものだったんだ。

ちなみに、この梅肉エキスはほぼ賞味期限がなく(あまりに酸がすごいので腐ることがないみたい)おばあちゃんがずっと昔に作ってくれたものを未だに舐めていたりする。

よくお腹が痛くなる甥っ子や、夫にも、おばあちゃんがしてくれていたみたいに、願掛けも含めて私の作った梅肉エキスを舐めてもらおうじゃないか。

くたくたに煮込む

土鍋の底に薄っすらとたまった青梅の汁、香りは桃のようだけれど舐めてみると飛び上がるほど酸っぱかった。これをクツクツと煮詰めていく。しゃもじで円を描くように、鍋底を回していると、すぐにぶくぶくと沸騰してきた。美しい黄緑色がやがてうぐいす色になり黒っぽくなり水飴状になっていく。

これ以上煮詰めると焦げてしまう! という手前で火を止めた。よくある真っ黒のエキスにはならなかったけれど、味は、おおー。おばあちゃんのと同じくらい酸っぱくて芳しいから大成功ということにしましょう。しかし…なんと、しゃもじの先に一杯しかできなかった。これは、自分で舐めて終わりかもしれんなあ。

梅が黄色くなったら駄目なのだそうで、青梅が落ちるのは今の季節だけ。もう一回拾いにいって、もう少しトライしてみようかなあ。でも…次はフードプロセッサーを出動させようかしらねえ。もうじき梅雨の季節、梅肉エキスを毎朝舐めて、しゃきっと過ごしたなと思う。

 

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